夜明けとゆで卵|心のぬくもり幻想舎
「ねぇ、今から朝日を見に行こう!」
突然ゆすぶり起こされて時計を見ると、まだ夜中の三時。
いくら最近は日の出が早くなったとは言えど、すんなりと起きるには難しい時間帯だ。
「どこに見に行くの…」
寝ぼけ眼で彼女に問いかける。
嫌だと言えないところが惚れた弱みだと、こういう時につくづく思う。
「もちろん海だよ!」
「ここからだと二時間くらいかかっちゃうよ」
「わかってる!そのための三時起きなんだから」
「…シャワー浴びたいから十分待ってね」
のそりと起き上がり、スマホを片手にシャワールームへと向かう。
どうせ車は自分の運転になるだろうと思い、ナビアプリを起動させどこが一番朝日を見るのに適した場所かをリサーチし登録を済ませておく。
そして、そんなこんなで二人は車に乗り込んだ。
「それでは出発します」
「はい、お願いします!」
朝はめっぽう弱いはずの彼女はとても元気なようだ。
「なんで急に朝日を見に行きたいって思ったの?」
「んふふ、今日は夏至なの!一年の中で一番明るい時間が長いからね、せっかくら終始を堪能しようかと!」
「それは名案だね」
相槌をうった後、運転に集中しようとハンドルを握りなおすと、隣で彼女がミニバッグの中をゴソゴソしはじめた。
「はい!」
唐突に、白くて丸い何かを受け取る。
丁寧なのか雑なのかわからない絶妙な感じで、その白いものはラップに包まれていた。
「これは何?」
「ゆで卵です!」
あと塩ね、とさらにバッグから小瓶を取り出す。
どこにそんなものを準備する時間があったんだ、と一瞬考えたが、前日から彼女は出かける気だったのだと気づくと納得できた。
「…お嬢さん、本日のお出かけは計画的犯行ですね」と、答え合わせをするようにニヤリと口角を上げてみせる。
すると彼女も真似をしてニヤリと笑った。
「バレましたか。でも夜明けにゆで卵を食べるのも悪くないでしょ?」
「まあ、ね」
たしかに、こんな日も悪くない。
fin.
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こちらでは毎週月曜日に、1分ほどで読める短編小説を2本アップします。
日々をめまぐるしく過ごす貴方に向けて書きました。
愛することを、愛されることを、思い出してみませんか?
ここは疲れた心をちょっとだけ癒せる幻想舎。
別の短編小説もお楽しみに。
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大野