第百四話 静かな夜に
【登場人物】
ジュード 主人公 英雄王ジークの転生体 〈勇者〉
マリリア ジュードに降った神帝の妃 〈聖者〉
フレミア 元はマリリアの侍女でジュードの付き人
旧ゲイルズカーマイン地域での戦闘の合間、フレミアとマリリアによるジュードの治療は続けられたが、聖者の力によって治療が飛躍的に進み、戦闘後に出血する事が少なくなっていた。それに伴ってジュードの体も熱を取り戻し始めている。だが連日の帝国軍との激しい戦闘でジュードは疲労していた。この日もフレミアとマリリアによる治療が行われるのであろうが、食事と翌日に向けた作戦会議を終えて自分にあてがわれた寝所に戻ったジュードは既に微睡の中にいた。
フレミアとマリリアは薄手の寝巻きにケープを羽織り、ジュードの寝所を訪ねた。フレミアが何か話しかけて来たようだが、半ば眠っているジュードはうまく聞き取れない。何も応えずにいると、2人がベットに上がってジュードの服を脱がせ始めた。治療が始まる。ジュードは2人に身を任せた。
いつもなら治療が終わる頃にジュードは熟睡しているが、この日はまだ僅かに意識を残していた。最近は体を休めようと思えば思うほど帝国軍との戦いの事が頭の中を駆け巡り、熟睡できる夜は少ない。一旦は寝れたとしても夜中に起きてしまい、また戦いの事を考え始めてしまう。この日も夜中に目を覚ますと、ベッドの脇でマリリアが椅子に座って上半身だけベッドに投げ出していた。ジュードの服は着せられているので、治療が終わった後にそのまま寝てしまったのだろう。フレミアの姿はない。
アゼルヴェードの精神支配を逃れて以降のマリリアは、ジュードの身の回りの世話だけでなく、ジュードと共に戦場に立ち、夜はジュードの治療をあたる。時間の許す限り、負傷した兵士や市井の人々に対する医療にも従事していた。だが、人々のマリリアに対する態度は厳しい。マリリアが帝国の侵攻に直接関与していない大陸東部の人々ですらそうだった。罵声を浴びせられる事は少なくなっているが、アゼルヴェードの妃であったという事実は人々から憎悪を向けられるには十分な理由だった。それでもマリリアは戦場で医療現場で人々に前に立ち続けていた。
・・・可哀想だが彼女が真に赦される事はないだろう。全ての人々から赦しを得るのは難しいし、おそらく彼女自身が自分を赦さないだろう。・・・
ジュード自身はマリリアに対して憎悪や嫌悪感を抱いていない。だからと言って好意を抱いている訳でもない。裏切られ、殺されかけた過去はあるが、今となっては、彼女に対して憐憫の情を催している。冷静に考えれば、彼女が裏切らなかったとしても歴史の推移は大きく変わらなかったのではないかと思える。当時の自分ではアゼルヴェードを止めきれなかっただろうし、今になって帝国に対抗できているのは北大陸で得た神装具と、それを与えてくれた他種族の協力があればこそ。マリリアの存在など帝国の侵攻をやや早めた程度でしかないのかも知れない。
・・・過酷な運命を背負った人だ。・・・
そんな事をジュードがマリリアに目を向けながら考えていると、マリリアが急に目を覚まし、ジュードと目が合った。マリリアは慌てて髪や衣服の乱れを整え、何も言わずに自室へと戻って行った。
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その後も旧ゲイルズカーマイン地域での戦闘は続いたが、戦線は一般兵による掃討戦へと移行し、この地域でのジュードの出番は終わっていた。数日後にはハルザンドへと移動する予定だった。マリリアとフレミアが甲斐甲斐しく身の回りの世話を行い、旧ゲイルズカーマインに展開している各部隊はガイが派遣した参謀達が指揮している。ゴルバとティーゼはハルザンド東部の防衛の為に一足先に戻した。ジュードは何もする事がなく、周囲は静か。図らずも安息の機会を得て、本来ならゆっくりと休める筈だが、ここ数日はベッドで横になっても寝付けずにいた。
・・・なぜか興奮が収まらない。ゲイルズカーマインでの激しい戦闘を未だに引きずっているのか。それともこれからの帝国軍本隊との戦闘に向けて気が立っているのか。・・・
ジュードのその様子を近くで世話するマリリアとフレミアは感じ取っていた。
「まだ戦場の近くにいて気持ちが高揚しているのでしょう。どうか私を抱いて発散して下さい。」
その日の治療が終わってジュードがベッドに横たわるとそのベッドに腰掛けてマリリアが言った。マリリアの申し出にジュードは驚き、フレミアは嬉しそうな表情になる。マリリアは淡々と話し続ける。
「戦で猛った殿方の興奮を鎮めるのはそばに侍る女性の役割だと教えられました。それにゆっくりと休んで頂かなくては治療にも悪影響が出ます。私では十分な満足をお与えする事は出来ないかも知れませんが、それでも精一杯ご奉仕致します。どうか一夜だけでも私にお相手させて下さい。」
「そんな事をしてもお前に愛情を向ける事はない...」
ジュードは言い掛けたがマリリアはスルスルと衣服を脱ぎ始めた。
「後で見返りを求めたりしません。口外もしません。明日以降は何もなかった様に振る舞えば良いのです。穢れてしまったこの身でお相手するのは心苦しいですが、どうか我慢して下さい。」
そう言ってからマリリアはジュードに身を寄せた。間近でみるマリリアの顔がやや赤みを帯びている。微かに甘い香りが香る。
「ジュード様はご自身が正しくあろうとし過ぎです。そういうお立場なのは分かりますが、どうか私達の前では年相応の若者の様に振舞って下さい。私達は、ジュード様に求められれば何にでもお応えします。寧ろ求めて頂ける事は私達にとっては喜びです。」
そう言いながらフレミアがマリリアとは反対側からベッドに入り込んだ。2人の手がジュードの体を這う様に動き、衣服を脱がせていく。2人は代わる代わるジュードの唇を求めた。フレミアは慣れた手つきでジュードに快感を与え、ややぎこちなくマリリアがそれを真似る。ジュードも自ら体を動かし始めた。3人の行為は深夜まで続いた。
翌朝、ジュードは目覚めた。2人の姿は既になかったが、ベッドの温もりから先程までここに居た事が分かる。久しぶりの快眠だった。暫くするとマリリアが朝食を運んできた。まるで昨夜は何もなかった様に振舞っている。ただその表情は以前より少し和らいだ様に感じられた。
第七部 完