学校について
何でこんな厄介事がと思いながら昼食をとりながらいつもやっているのに忘れていた事を一つ思い出したのですぐに確認をすると何故か今回も複数の項目がオフであるはずなのにオンに変わっています。
すぐにそれらの項目をオフに戻して、肩を落としながら溜息を一つ大きくつくとそれを見ていたクリスは口食べ物をかなり頬張った状態で喋るのですが、殆どもごもご言っているようにしか聞こえません。
「食べながら喋るな。喋るなら食べるな」
「ふぁい」
一応返事だけはしたのですが、その返事もなしで頷けばいいと言いたいところ。
そんな感じのお昼を済ませたら次は学校について話を進めたい所。
「クリス、お前の学校だが……」
「キーファが決めて」
「俺が?」
「うん。キーファなら間違いないと思う」
食後なのでお茶やココアを各自飲みながら話を始めた所そんな事を言ってきます。
「自分としてはって意見は無いのか?」
「んー、自分の事は自分よりも人の方が良く知っているって家庭教師の先生も言っていたからねー」
クリスの家庭教師はなかなかの人間みたいで多少評価したいと思ったのですが、なんとなく話がかみ合っていない気がします。
「先に一つ聞くぞ?学校についてシスターから何を聞いた?」
「えーっと、四つの学校があって、魔法と騎士と……あとなんだっけ?」
「ああ、技能と総合の四つだな?」
「そうそう、それそれ。その四つから選ぶって」
あの野郎……いや、野郎じゃなくて女だから女郎……いや女狐?……いやそんな事はどうでもよくて、いやよくないけど……。
どうやらあのシスターはワザとなのかもしれませんが小さな嘘を混ぜていたみたいで。
確かにクリスを学校にという話が出るのは当たり前なのですが、クリスはまだ年齢的にもスキルを授かったばかりの若年。最初から上級学校に通うわけもなく、初等部に入るだけ。
そして初等部は子供たちの可能性を引き出すためにも特化した教育は行いません。
一部の金持ちや特化された子供は家系で追加の教育を受けることはあれど、初等部は何か所もありますが、選ぶことは殆どなく。
「クリスが聞いたのは上級学校の話だ。まず入るのは初等部」
「初等部?」
「そう。この国においては基本的に誰もが入るように出来ている学校だ」
「って事は?」
「四つの学校から選ぶ必要性が出てくるのは五年後。今から考えるのも必要ないとは言えないが、もっと先の事だから今は気にする必要はない」
「そっかー。学校楽しみっ!!」
かなり楽しみになっているところなので水を差すようにはなるが、言わないと後が面倒そうなことなので釘を刺すようにもう一つの話もすることに。
「因みに学校は寮生活だからな?」
「え?」
「学校は基本的に寮生活だからな?」
「ここから通うんじゃないの?」
「子供に生活能力がない場合は寮生活だ。言っただろう?ここは避難所だって」
「えー、ココから通う!!!」
「家から出ている以上ここは家としてカウントされないからな?それにこの家だと近くの学校もそこまで近くはないから通うとなれば面倒だぞ?」
そこからのクリスが凄くゴネることに。
話はどんどんと膨らんで、最終的にクリスは学校に行かないとまで言ってくる始末。
流石に学校に行かないのはこれからの人生を考えるとマイナスが多いと思うので説得をするのですが、それもなかなか大変で。
「じゃあ、学校に行かない」
「行かないってお前なぁ。スキルについてはどうするんだ?」
「キーファに教えてもらう」
「俺のスキルは付与術師じゃないんだが?」
「でも、使えるでしょ?って事は教えてもらえると思って」
「使えるから教えられるわけじゃないんだ。しっかりと教師に教えてもらう事も大事だぞ?」
と、スキルに関してはどうにもこちらに頼るつもりの様子。
「学校ってなんで行かなきゃいけないの?」
「なんでって、そりゃあ……。うん、まあ出来るだけ行った方がいいだけだな」
「でしょ?だったら行かなくても大丈夫。キーファが色々と教えてくれる」
「教えると言ってないだろう?ああ、一応学校に行くと稀に友達ができるぞ」
「別にキーファも友達でしょ?」
「クリスの中でどういうカウントなのかは知らないが、俺は友達のつもりはないぞ?」
「え?」
そんなビックリした表情をされるとは思っていなかったのだが、こちらを睨んで言われるとこちらとしても微妙な感じ。
「保護している子供を友達とは言わんだろう?」
「うー」
「うーじゃない」
「むー」
「むーでもない」
そんなやり取りをしながらも、自分が学校嫌いだったこともあってあまり学校に行けとは言えない部分を思い出します。
こっちの世界に来てからの二回目の学校は嫌々ながらも一応卒業はしているのですが、一回目の学校生活は途中で辞めていて。
理由は単純にいじめだったのですが、今となってはそれも定かという感じでもなく。
そんな思いが自分の中にもあるので無理やり人を学校に行かせたいかと言われると答えとしてはノー。
「よし、とりあえずメリットとデメリットをあげてみるか」
「メリットとデメリット?」
「そう。学校へ行くとどんないい事があるのか、悪い事があるのかだ。クリスは学校に行くと、どんないい事があると思う?」
「んー、行ったことないからわからないけど、いろんな人に会える?」
「そうだな」
学校に行くと自分の人生において自分からは近寄ることのなかった人達と会う事はある。
その出会いというのは別に学校に限らなくてもいいのだが、自分の意志とは別のルートでの出会い。それのキッカケの一つにはなる。
クリスの意見に頷きながら右手の人差し指を一本上げます。
「他には?」
「勉強?」
「だな。新しい知識を得ることも出来る」
二本目である中指をあげて頷きます。
ただ、学校に固執せず家だろうと図書館だろうと、勉強だけはいつでもどこでもできるわけで。興味のない事に目を向けるという意味では学校というカリキュラムはなかなか素晴らしいモノ。
「ぐらいかなぁ?」
「後は学校に行くとこの先のシミュレーションが出来る」
「この先のシミュレーション?」
頷きながら薬指を立てて三本の指を揚げた状態に。
「ああ。いい事も悪い事も含めて……、要は学校っていうのは社会の縮図だからな」
「社会の縮図?」
「大人になったら働く……だろう?それの練習ができるんだ」
「ふーん?」
クリスはあまり良く分かっていないみたいですが、まあ十歳ぐらいの子供が何処までも理解できるとは思えない話でもあるわけで。
「という感じでメリット、いい事はこんな感じだが、勿論学校にも悪い部分はあるわけで。何か思いつくか?」
「学校の悪い所ぉ?…………ちょっと怖い?」
「ああ、多少閉鎖された社会ではあるから怖いというのは間違いではないな」
右手を横にずらして左手でまずは指を一本立てます。
学校という場所はどうしても閉鎖的になっている部分があって、そのせいもあってか世の中であれば見過ごされないことも見過ごされてしまう部分も勿論あって。
村八分というと言い方は悪いが、誰も助けてくれないという状況に陥る可能性はもちろんある。
「怖い話を具体的にすれば、何かしらの特徴でいじられたりいじめられたりというのもあるな」
「聞いているだけで嫌だー」
何かあれはキッカケが一つあればいいという理不尽なもので。人と意見が違うだけ、好みが違うだけそれだけでも対立が起きて、それが発展するといじめにもなるわけで。
いじりといじめの境界線は曖昧なのでやられている側とやっている側が同じように受け止めているとは限らない。
そういう部分は少なからず子供にもあって。
さらに言えば子供はある一部分ではとても残酷で。
知らないことを知ろうとする時、人はとても残酷になる場合がある。それを大人が正しく導いてくれればいいのだが、往々にして人の目が届かないときにそういう事は起こるわけで。
「他にも悪いことあるの?」
話をしているうちにやはり興味はあるみたいで、自分から質問をしてきます。
マイナスな部分ばかりをあげつらうのもよくはないのですが、折角興味を持っているのであれば出来るだけ全てを詳らかにする必要もあるわけで。
「んー、コレは学校のせいではないんだが、学校は所詮学校。社会は社会という事が実はあったりする」
「学校は学校?社会は社会?」
「ああ」
いくら学校は社会の縮図だと言っても、学校というのは努力をしたことを認めてもらえるのだが、社会は基本的にそうではなく。
いくら努力をしたところで結果に繋がらなければ正しい評価をしてもらえることは稀だ。
それこそ何の努力もせずに部下の成果だけを掠め取る上司は何処にでもいるし、何年間も努力して進めたことを一瞬で白紙にされることもある。勿論しっかりと認めて、評価をしてくれる人が社会に居ない訳ではないが、そんな人にばかり当たるというのは稀だろう。
努力が大事だと学校では教えるが、社会においての努力は誰もが皆していることが当たり前で社会が見てくれるのは結果ばかりだ。
そういった小さなズレは学校と社会の間に色々とあって、そのズレに対しての修正だけで疲れ果ててしまう人も世の中にはたくさんいる。
「え、じゃあ努力はしなくてもいいの?」
「いや、努力はしないといけないぞ?」
「言っていることの意味がよく分からないんだけどー」
「なかなか難しい話でもあるからな」
あくまで持論ではあるのだが、結論だけを言ってしまうと人は死ぬまで何かしらの努力をしている事になる。
生きるというのは死ぬ為に生きているわけで、だったら何かをやめてしまえばいいかというとそうでもなくて。
結構、人というのはギリギリの部分を実は生きているのだが、どうやらそこから目をそらしている時期が長い人が多く、それはとても大事な事で。
人によっては無いという人も居るのだが、小さい頃は寝て起きる事が怖かったりする。それは次の日に起きられない、死んでしまうという恐怖を子供ながらに感じるのだが、それは成長するにしたがってかなり減っていくものらしく。
そして色々と体験し、年老いていくとそれはまた身近になってきて恐怖を人によっては感じるらしい。ただ、ある程度年老いてくるともう人生を十分楽しんだから無理をして生きようとは思わず、受け入れる心が育つ人も居るらしいのだが、その辺りまでくると結構怪しい話でもある。
勿論人によっては死ぬことを受け入れられずなんとかもう少し、いやもっと生きたいと思うようになる人も居るにはいるらしいが、そこまでくると学術的な話になってきてはっきり言って専門外。
と、話がかなりズレてきてしまったのでとりあえずここまでで、閑話休題。
「とまぁ、メリットとデメリットを上げた訳だが、その上で出来れば学校には行くことを勧めておく」
「学校にやっぱり行けって言うの?」
「ああ。人生は経験の連続で、それはどんな簡単な事も難しい事も関係はない。そのうえで色々な経験を積むことが出来やすい場所っていうのが学校なんだ。さっきも説明したようにシミュレーションが出来るというのはかなり大きい部分にもなる」
「ここから通えるなら行くけどー、寮生活はなんというか嫌な感じ」
そういわれてもじゃあ家からどうぞという簡単な話になるわけもなく。
だからと言ってウチから通う事を認めるわけにもいかず。
「キーファだってこの家から通ったんでしょ?」
「そりゃあ、ウチだからな?」
「だったらボクもここから通うー」
「だからお前はここの子供じゃないだろう?」
このままだといい落とし所が見つかりそうにないのですが、それはクリスも分かっているみたいで、
「この話、今日はここまで!おしまいっ!」
「は?」
と、一方的に話を終わらされたかと思うとクリスはタタタと食事をしているこの部屋を出て昨日寝た部屋に移動をするのですが、ある程度の教育を受けているのもあってドタンバタンと大きな音を立てることもなく静かなもので。
「はぁぁぁ」
食事前にも出ていた溜息がまた大きく一つ出ることに。
「こうなってくるとアイツ等に相談かぁ?それも面倒だが……。項目は……ちゃんとオフになってるんだよなぁ」
とりあえずクリスを学校に入れて今回の件が終わると思っていたのですが、思った通りに話は進まず。
とりあえず今日も連絡があるはずなのでその連絡を待つことにしてお店の方でゆっくりと店番をすることに。
今日も相変わらずお客が来ることなく、面倒のない午後を過ごせました。
凄く個人的な意見ばかりな回ではありますが、作者の思っていることを結構書けた気がしますが……正直どうなんでしょう。
ネタバレをしたいわけではないのですが、学校に通う事にはなるはずなのです。
ただ、こんな話をしてどうやって学校に戻せるのか。
作者が思いついていないのです(笑)
ただ、どうにか戻しますから、続きは勿論書いていますが、ほんっとうにおっそいのです。特にこっちは。
頑張って続けるのでどうぞこれからも楽しんでもらえるよう努めます。