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異能ある君は爪を隠す  作者: 御誑団子
第二部 恋は戦争

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反撃【3】

 刹那、空間に穴が開く。

 レーザービームすら生ぬるい硬度無視の万物貫通。

 彼女の攻撃は全てにおいて防御は意味をなさない。回避に専念し、一撃でも食らえばそれは死を意味する。

 見えない弾幕、僅かな前兆を、その機微を、一切見逃してはいけない。

 過去に例の無い状況がより一層集中力を研ぎ澄ます。

 まるで機関銃でも撃っているかのような空間穿孔を空を駆け回って回避する。

 不規則かつ予測不能の軌道、限界まで体を酷使して当てられないように逃げる。

「クッソ……」

 まだこっちに向いている。だけどもし、これらの攻撃が他人に向いたら……。

 この都市に住まう五千万の人々の命が危ない。

「……むしろ大立ち回りは被害を広げる……」

 だけど近付いても逃げるし、距離を取っても被害は広がる。

「だとして、どう戦えば……」

 前例の無い異能へ対する戦い方に頭を悩ませる。

 ……いや、行ける。問題は彼女の肉体の強度だ。

 今出せる最高速度なら弾幕も移動もなんとかなる。だけどそんな速度でぶつかれば人体は爆散する。

 急停止……目の前で?自殺行為に等しい。

 ……目の前じゃなければ。

 僕は翼を大きく広げ青白く発光するほど強くエネルギーを吹き出し噴流を生む。

「まずは地面に叩き落とす」

 ここからは一瞬でも止まればチャンスは露に消える。

 目から青白い炎のような光が漏れ出す。それでも視界はクリアだった。

 空気を押し退け穴を開け、衝撃波の波を発生させながら彼女に向かって飛んでいく。

 五十は超える空間穿孔の弾幕を最小限の動きで回避し一直線に、しかしかなり早い段階で門を開き逃げる。

 次は一キロ先の公園、大きく旋回したもののこの速度を維持できれば約三秒で到達できる。

 そして地上ならワイヤーを張り巡らせた蜘蛛の巣を展開できる。

 推進力(ブースター)として利用できる僕の異能なら音速を出さずに背後を取れる。

 無傷勝利、少なくともその糸口……


 その筈だった。


 僕が公園に到達する前に公園が丸ごと消滅した。

「えっ……」

 そこに、彼女の姿もない。

 嫌な予感がした。

 右左、前後、下、そして……

「上か!」

 見上げた瞬間、無数の流れ星が激しく燃えながら落下していた。

 空間を抉る事で取り込んだ瓦礫の全てを上空百キロメートルから落下させ、そして自由落下する瓦礫は隕石となって降り注ぐ。

 超長距離転移、しかも、持ち運べる物体の重量と大きさは事実上際限がない。

 即ち、準備さえ整えれば国をも滅ぼしかねない。この無数に近い流星群がそれを物語る。

 だけどこんな大立ち回りをすれば……。

『全システム起動━━都市防衛機構展開』

 黄金に光る防壁が展開され、降り注ぐ流星は防がれてしまう。

 しかし、防壁に衝突すること無く流れ星は消えていく。

「何が……」

 いや、そんな馬鹿な、それが出来たら……まずい!

 刹那、防壁の内側に流れ星が僕身に向かって飛んでくる。

 翼で受ける防御は間一髪間に合った。

 砕ける熱された瓦礫、重い衝撃が全身を駆け抜け、そして、絶え間無く流れ星が衝突し続ける。

「無茶苦茶な……」

 落下する速度をそのまま門を通して方向変換、横殴りの砲弾の弾幕が展開されていた。

 同時に、彼女の異能は最上へ至る。

 黒い光が僅かに見えた次の瞬間、何かが翼を貫通する。

 反って避けた事でその正体を見る。

 黒い点がありとあらゆる物体を抉りながら飛んできた。

 彼女の異能は指定する範囲が狭ければ狭いほど行程が早くなる。立体よりも面が、面よりも線が、そして線よりも点の方が、展開してから空間を抉る速度は早い。その点を、固定ではなく移動させながら門の開閉を連続して行っている。その速度は目で捉えられる速度じゃない。

 触れればあらゆるものを抉り取る黒点。零次元の攻撃手段。

 彼女はあらゆる移動系能力者が持つ理想とは真逆の極致に到達した。

 小さな黒点と、落下を利用した瓦礫の弾幕。本能か衝動か、自らの異能の最適解を叩き出した。

瞬間空間跳躍(ワープポインター)】よりも広く、【非実在証明論(ゴーストランナー)】よりも多くの物を運ぶ。空間を抉る最強の一角。


異空間格納庫(ゲートストレージ)


 けど、どんなに強かろうと弱点は存在する。扱うのが人間なら絶対に付け入る隙がある。

 思考を巡らせろ。止まるな。止まったその時が僕の死だ。

 タイミング、格納してから取り出すまでに僅かに誤差があった。格納した物体は速度や熱を維持できる?門の移動速度は?

「……そこか」

 タイミングを見計らう。

 撃ち尽くせ。

 瓦礫の流星群が弾幕になるのなら、必ずリロードを必要とする瞬間が生まれる。

 周囲の地面や壁を抉り上空から落下させ続ける事は不可能だ。何故なら格納するための入り口の数が三つ以上必要になる。しかも、許容範囲を遥かに超える大きさのだ。

 そんなことをするぐらいなら足を止めた僕に空間断裂を当てれば勝てる。にもかかわらずしなかった。

 やりたい事と出来る事とやるべき事がチグハグになっている。

 僕は体内のエネルギーを全て推力へ変換し弾幕の降る方、黒点が飛んできた方向に体を向ける。

 瓦礫の弾幕は……避ける必要すらない。回避に専念すべきは黒点ただ一つ。

 青白い光が翼のような形へ変わり、遥か彼方に届く流星になる。

『都市防衛機構━━最終機構展開』

 都市が地下へ格納されていく。鉄の更地に変わっていく。

 そして、地平の彼方、境界線に彼女は佇む。

 僕の翼を見てか否か、より一層弾幕が激しくなり、黒い光が輝く。

 一直線に、僕目掛けて飛ぶ黒い点は、しかし、発射された瞬間を見た以上僕にとっては回避は容易だった。

 右に避け、溜め込んだ推力を放出し、空気を貫き砕き、突き進む。

 全身を金属で纏い空気の壁を突破する準備をした。

 飛び交う瓦礫の弾幕は途中で尽き果てる。

 五キロを十秒かけて飛翔し、一条の青白い光が境界線に到達する。

 同時に、黒点の再装填が間に合う。

 黒い稲妻が再装填された黒点の不安定さを物語る。それでも逆転の一手としてその攻撃を選んだ。

 打ち出される黒点、迫る流星、衝突するのに刹那すらかからない。

 だから、僕は急停止した。

 ワイヤーを地面に突き刺し引っ張り体全体を仰け反らせ黒点を回避する。

 明らかに信じられないものを見た表情の彼女になりふり構わず距離を詰める。

 その距離、後一歩。そしてその距離は既に僕の間合いだ。

 逃げようとする彼女をワイヤーで捕らえ引っ張り逃避用の門から出す。

 気絶させるためパイルバンカーの衝撃のみを手加減した状態で撃ち込もうとした瞬間、逃避用の門から誰かの影が現れる。

「……触るな」

 彼女の後ろにあれが居る。

 身の毛がよだち、死の気配、暗殺者ならざる暗器の鋭さがそこにはあった。

「……抜刀!」

 左手に握られた日本刀が振るわれる。

 一瞬で焦りが心に満ちた。

 ワイヤーを切り回避するためにバックステップを行い、それ込みの居合が僕の首に迫る。

 死を、覚悟した。

 鋭い目が最後まで僕を見続ける。勝ち誇ることはない。最後まで。

 焦燥も、置き去りにして……

 首皮数枚を切り、血が滲み、そして、視界を塞がれ火花が散った。

 見慣れた後ろ姿が暗器の抜刀を止めた。

「遅れてすまん!翔!」

「……と、父さん!」

 父さんのブレードが彼方の斬撃をいなし、弾く。

「なんでここに!」

「急いで戻ってきた!それより、すまん!」

 父さんは僕を足蹴にして空中にとどまる。そんなことをすれば彼方の的になる。

 父さんの義足から空気が噴出し体勢を整え、彼方を迎え撃つ。

 距離を無視した居合、一撃目をいなし、返す二撃目も止め、防御をすり抜ける逆袈裟の三撃目もブレードの側面で切っ先を滑らせ完全に防ぎきった。

 着地した僕と父さんは遥と彼方に相対する。

「やはり暗殺特化の剣技だな。急所しか狙ってこない」

「……親子揃って化け物か。嫌になる」

 父さんの剣技はずっと近くで見てきた。見てきたはずなのに、知らない底を見せつけられた気がした。

「彼方は女の子の方を。私はあの暗器を相手しよう」

「わかった。一応言っとくと右腕は砕いてる」

「了解」

 父さんと肩を並べ僕は構える。

 今までにないぐらい心が軽くて、不安がない。

 負ける気がしない。

「彼方大丈夫?右腕が……」

「心配するな。それよりも気張れ。あの二人相手はワシ一人じゃ勝てんぞ」

「……う……ん」

 遥の瞳に光が戻っている。衝動が引いている。

 ……あぁ、そうか。彼方が彼女の要石なんだ。

 それでも、君たち二人が悪道を歩むと言うのなら。

「「行くぞ!」」

「「おう!」」

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