た組のアニキ(じゃない)
友人達とよく駄弁っている公園には、午後三時になるとほぼ毎日のようにバカップルがやってくる。
男の方はいっつも黒いパーカーを着た自分達よりも年上っぽい少年、顔はよく見たことがないけど多分さぞ陰気臭く、性格の悪そうな顔をしているのだろうと雰囲気だけで思っている。
女の方はチビ、近所の高校の制服を着ていなかったら小学生に見間違えていただろうと思う程度には小柄な少女、顔は可愛い系で、どこか別のところで見たことがある気がするけど、果たしてどこだったか。
このバカップルは、自分達が公園に来るようになった三年くらい前には、すでに公園に通っていた。
とはいってもそのことは別に目を引くわけでも気に障るわけでもなかった、大抵はただ静かに菓子を食って、すぐに公園を立ち去っていたからだ。
だから別に気にしていなかった。
けれど二ヶ月ほど前、四月初めくらいからどうにも様子がおかしくなったのである。
端的に言うと、ものすごくいちゃつくようになった。
自分達のような男子中学生やちびっ子達、その他色々な年齢職種の人々が訪れる健全な公園で、人目も憚らずいちゃいちゃいちゃいちゃと。
お手手繋いでいる程度ならまだいいのだが、少年の方が唐突に少女を抱きしめたり、少年が少女の身体を膝に乗せてぬいぐるみのように抱きしめていることもある。
所謂エロい事をやっているところは見たことはないが、時間の問題なのではないかと自分は思う。
ちびっ子も楽しく遊ぶ健全であるべきみんなの公園の風紀が、乱れようとしているのである、というかすでに乱れてる。
これは由々しき事態である、不良ぶってる自分達ですら、この風紀の乱れっぷりはよろしくないと思う程度には、まずいと思う。
というか普通に…………妬ましい。
「というわけで、カチコミじゃー!!」
「おー!!」
「ものども、覚悟はいいかー!!」
「おー!!」
「リア充は!!」
「爆ぜろー!!」
そんなふうに雄叫びをあげていたら、タイミングよく公園の入り口からバカップルがやってきた。
「きたぞ!!」
「ものども、かかれー!! ……あっ!! おねーさんには怪我させんなよ!!」
「おー!!」
「突撃じゃー!!」
うおおおおお! と雄叫びをあげながら、バカップルの少年の方に友人と共に特攻する。
相手はどうせ陰キャ、ちょっと取り囲んで脅せばすぐに反省するだろう。
「――はえ?」
しかし、何故か目の前には曇り空が広がっている。
どう言うことだと思った直後に、自分が仰向けに倒れていることに気付いた。
「な、なに……!!」
足が微妙に痛い、打ちつけたらしい背中も痛い。
足を引っ掛けられて、転ばされた?
慌てて起き上がると、友人達も同じ目に遭わされたようで同じように身体を起こしている最中だった。
「なに、が……!」
その時、バチン、と凄まじい音と共に強烈な閃光が。
雷系統の魔術、それも多分かなり強力な奴。
おそらくは威嚇でそれを空中に放ったらしいバカップルの少年は、おそらくにこりと素敵な笑顔を浮かべて自分達にこう聞いてきた。
「君達、突然なんのつもりかな?」
幼子に問いかけるような優しげな口調だったけど、その裏に強い敵意と怒りが隠れているのがなんとなくわかる、恐ろしげな声だった。
「か……」
少年の顔をぽかんと見上げる、目元はフードでよく見えないし、マスクをしているから口元もよく見えない。
パチリ、と少年の手の内で雷光が輝いたその瞬間、おれは衝動的に叫んでいた。
「かっけぇ……!!」
「は?」
少年は呆気に取られているようだった、マスクをしているからわからないけど、多分口をぽかんと開けている。
「いっ、今のどうやったんすか!!? すげえ、すげえ!! あんな一瞬でおれら全員ぶっ飛ばすとか、マジすっげえっす!!」
正直言うと、滅茶苦茶怖かった。
けれど、それ以上にものすごくかっこいいと思ってしまった。
だってあんなにも鮮やかだった、何をされたのか全くわからなかった、こっちは五人がかりだったのに、あんなふうに一瞬で。
「いや別にあのくらいは……というか君達、なんで急に飛び掛かってきたのかな……?」
「うっす!! 毎日毎日いちゃいちゃしてるんで、このままだとこの公園の風紀が乱れると思ったんすよ!! あと可愛い彼女さんといちゃついてるのが正直ムカつくってか、羨ましくて!! それでちょっと……全員で取り囲んで、『わからせ』ようってことになったんす!!」
大真面目に正直に答えると、少年はやっぱり呆気に取られていた。
「そ、そう……」
「け、けどなんかもうすっごかったす!! おれら学校だとまあまあ強いワルで通ってるんすけど、五人まとめて一瞬で返り討ちにするとか、恐れ入ったっす!! めっちゃすげえ、なんかもう妬ましかったのとかどうでも良くなりました、まじリスペクトさせてください!!」
叫ぶと少年はドン引きしているような感じで一歩後ろに引き下がってしまった。
自分達の行動が彼を混乱の渦に叩き込んでしまっているのは承知の上、それでもこの溢れ出る尊敬と憧れの念を、止められなかった。
友人達と目を合わせる、全員どうやら同じことを考えているのであろうと長年の勘で察したので、少年に向き合い全員同時に叫んだ。
「そういうわけで舎弟にしてください、アニキ!!」
「い、いやだ……」
断られてしまった、けど諦めない。
一方その頃、バカップルの片割れである少女は一人で静かにその場にうずくまり、声を抑えて笑い転げていた。