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6.スライムだってカラーバリエーションくらいはある

「二階層はスライムとゴブリンがメインになるわ。二階層のスライムは一階層と違って、酸を吐いてくるから気をつけてね」

「一階層にレッドスライムがいたのも驚いたが、イエロースライムまで出るのか……」

「? 黄色いのの他にも緑、茶色、黒、白、銀色、金色とかもいるわよ」

「……確認なんだが、ここはEランクダンジョンだよな? Aランクではなく」

「スライムのカラーバリエーションが豊かなくらいで大げさね~」


 人間だって瞳や髪の色が違うのだ。

 魔物だって様々な色がいたっておかしくはない。


「エドガーめ。わざと黙っていたな」

「もしかしておしゃれなゴブリンとかも見たことない?」

「人間から奪った服を身につけているゴブリンのことか?」

「ボディペイントをしてあったり、他のゴブリンとは違う色の布を何枚も付けてたりするの。いつもいるわけじゃないから今日もいるとは限らないけど、ファッションリーダーみたいな感じだからすぐ分かると思う」


 おしゃれなゴブリンがドロップさせる腰布は普通の腰布よりも強度が高い。これで作った糸と布で作ったバッグは、ベルン家の男性陣に人気である。


 最近は錬金術の腕前も上がってきて普通の布と遜色ないものが作れるようになったため、女性用の服の練習台としても使われている。


「もしやエドガーが学生時代から愛用しているポーチも?」

「そのゴブリンの腰布を錬金術で加工して作った布で母が作ったポーチ」

「入学当初から不思議なものを持っていると思ってはいたが、錬金アイテムだったのか……」


 エドガーは思いつきで家を飛び出すことが多々ある。じっとしていられないというよりも、こうと決めたらそれしか目に入らないタイプなのだ。住み慣れた領地や王都の城壁内ならともかく、手ぶらで魔物の前に飛び出したら危険だ。ダンジョンの外で死んだら洒落にならない。


 そこで「このポーチだけは手放すな!」とウェストポーチを持たせたのである。ポーチには最低限の回復アイテムと非常時に使うためのお金を入れた。錬金術で作った布を使用したのは、ただのポーチだと忘れる可能性が高かったため。


 クラリスが作った布と言えば無下に扱うことはないだろうと。念押しのため、持ち歩いていないと分かったら文通を止めるとまで伝えておいた。その甲斐あって、いまだに愛用しているようだ。


 見た目は普通のポーチで特殊な効果も付けていない。だが見る人が見れば、なんとなく普通のポーチではないことは分かるらしい。いや、あの兄が常に身に着けているだけで不思議なものに見えなくもないが。


 そこまで考えて、ふととある疑問が浮かんだ。


「そういえばルイさんってエドガー兄さんとは学園時代からの付き合いなの?」

「一年の後期に出会ったから、そろそろ十二年の付き合いになるな」

「なんで仲良くなろうと思ったの? エドガー兄さんって妹から見てもかなりの変人だと思うけど」

「確かにエドガーは変人だ。入学式で見かけた時は正直、卒業までほとんど関わることはないと思っていた」

「……エドガー兄さん、王子様に睨まれてなかった?」

「え?」

「同じ学年に王子様がいたんでしょう? でもエドガー兄さん、学園でも空気読まないでずっと一番を取り続けてたから」


 身内の欲目を抜きにしてもエドガーは優秀だ。学園在籍中、主席から落ちたことが一度もない。

 だがそれは同学年にいる王子様の成績を上回り続けたということでもある。同率一位の可能性も捨てきれないが、エドガーは杖と共に『王立学園学園長からの推薦状』を手にしている。


 王立学園学園長からの推薦状を手に入れられるのは、最も優秀な成績で卒業した生徒のみ。これがあったからこそエドガーの王城勤務が決まったわけだが、王子の顔に泥を塗った事実は変わらない。


 没落しかけの貴族でも社交界デビューしたばかりの子供でも、これがどれほどの問題行動か考えるまでもない。貴族である以上、自分より格上の貴族は立ててしかるべき。それが王家ともなれば当然のこと。


 エドガーはもちろん、一年間だけ在学が被ったセドリックも何も言わないが、大顰蹙をかったことは想像に難い。


「王子は成績を気にするタイプではない」

「そうなの?」

「エドガーは家族を大事にする男で、主席を取り続けたのも家族を楽にさせたいという思いがあったからだ。王子もそれを理解しているからこそ、彼を城の魔法使いとして迎えたのだと思う。もちろん俺もエドガーのそういうところを尊敬している」

「そう……」


 気恥ずかしい。というのもエドガーが主席を取り続けたのは確実に王宮に就職するためなのだ。たとえ先輩や同僚から嫌われて嫌な仕事を押し付けられようとも、多額の給料も付いてくる。ベルン家の借金を返済するため、兄はその道を突き進み続けた。


 どんなに変わり者でも、クラリスにとってエドガーは自慢の兄なのだ。

 だが続いた言葉はとても無視できなかった。


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