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鍵屋の倅と付与術師  作者: 藻翰
7/19

噂の依頼


 飲まないとやっていられない時と言うのは何をしたところで結局のところ気が晴れることは無くて。

 それでも少しでも何かよくなるといいなと願いを込めて酒に走る訳なのですが、お酒を飲んだ次の日に願いが叶う事なんて基本的には無くて、飲んだ次の日に残るものは残酷な酒。


「うぅ、気持ち悪い……」


 要は二日酔いの状態で、一応いつも通りの時間に起きたのですがコレは働ける気がしないという事で今日も鍵屋を開けるのを躊躇うのですが、流石に三日も開けないと色々ととやかく言う人が周りにもいるわけで。


「まあ、誰も来ない事を願って開けるか」


 ズキンズキンと頭が痛い状態で、眠気と吐き気が交互に襲ってくるような感じ。

 正直水でも飲んで横になっていたい気分なのですが、ぐっすり寝られるかと言われるとそれはまた微妙な所。

 椅子に座ったまま寝られるように色々な準備をしてからお店を開けることに。


 まあ、お店を開けるといっても入り口のカーテンを多少開いて、開店の札を下げるだけ。

 後は客が来ないことを祈りたいのですが、大抵こういう日は厄介な客がやってくる気がします。


「一応確認しておくか」


 自分のスキルで厄介事になりそうな項目がしっかりとオフになっていることを今更ながらに確認をして、大丈夫だったのであとは入り口から少し奥まった椅子をベッド代わりに寝るとしましょう。


 二日酔いの時に寝ると見るのは大体悪夢なのですが、珍しく今回はそんなこともなく。

 さらに言えばお客も一切来ることが無く、ハッと気が付いて起きたら昼過ぎで、元々客がそれほど来ない店なのでこういう日はいつもなのですが、二日酔いの日としてはかなりありがたい日に。


「よく寝た……」


 流石にここまで寝ればかなり酒も抜けた感じがあって、寧ろ寝ていた時間が長く脱水症状に近い位に水分が抜けている感じがあったので、お昼ご飯と言うよりは水分補給に一度部屋の方に戻ります。

 まだ、ご飯類を食べたい感じはしなかったのでそのまま水分補給をしっかりと済ませていると、アイツからの書類れんらくが。

 昼間なのに珍しい……と思いそうだったのですが、内容は昨日の【セイギノミカタ】の件。


 やり過ぎたあの人はもうこの世には居ません。


 そして安全になったからと言って話はすぐに終わりというわけでもないので、やり過ぎた結果身を滅ぼしたといううわさを流して亡くなった話を刷り込む形で終わらせるという内容の書類。

 確かに色々と思うところがなかったわけではないのですが、あまり気分のいい仕事ではなかったのもあってついつい溜息をつきます。

 そして噂を流せと勝手にアイツは指示をしてきますが、それを実行するのは基本的には自分なわけで。

 まあ、自分がやると言ってもそれの大元が自分というだけで実際にやるのは自分ではないのですが、噂を流す為にもそれを依頼しないといけないわけで。


「仕事が終わってから動くか……」


 まだ午後一番ぐらいの時間なので流石に店を閉めるには少し早いのですが、こちらの行動もしないわけにもいかないわけで。

 多少の諦めもある状態でとりあえず水分補給を済ませたら店の方に戻ります。

 基本的に待つばかりの仕事の時はやることもないのでゆっくりと出来るわけで。

 二時間も過ぎると何も朝から食べていなかったのでお腹も減ってきます。

 残り物で軽く食事を済ませたら、またやることのない時間。

 このまま客が来ないのであればと時計を見るともうすぐ夕方。


「少し早いけど、まあここまで来なければ今日は大丈夫だろ」


 独り言をつぶやいて、手早く店を閉める準備。

 開店の時にした作業の巻き戻しなのでカーテンを閉めて、札をひっくり返すか仕舞うだけ。さくっとお店を閉店させたら早速動くとしましょう。


 向かう先はこの街でもあまり治安が良くないと言われている貧困層が住むスラムに近い場所。この国には一応名目上スラムは無いことになっているのだが、人が生きるというのはそんな簡単な事ではなくて。

 周りの村々から都会にあこがれて上京して来たときは夢を持っていたかもしれませんが、誰も彼もが夢を手に収めることが出来るわけもなく。夢破れた人と言うのはなんというか、向こう見ずな人間になる人も少なくなくて。

 ギャンブルに走って破滅の道を進んでしまう人や、酒で身を滅ぼす人も人数が増えれば出てくるわけで。


 そういうどうしようもない人達がどうしても国の支援だけでは救う事は出来なくて。

 だから、国は認めていないけどそこにスラムはあるわけで。

 そんなスラムにもルールがあって、その一つが子供をないがしろにしない事。

 国の制度で十歳になれば全寮制の学校に行けるのはその為で、常識も何も知らない状態であろうともスキルを得る年齢になれば基本的に一度は救われるシステムだ。

 それでもスラムに慣れ過ぎて、普通の人間に慣れない子供も一定数いるわけだが、そうならない為の活動の一つ。

 その一つが実はこれからやる事で。


「気が進まねぇ……」


 まあ、色々と理由(・・・・・)はあるのだが歩みを進めて向かう先はスラムの教会。

 教会という名の孤児院みたいな場所で、スラムの子供の殆どはここを住処に色々な事をしている。

 軽犯罪は勿論、かなりやばい事をしている子供も何食わぬ顔をしてここを住処にしているというのを知った時には流石にびっくりしたが、そう言うのも含めてスラムなのだ。

 さらに言えば、今の自分(・・・・)には子供たちを救えるほどの力は無い。

 いや、あったとしてもその力をどういう風に使ったらいいのかが分かってはいないわけで。

 そんなことをここに来るといつも思ってしまうので、出来ればあまり頼りたくはないのだが、今回の件はそうもいっていられない状況なわけで。

 時間帯の事を完全に失念していたので手土産も何もないまま教会に着くと、何人かの子供がこちらを見つけてパァっと花が咲くような笑顔に。


「鍵屋!!」

「きーふぁ!」

「キーちゃん!」


 こちらを認識した途端、凄い速さで二人が突っ込んできて、一人だけ少しテンポが遅れてこちらに突っ込んできます。

 子供の体当たりと言うのは見た目以上に威力があって、一人目はガシッと受け止められて、二人目も何とかなったのですが、三人目はテンポも遅れていたのもあって流石にバランスを崩します。

 そのまま尻餅をつくような形で、子供達の頭を撫でてあげるとさっきまでの笑顔よりもさらに目を細めてもっと頭を撫でろと言うような目でこちらを見てきます。

 ただ、いつまでもこんなことをするためにここに来たわけではないので、ある程度頭を撫でて、満足してもらったらすぐにシスターを呼んでもらいます。


「もっと遊んでくれていいんだよ?」

「きーふぁ、きーふぁ、おままごとしよー?」

「んもー、二人共?キーちゃんはお仕事で来たんだから、邪魔したダメでしょ」


 一人だけ大人ぶっているのですが、その顔にはしっかり本当は遊んで欲しいとチラチラこちらを見て来る状態。

 そんな先輩面をしている子がシスターを呼びに行くなら一緒にと手を引っ張って来るので、結局子供三人と四人でシスターの部屋に行くことに。


 シスターの部屋と言う風に言ってはいるのですが、ココはスラムの教会。

 そんなところに女性が一人で大丈夫なの?と思うかもしれませんが、ココの教会自体が国から下賜されたもので、流石に国に立てつこうと思う人間もそう多くは居ない訳で。

 大人が一人なの?と思った人も居るかもしれないので言うと、一応シスター一人と言うわけではなくて、ブラザーと呼ばれる修道士も勿論いるので女性一人という事になっていないのでその辺りも大丈夫。

 まあ、結構前にはここにも司祭や司教も居たのですが、色々(・・)あって、今は居ない状態で、それが長く続いているわけで。

 少しだけ関りがあったので自分も顔を出したわけなのですが、どうやらシスターは忙しいみたいで今は来客の対応中らしく、話を聞きましょうとブラザーの一人が今回の件を受けてくれることに。


 子供達は本当に色々な仕事をしているのでこの街に必要で。

そんな子供達が流す噂と言うのはかなり質がよくこの街に浸透してくれるという流れがあるので、今回はセイギノミカタが身を滅ぼしたという噂を流して欲しいとお願いをします。


 子供たちにそんなことをさせて?と思うかもしれませんが、これの効果は馬鹿に出来ず。

 一週間もしないうちに噂は広まり、二週間もすると誰も知らない人が居ない情報に。

 さらに言えば、三週間、四週間と時間が流れていく間にまた別の噂を流してしまい人の噂も七十五日というような感じで、話題を上手く逸らすのにはうってつけ。


 まあ、正直、そのぐらい時間が経てば忘れ去られるわけですからその間は多少話題に上がりはするものの、今回の内容は身を滅ぼした。

 これ以上あの人を追いかける人と言うのは居ないはず。

 そんな依頼をお願いして、いつも通りにお金を払います。


「まいどありー」

「まいどまいど」

「おおきになぁ」


 子供の言葉にブラザーが微妙な顔をしますが、子供達はこのボーナスのようなお金で毎日の食事が少しだけよくなることを知っているので、言葉の意味も間違いではなくて。


「今度来るときはお土産もね?」

「あ、そうしたら甘いモノがいいかなぁ」

「おかずでも大歓迎よ?」


 依頼がおわったら今日しないといけないことは終わり。

 また用事があるときには顔を出すと言って、頭をかなり撫でてぐずりそうな子供達に何とか離れて貰って、教会を後にしてとぼとぼと家に向かいます。


「今日も酒か……」


 少しだけ飲みたいような気もしますが、子供たちの顔が少し頭に浮かぶとあまり酒に飲まれているのもいい顔は出来ないので結局溜息が出るだけ。

 そんな感じにスラムから家に帰るのですが、いつも通りにやっていればお店はギリギリしめるような時間。

 そんな店の前に人影が見えます。

 あまりやる気は無いのですが、なんとなく子供達に誇らしい自分でいたいというその日限りの気持ちが芽生えてしまったので少しだけ小走りをして家の前に向かって、


「ご依頼でしたら、対応しましょうか?」


 店の前の人物に声を掛けたのですが、近づいていくとその背はどんどん小さくなって。

 なんとなく記憶にある背の高さ。


「まだやっていると思ったのに終わっていて焦ったよー」


 そこに立っていたのは、昨日学校に入れたはずのクリス。


「おまっ、なんでここに!?」

「え?普通に外泊許可を取ってきたから?」

「はぁ!?」


 ……こんなことをするのは絶対にあのシスター、いや、こうなって来るとアイツのせいでもありそうですが、クリスの手にはしっかりと外泊許可証が握られている状態。


「週末だけだな?」

「ねー、毎日ここから通いたいって言ったんだけど、駄目だって言われちゃって」

「当たり前だろう」

「おかしいねー?」

「おかしくないからな!」


 と、ここまで話しているわけですが許可書が出ている以上週末は家に泊めるしかないわけで。


「……飯は?」

「まだー。あのね、シスターが食事をしながら何があったのか色々と教えてあげなさいって」

「あのバ……、シスターめ」


 何故か言葉が出なくなったので言い直したらすんなりと言葉が出たので何かしらのスキルを使われたような気もしますが、そんな便利なスキルだった記憶は無いので多分自分の心がストップをかけたのでしょう。


「何か作るか。簡単なものでいいな?」

「キーファのご飯美味しいから好きー」

「はいはい。とりあえず中に入って、風呂は飯の後な?」

「はーい」


 セイギノミカタの件が終わったと思ったら、クリスが戻ってきたので結局また面倒な毎日に戻ったような感じ。

 ただ、口に出すことはしませんが昨日の夜にお酒を飲んでいた時より、さっきの帰り道の時より、今の方が気分は良くて。

 絶対に認めたくはないのですが、一人でいないほうがいいタイミングというのがあるとするならそれは今日みたいな時で。


「さぁて、なに作るかな」


 自分の声に張りが戻っている事なんて自分では分からないモノ。


 夕飯を考えるとしましょう。






お酒の失敗、作者は一杯ありますね

それでも、どうしても、飲みたくなる時があるのですがそのとき以外はお酒飲まなくなりました。

一応それにもそれなりの理由はありまして、ほら、お酒を飲むと車の運転が出来ないでしょう?

そうなると、結構困りますからね。

飲んだ日にやむを得ない事情が起こる……事が無いように願いながら飲んでいるので結局そこまで酔わないのでまあ、プラスに考えるといいのでしょうが、元々の私は酔って忘れたいと思う人間。

中々世の中よくできている気がします(笑)


遅々とした進みですが、ちゃんと一段落するところまでは続きますのでこちらも楽しんでいただけると幸いです。

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