目が覚めたら枕元にエクスカリバーが置いてあった
タイトルオチです。
「ん……」
カーテンの隙間から漏れる朝日が目に入り、目覚ましよりも先に目が覚めた。
「ふわぁあ」
あくびをしながらゆっくりと体を起こし、まだぼんやりする頭で先程まで見ていた夢について思い返した。
すげぇファンタジーなアレだったな。
しかもめっちゃ具体的。
俺ってネット小説家の才能あるかも。
でも不思議なことに、具体的だなんて感じているのにどんな内容だったのかを全く思い出せない。
格好良い剣を手に魔法を使いながら魔王的な何かと戦っていたような気が微かにするだけ。
「ま、所詮夢か」
現実はしがない高校二年生。
勉強は可、運動も可、彼女もおらずありふれた日常を過ごすどこにでもいるような人間だ。
夢は夢であり、今日もまた平穏で面倒な現実が待っている。
顔洗って来よ。
ベッドから出て洗面所に向かい顔を洗うと思考がクリアになって目覚めたって感じがする。いつもはこのままパジャマ姿のまま朝食を食べに行くのだが、今日は少し早起きしたから部屋に戻って先に着替えよう。
足取り軽く歩きながら今朝の夢についてまた考えた。
かなり大ボリュームの冒険活劇だった気がするのに覚えていないのが本当に勿体ない。
せめて愛剣の姿くらいは覚えてたらなぁ。
どんなだったかなぁ。
だって男の子だもん。格好良い武器とか気になるじゃん。
なんて考えながら部屋に戻ったら、枕元にその夢に出て来てそうなブツが置かれていた。
「そうそう、これこれ」
月桂樹がデザインされた柄は豪華でありながらも無駄にごちゃごちゃしておらず高貴な雰囲気を纏っている。白銀に煌めく両刃の剣身は曇り一つなく、鋭さと力強さを惜しげもなくアピールしていた。
夢の中でこんな感じの西洋剣を持っていた気がするわ。
「ってなんでやねん!」
なんだこの剣は!?
いつから置かれていた!?
こんなの持ち込んだ覚えないぞ!?
俺の部屋にはフィギュアとかプラモとかファンタジー的なグッズが全く置かれていないので違和感が半端ない。
というかこれ見た目が美しすぎるし美術館に置いとくレベルの奴だろ。
マジでどうしてこんなところに置かれてるんだ。
まさか寝ている間に侵入者が来て置いて行ったとか。
いやねーよ意味分からん。
むしろ机の上の財布を盗んでいけよ。
…………不安になって調べたけれど無事だった。
それじゃあ誰かからのプレゼントとか。
枕元……サンタクロースか!
ねーよ!
どこの世界にクリスマスでもないのに、ガチそうな剣を置いてくサンタクロースがいるんだよ!
あわてんぼうどころじゃねーぞ!
他に考えられるのは家族か?
サンタクロースってわけじゃないが、俺を驚かせるためにイタズラを仕掛けたとか。
いやいや、にしても剣は意味が分からない。
こういうのが特に好きだなんて話をしたことないし、両親はサブカルには疎い方だ。
そもそも誕生日ですらないのにこんな豪華そうなものをプレゼントするはずがない。
「マジで何なんだ……」
正直なところ気味が悪い。
でもそれ以上に厨二心をくすぐる格好良い剣に目を奪われていた。
少しくらい触っても怒られないよな?
恐る恐る柄に手を伸ばして謎の剣を持ちあげた。
「軽い……」
剣身が一メートル近くはありそうだからかなり重いかと思ったら、あまりの軽さに拍子抜けだった。まるで中身が空洞ではないかと思える程ではあったが、そうではないことは何故か直感的に分かった。
グリップはまるで俺の手に合わせたかのように持ちやすく、長年使い続けていたかのようなしっくり感がある。
「エクスカリバー」
ふとこの剣の名前が頭に思い浮かんだ。
ゲームなどで有名な剣といえば沢山あるのに、何故かこれはエクスカリバーだと俺は知っている。
それ以外の名前はありえないと感じている。
自分の知らない知識や感覚が何故か頭の中に存在することがあまりにも気持ち悪い。
「気のせい気のせい」
なんて敢えて口に出すことで気持ち悪さを強引に振り払い、気になっていたことを確認することにした。
この剣が模造剣ではなくて本物の剣かどうかということ。
もしも本物の剣だったら銃刀法なんとかでヤバいことになるのではないか。
というか間違いなくなる。
どうか偽物であってください。
机の角を剣でそっと斬りつけてみる。
サクッ。
という音すら無く、抵抗感ゼロで机の角が斬り落とされてしまった。
切れ味良すぎぃ!
こんな危険な剣を剥き身で置いとくなよ!
鞘はどうした!
「うわ、なんだ!」
エクスカリバーが突然光り出したかと思ったら、ベッドの上に今度は鞘が出現していた。
「マジかよ……」
これでエクスカリバーは誰かが置いたのではなく、ファンタジー的な何かによって出現したことが明らかになった。
思い出せない壮大な夢。
突然出現したエクスカリバー。
長年使っていたかのような使い心地に覚えのない記憶。
これらを踏まえて考えると……
「飯食お」
俺は考えるのを止めた。
枕元に置き直したエクスカリバーが青白く明滅して抗議していたような気がするが、きっと気のせいだろう。
――――――――
朝食の時にやんわりと両親を探ってみたがやっぱり何も知らない様子だった。
警察に連絡しなければならないのか、でも突然出現したなんて信じてもらえるだろうか。
悩みながら俺は高校への道を歩いていた。
「どうしてこうなった」
「どうしてこうなった」
俺の小さな呟きと全く同じものが何故か隣から聞こえて来たのでそちらを確認すると、見覚えがありすぎる女生徒が歩いていた。
「げっ」
「何よその反応」
俺の反応がお気に召さなかったその女生徒は、幼馴染の虎杖癒。
全身がムチムチっとしている色っぽい系女子だ。
「なんで隣にいるんだよ」
「そっちこそ」
「考え事してたらそっちが並んで来たんだろ」
「並んできたのはそっちでしょ。こっちだって考え事してたんだから邪魔しないでよね」
俺達はこんな感じで顔を合わせる度に喧嘩腰になってしまう。
ちなみに俺は癒が好きだ。
中学の頃から異性として意識しているものの、照れくさくてツンケンしていたら今の今までその状態が続いてしまった。
癒もまた照れ隠しで言い返しているだけで俺の事を意識してくれているのだとは思うが、確信が無くてどうにも踏み込めない。
友達から『お前ら早く付き合えよ』と何度も言われたことがあるので、周囲からはそう見えているのだろう。
それでもなお踏み込みないのは俺がヘタレだからだ。
ああ、そうさ。俺はヘタレさ。
自覚してるが悪いか?
「何か悩み事でもあるのか?」
「あんたには関係ないでしょ。あんたこそ何か心配事でもあるの?」
「それこそ癒には関係ないだろ。別に何でもねーよ」
相手を心配するにもつい口が悪くなってしまう。
もう高校二年生だからそろそろ観念して一歩先へ進まなければな……
そのためにもエクスカリバーのことをどうにかしないと。
憂いがあるまま恋愛なんてやりたくないし。
逃げてるわけじゃないからな。
本当だかんな!
――――――――
そんなこんなで結局一緒に登校した俺達は同じ教室に向かった。
運良く同じクラスである。
「おはよう」
「おはよう」
それぞれ友達に挨拶をしながら席に向かうと、そこにはとんでもないものが立てかけられていた。
「何で!?」
「何で!?」
自室に置いてきたはずのエクスカリバー。
それが鞘に入った状態で俺の机に立てかけられていたんだ。
「どうした?」
俺が驚いている様子を不思議に思ったのか、隣の席の男子が声をかけて来た。
「いや、これ……」
「机がどうかしたか?」
「え?」
まさか見えていないのか?
俺だけが見ている幻ってわけじゃないよな。
……残念、触れてしまった。
「変な奴」
俺の様子を気味悪がって話を打ち切られてしまったが、それどころでは無かった。
エクスカリバーが勝手に学校まで移動した上に俺にしか見えないだと。
何がどうなってるんだ。
「虎杖さん、さっきからどうしたの?」
「あ、うん、その、何でもない」
呆然としていた俺の耳に癒の声が入って来て反射的にそっちを向いてしまう。
そこで俺は更にとんでもないものを目撃してしまった。
癒が神々しい杖を持って困っていたのだ。
まさかあいつも俺と同じ現象に遭遇しているのか?
エクスカリバーを手にしながら呆然と癒の方を見ていたら、彼女が俺の視線に気が付いた。
そしてそのままエクスカリバーに視線が移動し、驚愕に目を見開いた。
どうやら癒にもこれが見えるらしい。
『あんたも?』
『ああ、お前も?』
『そうみたい』
などとアイコンタクトで無言の会話をした俺達は教室を抜け出し、人気の少ない屋上扉前の階段踊り場へと移動した。
「朝起きたらこれが枕元に置いてあったんだ」
「あたしもよ」
話をすり合わせたところ、俺と癒に起きた出来事はほぼ同じだったらしい。
ファンタジー的な夢を見た気がする。
朝起きたら枕元に武器が置いてあった。
触ってみたら手に馴染む。
勝手に学校に移動して来た。
ちなみに俺が机の角を斬って本物の剣かどうか確認したのと同様に癒も確認したらしい。杖を持ってウォーターの魔法を放とうとしたら本当に水が出て来て部屋が水浸しになったんだとさ。魔法とか超テンションあがるじゃん。
「思い当たることあるか?」
「あるわけないじゃん」
「だよなぁ」
正直な話、思い当たることは無いけれど予想できることはある。
二人が見た壮大なファンタジー的な夢。
そこで俺達が使っていたであろう武器が何故か出現した。
実は夢じゃなくて異世界転移的な何かでは無いだろうか。
突拍子もないオタクの妄言とでも言える予想ではあるが、実際に超常現象的な武器が目の前に存在しているのだからそう考えざるを得ない。
「他の人には見えないから見つからないとは思うけど、どうしようかこのエクスカリバー」
「ぷっ、エクスカリバーだって。恥ずかしくないの?」
「仕方ないだろ。そういう名前な気がするんだからさ。そう言う癒の杖はなんていう名前なんだよ」
「…………ン」
「なんだって?」
「…………オン」
「いや聞こえねーよ」
「だからケーリュケイオンだって言ってるでしょ!」
「ぷっ、なんだよ癒だって人の事言えないじゃねーか」
「私がつけた名前じゃないし!」
「俺だってそうだよ!」
「い~や、どうせ夢の中であんたがつけたに決まってるじゃない」
「どうしてそんなこと分かるんだよ。癒がつけたかもしれないじゃねーか」
「絶対あんただって!」
「癒だ!」
せっかく人気の無い場所に移動したのに大声で言い争い始めてしまった俺達は気付いていなかった。
もう予鈴が鳴っていたことに。
そして騒ぎすぎて下を通る担任の先生に気付かれてしまったことに。
「夫婦喧嘩してないでさっさと教室戻れよ~」
「夫婦じゃない!」
「夫婦じゃない!」
まだ、な。
――――――――
「なぁなぁ昨日の配信見たか?」
「おう見たぜ。超熱かったよな」
エクスカリバーが我が家に来てから数日。
俺はこいつを腰に挿したまま生活している。
置いていっても必ず行先に先回りしているし、捨てようとしても戻って来るしで放棄するのを諦めた。
なお捨てようとした時はお怒りだったのか、赤く明滅してとんでもないエネルギーを放とうとして来たからもう二度と捨てないと土下座で誓ったらどうにか許してもらえた。
それ以来、ご機嫌取りもかねて常に携帯しているのだが、これが案外しっくりと来て違和感が全く無い。他人に見えないのもあって、ファッションの一つとでも思って共存している。
それは癒も同じようで、ケーリュケイオンを携帯していないところを見たことが無い。
そんなある日の昼休みに事件が起こった。
「なんか騒がしくないか?」
教室の窓から見える外の様子がいつもと違い、生徒や先生方が慌ただしくドタバタしている。
『どこ行った?』
『北校舎の方に移動したらしいです!』
『よし行くぞ!』
などと誰かを探している声が聞こえてくるので、不審者でも入り込んだのだろうか。
だがそれにしては校内放送での注意の呼びかけも無いし、どうなってるのだろうか。
「犬か猫でも入り込んだんじゃねーか?」
「あ~ありそう」
どっちにしろ三階の俺らの教室までは来ないだろう。
そう思っていたら、今度は廊下の方が騒がしくなってきた。
『こら待ちなさい!』
『どうして捕まえられないんだ!?』
よっぽど素早い動物が入り込んでしまったのだろうか。
案外猿とかだったりして。
騒ぎは段々俺達の教室に近づいてくる。
一体何がやってくるのかと少しだけワクワクしながら待っていたら、予想外の動物がやってきた。
「いたー!」
その動物は俺達の教室を覗いて何かを探し、俺と目があった瞬間に舌ったらずな声でそう叫んだ。
まてまてまてまて。
俺はこんな幼女なんて知らんぞ!
教室中の生徒と、その子を追って来た生徒や先生からも疑いの視線を浴びて超居心地が悪い。
見た目的に五歳くらいの幼女はとてとてという擬音が似合う感じで俺の方に向かって来た。
そしてとんでもないことを言って抱き着いて来やがった。
「パパー!」
ほんとそういうの止めてくれませんか?
教室内の気温が五度くらい下がった気がするんですけど。
止めてそんな目で俺を見ないで!
「パパって……嘘でしょ?」
「あの子って五歳くらいよね。じゃあ仕込んだのは小学生の頃!?」
「うっそー! 信じらんない!」
信じられないのは俺です!
全く身に覚えがありませんし、なんなら童貞ですから!
「あ、あの。君は?」
「マオはマオだよ。パパの子供!」
パパのところでめっちゃビシっと指をさされた。
勘違いじゃねーよとクギを指されているかのようだった。
こりゃあやべぇや、心当たりがないのに冷や汗が止まらない。
だって記憶に無いのに、何故かこの子がめっちゃ愛おしいんだもん!
自分の子供だって言われて違和感ないんだもん!
「ど・う・い・う・こ・と・か・な?」
はいおわった。
完全に終わった。
般若と化した癒が来ちゃった。
好きな子に、実は子供がいるだなんて思われちゃった。
チクショー!
だが神は見捨てていなかった。
というか面白がってやがった。
「ママ!」
マオは今度は癒に向かってママだと叫んだのだ。
激怒していた癒がピキーンって擬音が似合うくらいに固まってしまった。
どうだ俺の気持ちが少しは分かったか。
というか、俺がパパで癒がママ?
「やっぱりお相手は虎杖さんだったのね」
「怪しいと思ってたのよ」
「いくら幼馴染だからって小学生で子供作る?」
だからその敢えて俺達に聞かせるような、声を抑えないヒソヒソ話はやめてくれ。
マジで心臓に悪いからさ。
「ど、どど、どうして!?!?!?」
ほらぁ、フリーズが溶けた癒が顔を真っ赤にして動揺しちゃってるじゃん。
アレは俺と同じで心当たりが無いのに何故か自分の娘だって納得出来ちゃってるのだろうな。
「パパ、ママ、会いたかった!」
「!?」
「!?」
何この可愛い生き物。
思わず抱き締めちゃった。
しかも癒もだ。
どこからどう見ても家族三人の仲睦まじい姿だ。
「…………」
「…………」
「…………」
何か言えよ!
さっきみたいにヒソヒソしろよ!
沈黙されるともっと気まずくなるんだよ!
こうなったらマオに事情を聞くしかない。
マオを悲しませないように質問内容には気を使わないと。
『君は誰?』なんて質問はもちろんNGだ。
「マオは俺達に会いに来てくれたのか?」
「うん!」
やっぱり人違いの線は無さそうだ。
俺も記憶には無いが心と体がマオのことを覚えている。
となると彼女に関係してそうなのは腰に挿したエクスカリバー。
これも出現した当初は初めて見た筈なのに手に持つと長年使い込んでいたかのようにしっくりきた。関係ないとは思えない。
「マオ、これ……」
「パパのけんだ! ぶじにあえたんだね!」
やっぱりマオにはこれが見えている。
それに無事に会えたっていうのはどういうことだ?
「ママのつえもある!」
「え?え?」
癒は混乱していて頼りにならないから俺がどうにかしないとな。
「マオは、ここに来る前に何処にいたんだ?」
「むこうのせかい!」
異世界モノだったかー
流れ的にはあの夢だと思っていた覚えていない世界のことだ。
「パパとママわかくてへんなかんじー!」
「若い?」
「うん! むこうでのパパとママは、ええと、ええと、もっとおとなだった!」
つまり俺達は若返った。
あるいは転移した瞬間に戻って来たってことなのだろうか。
良かった。
俺が覚えてないだけで小学生の頃に子供作ったわけじゃなかったんだ!
異世界に行ってから作ったのなら問題無い。
くぅ~、その記憶が欲しい。
「マオがパパとママのきおくをもってきたの!」
「え!?」
「え!?」
それがあれば真実が明らかになる。
思い出せそうで思い出せないムズムズに悩まされることが無くなるし、マオのことをちゃんと愛せるようになる。
いや待てよ。
愛せる相手はマオだけでは無いぞ。
「…………」
「…………」
マオがもし本当に俺と癒の子供であるならば、俺達はマオを作るような間柄になっていたということだ。ヘタレを拗らせて前に進めなかったはずなのに、進み過ぎてしまったということだ。
その記憶が蘇るとなると少し気恥ずかしいな。
「えっち」
「な!?」
「どうせ卑猥な事考えてたんでしょ」
「それは癒だろ!」
「私はマオちゃんとの記憶が欲しいだけだもん。あんたなんかどうでも良いし」
「俺だってお前の事なんか考えても無かったわ。自意識過剰だ」
「うそうそ、さっきから視線がエロすぎるもん」
「癒がエロいからそういう勘違いしちゃってるだけだろ」
「そんなんじゃないもん!」
「俺だって違うし!」
ああ、結局いつも通りに喧嘩してしまった。
でもこれから貰える記憶の中で俺達が結ばれているとなると、これも最後になるのかな。
「めっ! けんかしちゃだめ!」
「はい……」
「はい……」
(暫定)娘に怒られてしまった。
それだけならまだ良かった。
「パパとママってむかしはなかがわるかったんだね」
その言い方だと、マオの知っている俺達の仲は悪くは無かったということか。
「むこうではいっつもちゅっちゅしてたのに」
「!?」
「!?」
ま、まさかバカップルだったと言うのか!?
「おもしろいからしばらくこのままがいい」
「え!?」
「え!?」
このままって、記憶をくれないのか!?
「パパとママがなかよくなったらきおくをあげるね! それまでおあずけ!」
「そんなぁ!」
「マオちゃんごめんなさい。仲良くするから記憶を頂戴」
「ちゅっちゅするまでだ~め」
それってつまり俺達が素直になってバカップル化しないと記憶をくれないってことか!?
「がんばって!」
「…………」
「…………」
やばい。
超やばい。
記憶の話もそうだけれど、説明しろオーラでジト目しているクラスメイトや先生をどうしよう。
それにこの子の扱いもどうすれば良いのだろうか。
親になんて説明すれば良いんだ。
「…………」
「…………」
癒とアイコンタクトをして覚悟を決める。
逃げよう。
マオを俺が小脇に抱えて猛ダッシュで教室から脱出した。
「待てお前ら! 説明しろ!」
「愛の逃避行!?」
「きゃははは、おもしろーい!」
ちゅっちゅすれば記憶が貰えるんだからやれば良いんじゃないかって?
それが出来るならとっくにやってるわ!
俺も癒もチキンだから逃げるに決まってるだろ!
でも逃げたところでこれからどうすれば良いの!
誰かおせーて!