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第百五話 連邦の成立

【登場人物】

ジュード 主人公 英雄王ジークの転生体 〈勇者〉

ジーク かつてジョルジアを治めた英雄王 〈勇者〉

マリリア ジュードに降った神帝の妃 〈聖者〉

マルグリット ジークの第一王妃、既に故人

シンシア ジークの第二王妃、既に故人 〈聖者〉

フレミア マリリアの元侍女でジュードの付き人

ユリシス 市井に埋もれていた政治学者

ジュードが帝国に支配されていた旧ゲイルズカーマイン地域を解放し、続いて旧ジョルジアの王都攻略へと取り掛かっていたのと同時期、スーベニアとカーマインも含めた大陸東部の統治機構についての議論が活発化していた。ジョルジア、ゲイルズ、及び周辺の小国は帝国によって王族が(ことごと)く斬首され、王を頂点とした統治機構が機能しなくなっている為だった。この問題に対しては、ジュードがハルザンド東部で蜂起(ほうき)した際にいち早く駆け付けたユリシスという若い政治学者がジュードの代理として議論を進めた。


この大陸の古来からの慣習に従えば、統治者のいない地域の扱いはそこを手に入れた者が決めて良い。この慣習に従えばジュードに決める権利があり、望めばジュード自身が王になる事も可能だった。しかしジュードは王になる事を拒否し、各地の王族と血縁関係がある家から相応(ふさわ)しい者を選ぶよう指示した。例えばジョルジアであれば、貴族家として独立していた為に斬首を免れていた英雄王ジークと聖者シンシアの長男が王候補となり、彼を中心にジョルジアの統治機構の建て直しが図られていった。


「これまでの国毎の統治機構では帝国の脅威に立ち向かえません。ジュード様の元で統一国家とするべきではないでしょうか?」


「言いたい事は分かる。だが俺は各地の歴史、文化、人々の繋がりなんかを尊重したい。統一によってそれらを壊したくないんだ。」


「ではせめて国家間の政策・軍事面での連携の枠組みだけでも見直しましょう。」


「そうだな、その辺りはユリシスに任せる。」


ユリシスが進めたのは連邦制の導入だった。ジョルジア、ゲイルズ、カーマインなどの主要国の自治独立はそのままに、各国から選任された者が参加する連邦政府および連邦議会を設立、またその下部組織として連邦軍を新設した。これらの組織は将来的に連邦全体に係わる課題を担う事になるが、特に設立初期に於いては対外脅威、具体的には帝国への軍事行動やそれに伴う国家間の調整が主な役割となる。ユリシスは連邦議会の議長および連邦軍の最高司令官にジュードを推薦した。


「これでは、見方によってはジュード殿の独裁体制だな。」


「その指摘は正しくありません。連邦政府および議会には各国の内政に口を出す権限はありません。それに連邦政府および議会の参加者は各国によって選任された人達です。ジュード様が独断で何か出来る訳ではありません。」


「それでも意思決定機関である議会の議長と軍事力そのものである連邦軍の最高司令官を同じ人間が兼任する事は問題ではないかな?」


「全く問題ありません。むしろ帝国の脅威に(さら)されている現状に()いては、意思決定と行動の不一致が命取りとなりかねません。加えて申すならば、どちらの役職も、英雄王の再来として民衆から圧倒的な支持を受けているジュード様の他に適任者はいません。それとも各国の王政を(はい)してジュード様を皇帝とする統一国家を目指しましょうか? 個人的にはそちらの方が堅実だろうと思っています。」


「わっ、わかった。一先ず帝国の脅威が去るまではジュード殿の兼任に同意する。」


「では決まりですね。」


実際問題としてカーマイン以外の国王はジュードの助けがあって王位に推戴(すいたい)されたにすぎない。ジュードに梯子(はしご)を外されると、国民からの支持を一気に失う恐れがある。国王達の側は、思いがけず手にした王位を手放するくらいなら、(わず)かばかり妥協して王位を維持した方が良いという損得勘定があった。一方のユリシスは、やはりジュードを頂点とした統一国家が今は最善と思いつつも、ジュード本人がその気にならない以上、連邦制の仮面を(かぶ)りつつジュードに権限を集約する事で妥協するしかなかった。


この連邦の名前は各国の名前を並べただけの面白みのないものだったので、人々は東方連邦、あるいは単に連邦と呼んだ。


尚、宗教国家であるスーベニア神聖国はこの連邦に参加せず、表向きは連邦と軍事同盟条約を結んだ。しかし実態としてスーベニア国軍はジュードの指揮下に入っていた。アルムヘイグ戦を指揮したクリスが実質的にはスーベニア国軍を率いており、そのクリスがジュードに従っている為だった。


ーーーーーーーーーー


ジュードが解放した都市の屋敷の一室でマリリアとフレミアが話をしていた。


「シンシア様のご長男がジョルジア王となられたので、マルグリット様の血筋であるマリリアが子を授かったとしても、その子が王になるのは難しいでしょうね。」


「えぇ、その通りです。ですが私はもう表に立てる立場ではありませんし、私の子がジョルジア王になる道は初めから存在しないのです。ジュードがシンシア様の血筋に王家を任せたのは正しい判断だったと思います。それに私はフレミアさんがジュードに接する姿を見て思い出したのです。かつて私が心から願ったのはジュードをいつまでも支え続ける事だったと。王家など関係ありません。」


そう言うとマリリアは優しく微笑んだ。

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