夜の始まり2
一人静かな夕食を楽しんでいたのですが、平日の夜にもかかわらず酔っ払いがいい感じに出来上がっていて。
「おっ、奇麗な姉ちゃんじゃねぇか。誘ってるか?そんな恰好で」
今どきこんなベタな酔っ払いがいるのかとちょっと驚いてしまいますが、一人静かに楽しみたい夕食の場を崩されるわけで。
正直に言えば関わりたくないのですが、こういう時は面倒な事にしかならないという今までの経験からその酔っ払いを止める事に。
「まあまあ、おっちゃん飲みすぎだよ」
酔っ払いは鼻の下を伸ばしてズズイと女の子との距離を近づけるのですが、間に入るように自分が入ると体に触れられなかったというイラつきかすぐにこっちの胸倉をつかんできます。
「なんだてめぇ、やるのか?」
「やってもいいけど、他のお客さんに迷惑だからそう言うのは一人で勝手にやって欲しいんだけどね?」
こちらの胸倉をつかまれたので同じように胸倉をつかんでそのままぐっと持ち上げると酔っぱらって足元も覚束ないみたいで、こちらが持ち上げる形に。
チラリと絡まれていた女性の店員さんを見るとスッと目を伏せるだけ。
そのままとりあえず店の外へおっちゃんを移動。
「飲むのは程々にしないとね?」
「うるへー。色々大人にはあるんだよぉ」
さっきまでの威勢は何処へ行ったのか、もしかしたら酔っぱらっているのでコロコロと記憶も変わっているみたいで、そのまま地面に座るとすぐに両肩の力がすとんと抜けてスースーと寝息が聞こえてきます。
「マジか……寝るとか、あるのか」
酔っ払いに絡まれることは今までも何度かありましたが、大体喧嘩のような形になるので今日もそれかと思っていたのですがそう言う感じになるわけでもなく、おっちゃんは寝てしまいます。
このまま寝かせていいのかどうか微妙な気持ちになりながら店内に戻ると、先ほどの女性店員にお礼を言われたのですが、お礼の後はおっちゃんが飲み食いした分の請求で。
考えてみれば自分が外に出したのでそうなってしまうのも仕方ないのかと思って外を確認に行くと、おっちゃんは寝ていたはずなのにそこにいることなく。
「わかりました、払います」
一人静かに食べるはずだった夕食は人の酒代も払う事になり、おっちゃんはかなり飲んでいたみたいで結構な金額を払わされる結果に。
いつもであればこのタイミングでおかしいと思って項目をチェックしていたのですがそれを今回も忘れていて。
普通に考えれば夕飯を食べに行ってこんなゴタゴタに巻き込まれることが普通であるわけないのに、それに慣れ過ぎている為分かっていなくて。
そのまま食事を終えて気落ちしながら家に帰ると家の前にはよく見る連絡の紙。
「夕飯食ったら、終わりだろうよ……ったく」
紙を仕方なく開けるとそこに書いてあったのはこの間の仕事についての続報を国が求めているとの事。
「続報って言われても、変に接触すると記憶を呼び起こす可能性があるから遠くから見るぐらいしかできないのに……なんでまたこのタイミングで?」
誰か何か事情を知っている人間が入れ知恵をした気がするのですが……こんな面倒な事をする人間はそう多くはなく。
なんとなく思い当る節もあるので、大きなため息をつきながら家の扉を開けます。
「ん?」
家の中に入ってすぐに違和感を覚えたので、すぐに次の足が進むことは無く。
右を見て、左を見て、玄関の様子はいつもと変わらないのですが、でも何かおかしい気がして。
もう一度、左右を見ても変わりがないので残る方向は上下?
上をみてもいつも通りの天井で、下を見ても自分の靴と親父の靴があるだけ。
「ん?」
もう一度下を見ても、そこにあるのは親父の靴。
いつも家にいないのにいつの間にか帰ってきていたみたいで、その事実に思わずため息が出ます。
そして、このタイミングでどうやら家の中でゆっくりと勝手にくつろいでいた親父も自分が家に帰ってきたことを察したみたいで、
「帰ってきたのか、お帰りぃ」
「ああ、ただいま帰りましたよ」
雑な挨拶を返すと、その手にはお酒があって今日もいつものように飲んでいるみたい。
「珍しいね?滅多に家には帰らないのに」
「まあな。死人が家にいるわけにもいかないからな」
「言われてみるとそうだけど、まあ別にみんな何となく知っているからいいんじゃない?」
「言われてみればそうだが、まあ別にいいさ」
自分の父親をこの人というのはあまり良くないのかもしれませんが、この人が帰ってくるときに厄介事が無かった事はないわけで。
「ちょこっと面白い話があってな?まあ、酒でも飲みながら話してやるから、お前はこの後の事を考えて、ジュースや紅茶でも飲みながら聞いてくれ」
「面白い話を聞いたら家を出ないといけない用事が出て来るっておかしくないか?」
「おかしくないぞ?お前の不始末だからな?」
不始末と言われてしまうと自分が何かミスしたという事が分かるのですが、最近の仕事でそこまで大きなミスをやらかした記憶は無くて。
「それ、本当だよな?」
「当たり前だ。自分のミスも分からないとは全く、もう少し真面目に仕事をしてくれよ?」
「いや、鍵屋もあっちの仕事もしっかりこれでもやっているんだが?」
「当たり前だ、んであっちの仕事のミスだからな?」
「だよなぁ」
ここ最近の仕事のミスと言われるとセイギノミカタ案件かその前のクリスの話になるのですが、そこまで大きなミスをした記憶は無いので少し悩んでいると、
「まあ、元々ギルバート家の問題は俺が対応していた話なのは……言っていなかったっけ?」
「今聞いた」
「あの家は前からゴタゴタがあってな?子供の話もこっちが色々とやっていたんだが、お前も対応することになって、その結果多分スキルが緩んじまったみたいだ」
スキルが緩む?と言われると微妙な感じがしますが、多分一番わかりやすい例えは服などのゴムと一緒。
経年による劣化もあって伸び切ってしまう感じが一番近いでしょうか。
「って事は、俺のせいばっかりじゃないじゃん?」
「いんや、俺の鍵かけはちゃんとやっていたからお前の中途半端な鍵かけで緩んだんだろうさ?」
断言するように親父に言われてしまうとこちらとしては言い返す言葉はなく。
「まあ、あの家もウチも色々と厄介な事は昔から抱えているから多少仕方が無いんだが、それにしても一気に緩まるには早すぎるわけだ。で、疑うとすれば……」
「俺、なわけね?」
「だな。まあ、このスキルであり魔法は多少未知の部分があるからすべてがすべてお前だけのせいというには悪いかもしれないが、それでもキッカケの一つではあるはずだからな?」
こういわれてしまっては頷くほかなく。
「で、どうなってるわけさ?」
「多分だが、一部の人間の記憶齟齬が解除された。もしくは自分の記憶が改竄されていることを認識したはずだ。んで、こうなって来ると厄介なのはその恨みを何処に晴らしに行くかなんだが、弱くなくても大体そういう人間の思考は分かるよな?」
「……まあ、なんとなく」
「だから、さっさと動いてくれって話に繋がるんだが……そろそろか?」
「ん?」
そんな感じに親父と話をしていると、親父は外の方をずっと気にしていてまるでこれから何かが起こる事が分かっているみたいな感じで。
「そろそろ来るだろ?連絡が」
「連絡?」
「ああ」
いつもであれば紙が届くはずなのに、珍しく今日は家の扉がノックされて。
ここまで親父が何か言っているという事は明らかに緊急だという事は分かっている状態なのでそこまで身構えるわけではなかったのですが、そこに居たのは何故かアイツ。
「すまない、どうやら誘拐されたみたいだ」
「は?」
「クリスが、誘拐された」
思わず目を開くようなことをアイツが言います。
「学校と寮の行き帰りは安全なはずだろ?」
「どうやらそれを分かっていて、やったみたいだ」
「なるほど。親父まで出てくるような話だからどんなことかと思ったが、確かに厄介な事だな……」
アイツが来たという事はコレが案件に違いなく。
「闇雲に動いても仕方ない事は分かっているよな?」
「分かってるよ」
家の中から親父に言われて返事をすると、アイツはまさか家の中に人が居ると思っていなかったみたいで少しだけ驚いたのですが、
「親父さんか?」
「そう」
「じゃあ、構わないか」
「多分」
そんな短い会話を済ませて、とりあえず動くとしましょう。
いいタイトルが思い浮かばず(笑)
何とかサクサク行きたいものです
やっと、倅に。
親が居ないと倅にならないんですよね。
今まではただの鍵屋だった……。仕方ないのです、赦してください
頭の中にしかないストーリーは結構壮大なのですが……上手い事文字化出来ない……難しさ。




