【SS】第6話 神に嫌われた男
閲覧ありがとうございます。
起承転結の短さと、伏線回収までの短さに悪戦苦闘しながらも、読みやすさの魅力に魅かれて執筆しています。
「ここはこうした方がいい」等、次作の参考にさせていただきますので、コメントいただけると嬉しいです。
彼は、世界中の誰もが認めるほどの、優しい男である。
聖者と謳われても、誰も疑念を抱かないだろう。
他人の幸せを願い、心から善行を積み重ねていた。
ただ優しいだけではなく聡明で、自分に降りかかる悪事に対しても、
善良な心で折衝することにより、改心させてしまうほどの才を持ち合わせている。
だがその一方、自分が幸福すぎるのではないかと、日々感じていた。
世の中には、悪事や不幸が蔓延している。
戦争や貧困、病気や災害、それらは人々の心に暗い影を落としていた。
彼はこれらの現実を、テレビや新聞で目の当たりにし、心を痛めていた。
「私だけが光に当たっていても良いのだろうか…」
ある日彼は考えた。
幸福である自分自身が神に嫌われることで、世界中が幸福になるのでは…と。
自分が苦しむことで他人が救われるのならば、それも善行と呼べるのではないのかと、信じてみたかったのだ。
それからというもの、礼拝堂へ足を運ぶことが日課となった。
「私が嫌われることで、人々が幸福になりますように。」
礼拝堂に通ってから数日経った頃、もやっとした違和感に気がついた。
どうしたことだろうか、自分自身の事を、段々と嫌いになっているのだ。
「私の代わりに皆が幸福になるのであれば、この妙な違和感もまた、一興だろう。」
彼はその日から、自分自身を嫌うことが日課となった。
数カ月後、世の中の悪事や不幸を耳にすることがなくなった。
非日常が日常へと遷移しながら、大好きだったはずの自分を取り巻く環境や、自分自身が変化しても、彼の善行は色褪せることなく、ポジティブな影響を世界中に与えるのであった。
忘れられた存在となりながらも、彼に祈りを捧げる人が居なくなることはない。
なぜなら、彼自身が神と呼ばれる存在なのだから。
彼がいる限り、この世界は平和であり、希望に満ち溢れた世界なのである。
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※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
また宗教や信仰を強要するものではありません。