宿題
「基礎魔法は名前の通り基礎だから、基本的に誰でも使えるのは習ったな?」
「うん。一番低い値でも絶対に使える魔法だって聞いた」
「そう。だから基礎の名前を貰っている魔法なんだが、どういう風に習った?」
まさか自分の時と同じ教師がまだ授業をやっているわけではないと思いますが、あまりかけ離れたことを教えて面倒なことになってしまうのは嫌なので一応確認をすると、
「よんだいげんそ?がそれにあたいし、その力を分けてくださる?」
クリスがうーんと首を曲げながら先生に言われた通りの話を多分してきてくれたみたいなのですが、大人が聞いても頭の上にはてなマークがびっしりと浮かぶような話。
「力を分けて下さる?」
「うん。あとねー、火に対して水が強いーとかそういうの?」
「ああ、強弱の話な」
「強弱の話?」
何がおかしいのか分からないのですが、今の話をここでクリスから聞いているだけでも教師のレベルは昔から変わらず、今も結構ヤバイと言うのが分かります。
「因みに何か疑問に思ったのか?」
「あー……うん」
何かこのタイミングでも一悶着あったようで、クリスの顔に陰りが。
……これは話を聞いてあげる流れになってしまっている気が……すると思った時にはもうタイミングが悪いわけで。
「あのね、火に対して水は強いけど、もっと強い火だったら水も蒸発させちゃうとおもって、火に対して水が強いのは絶対じゃないと思うって言ったんだけど、そんなことはないって言われちゃって」
「あー。まあ、そうなるかもな。因みに他にも何か思いついたか?」
「えーっと、土壁をいくら作っても水の方が強い場合もあるっていう話はしたけど、違うって」
普通に考えればクリスの言っている事の方が正しいと分かるはずなのだが、教師の連中は偶に凄く頭が固いというか頭でっかちなタイプの人間が居て。
まさに今クリス達に教えている教師がそのタイプなのだろう。
どれだけ硬く強い土壁を作ったところで、想定外の鉄砲水に晒されれば吹き飛ぶことももちろんある。そして、その間違った考え方では先に進むことは出来ないわけで。
まあある程度、国という組織が先に進める人間を選別している可能性も否定はできないのですが、それにしても程度が低すぎる話。
ここにいるクリスにすら簡単に分かるようなことが分からないわけない……と、考えてみるとちょっとだけ嫌な予感がするわけで。
慌てて自分の項目を開いてみると、予感的中。
自分のトラブルの項目が勝手にまたオンに変わっています。急いでオフに項目を直したところで今対処しているこのトラブルがそこでピタッと終わるわけもなく。
思わずため息を吐いてしまいますが、早めに気が付いたことでとりあえず良しとして、先にクリスに基礎魔法について教えてあげることに。
ため息を少しだけ誤魔化すように右手をそのままクリスの頭の上に乗せて、ぐりぐり……わしゃわしゃの方が正しいのでしょうか?少し髪の毛をぐしゃっとさせるように頭を強めに撫でながら、
「とりあえず先に言うとクリスの言う通り、その教師の教えていることは間違っている部分もある。まあ、こればかりは見せた方が早いだろうから外出るぞ」
「うん!」
自分の言葉を肯定してくれたことが嬉しいのか、声に元気が戻って来てきたクリスを連れて家の外へ。
「水はとりあえず使えるのか?」
「一応習ったからー」
鍵屋の前でやるようなことではない気がするのですが、とりあえず見る方が早いという事で、クリスに水が使えるか確認すると一応できるといいながら子供が遊ぶような水鉄砲ぐらいの水を掌から……いや、指から出すことを確認。
「よし、その威力で十分だからとりあえず狙ってこれを消してみろ」
クリスが水をだせることを確認したので、自分の右手の指の上に小さな炎を作ってそれを消してもらう事に。
ただ、水の方が絶対に強いということが正しくないというのをしっかりと理解できるようにわざと一つだけしっかりと魔力を込めたものを作っておきます。
「どれでもいいのー?」
「いいぞ」
クリスは縦に指差しをすると右手の人差し指からちょろっと水が飛び出して、そのミグがしっかりと当たると五つあった炎は四つに。
そして同じ行動をクリスがすると、炎は三つ、二つと減らしていったのですが、残り二つになってから、クリスが指をさして水を出して炎にあてたのですが、その炎は一瞬弱まりますが、それでもそのままもう一度しっかりと炎を復活させます。
「アレ?」
「ほら、もっと本気で水を当ててみな?」
「うん」
さっきまでよりももっと強く指を早く剥けてきたのですが、その水で炎を消すことは出来ず。
「うーん、やっぱり消えない」
「そう。さっき言ったように強弱の問題で、炎を水で消す事は出来ない場合がある」
「やっぱり!!!」
クリスのいう事が正しいというのを目の前で証明したのですが、そもそもの基礎の教え方が微妙に間違っていたので流石にそれはまずいという事でさらに訂正を。
「それでだが、四大元素の力を借りている……って習ったみたいだが、それは一部が間違いだから忘れた方がいい。本当は学校の先生にこういう事を言ってはいけないが、流石に嘘で間違いであれば仕方ないという事で、あとでこっちから抗議をいれておくから、気にしないでいいからな。で、正しい事を教えるが、基礎魔法は魔力の変換だ」
「魔力の変換?」
「そう。クリスもそうだし、俺もそうだし、別の人間や他の動物なんかも基本的にそうなんだが、人間や動物なんかは魔力を持っているんだ。ただ、魔力に属性というのはないから、魔力だけだとあまりできることはないわけだ。一部勿論例外もあるから全く何もできないと言うと嘘になるが、基本的にはただの力だな」
「って事は、そのただの力である魔力を何かに変換すると魔法になるの?」
「そう。そういう事だ」
「だから誰でも基礎魔法は使えるって事?」
「そうなるな。四大元素の力を分けてもらうなんてそんな物騒な事をしたら簡単にこの国は消えてしまう」
「えぇ?」
まじめな話四大元素はそのまま火、水、風、土と街にというか国に根付いている属性。特殊な属性でもないのでみんな使っているのでそんなすごい力をどうやって分けてもらうつもりでいるのか、その教師に聞いてみたいぐらいで。
まあ、魔力を渡して代わりに一部の力を分けて貰っているという意味では日本語的に間違いはなさそうですが、子供に教える教え方としてはちょっとダメダメな気がするわけで。
「例えば、いきなりクリスに大きな力を分けてあげようって押し付けられて、嬉しいか?」
「それは……ちょっと困っちゃう」
「だろ?」
「うん」
だからこそ、しっかりとまずはお互いに話ができるぐらいに仲が良くなる必要があるわけで。
「そうならない為にまずは仲良くなるように、お互いに自己紹介をしあうんだ」
「自己紹介?」
「そう、自己紹介」
そして、自己紹介をお互いにしっかりするためには出来るだけ毎日、声を掛けないといけないわけです。
「えーっと、ちゃんとお話をしていないと、お互いに話ができなくなちゃうからボクはこういう人ですよーって相手にしっかりと伝えないといけないって事?」
「そう。それと、たまーーにしか話さない人と毎日話す人だったら、やっぱり毎日話す人の方がいいだろう?」
「うん。それは、そう思うかなぁ」
という事で、満遍なく魔力を変換させるのに一番いい方法と言うのは、勿論家事。
料理をするときに火を使い、水も使います。そして火の温度調節に風と土を使ってあげれば基礎魔法で使う属性はしっかりと使いこなせます。
洗濯をするときだって、水と風で水流を作ってその中で洗うときに手もみの代わりに土を固めた石を混ぜて汚れを落とすことも出来るわけで。そして乾かすときの土台や棒を土で代用することももちろんできます。
人間が朝起きてから寝るまでの事の殆どすべては基礎魔法を使えばかなり楽をすることが出来るわけで。
ただ、今の時代は色々なアイテムがある為、自分で魔法を使わなくても洗濯機もあり、他にも便利なアイテムが色々とあるのでわざわざ魔法を使う必要は無くて。
「基礎魔法は練習すればするほど上手くなるからしっかりとやって損はないからな?ってことで一度家に戻ってからさっき食べた食器を洗うところからやってみるか」
「食器洗い?」
「そう。それが終わったら洗濯をして、お昼は火を自分で起こして肉でも焼いて、夜はお風呂を自分で沸かして、家の仕事を全て自分の魔法でやるんだ」
「って事は、基礎魔法の練習って、家事?」
「だな。ただ、やってみるとわかると思うが、結構大変だからな?」
玄関から出てそんな説明をしていたのですが、とりあえず家に入りながら今日はクリスと一日魔法の練習を。
休日なのでお店の看板を触る必要はないのでとりあえずやってみるとしましょう。
何日もあったので、何かちょっと違うものに出来ないかなぁと色々と考えたのですがやはり魔法を毎日おかしくない状態で使いまくるためには家事が一番良さそうだったので、予想通りに落ち着いてしまいました。(ごめんなさい)
今回は途中、風邪を引いていたので内容も量も少なくなってしまいましたが、次回までにはしっかりと治しておくのでご勘弁ください。




