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異能ある君は爪を隠す  作者: 御誑団子
第二部 恋は戦争

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反撃【2】

 無人車両に乗って高速道路を法定速度ぶっちぎりで走る。

「翔……遥……」

 僕は車に揺られながら車内モニターに写るテレビ中継されている二人の戦いを見ていることしか出来なかった。

「もっと急いで!」

『これ以上はワタクシのスペックでは出せません。荷物をお捨てになりますか?』

「その荷物はダメ!」

 その荷物とは今だ再生中の博士の本体の方。捨てたら速くなるけどダメな気がする。

『どないするん?』

「そう言われても……」

 何も出来ない。武器の組み立てもまだ終わっていない。

 もどかしい……。

「出来ないことを嘆いても仕方ない。やるべき事を成せるように」

 そうだ、僕の仕事はここであたふたすることじゃない。

 覚悟を、この胸に宿る熱を絶対に絶やすな。手足が震えていざというとき走れるように。

「せやったら、その装置の見直しでもしとこか」

「……え?」

 聞き慣れない幼い声と聞き慣れた口調が背後から発せられた。

 恐る恐る振り返るとそこに幾度と見た眠っていた筈の女性が培養液から出てきたばかりの姿で立っていた。

「それと、上着貸しとおくれやす」

『あらまぁ。えらい遅いお目覚めやね』

「自分の事ですよ」

 僕から服を剥ぎ取り足で僕が作った機械を小突いている。

「……まぁまぁやねぇ。時間有り余ってるさかい、改良しよか」

「はい」

 まるでさっきまでの緊張感なんて無かったかのようにその穏やかな声は心地よく落ち着く。

 これは確かに良くない。気付けば手駒に取られていそうな、そんな雰囲気の女性だ。

 出来ることを最後まで。結果は最後に出る。それまでの準備を一切怠らず急いで翔達の元へ車は走っていった。




 空を旋回しながら上空に逃げた西園寺遥を追いかける。

 一気に上昇し上から取り込んだ瓦礫を降らせる攻撃を中断させる。

「何で追い付きやがるですか!」

「父さんから最速の名前を譲ってもらってるからね!」

 落下先に門を開き百メートル程離れたビルの屋上に出口を開き飛び出る。

 ……明らかに能力の使用が拙すぎる。

 異能を使用する感覚は人それぞれでまちまちだ。

 論理立てて使える人もいれば感覚的に使う人もいる。僕はまだ感覚的に使っているけど一つ一つ検証している段階。こんな事が出来る、あんな事は出来ない、みたいに。

 けど、指を動かすように動かし方を脳は学習する。だから客観的に見るのが難しい。

 それはほとんどの異能者がそうだと思う。出来る出来ないを自然と覚えてしまう。

 対して西園寺遥は違う。何も分かっていない。空間を抉り、抉り取ったものを収納し、別地点に排出する。多分それしか知らないし、それ以上の事を試したこともない。

 そうなれば瞬間的な移動しか使い道はないしそれなら即座に無力化できる。

 それにもう顔色が悪くなっている。

「ナオが来る前になんとかなるかも」

「……何でナオ兄が」

「君を助けるって頑張ってたよ」

 西園寺遥は奥歯を噛み締めて顎を引き睨み付けるように怒りを露にした。

「あの時、助けてくれなかったヤローがですか?」

「……うん」

「今さら……」

 ……人は間違える生き物だ。なら、その間違いを正そうとすることを否定したくない。

 けど、僕は彼女の心の奥底に土足で踏み込めない。ナオの側に立ってしまったのだから。だから、僕は何も言えない。言っちゃいけない。

「ナオ兄も……ハルにぃも親父も、あのクソ女も大っ嫌いだ!」

「……」

「オレは……オレには……零士にぃや源ちゃん、姫野が居れば、あの場所だけあれば良いんだ!」

 彼女が僕の頭の周りをハッキリと捉え、門を開く。

 閉じれば僕の頭は吹き飛ぶだろう。だから、その前に移動して回避する。

「は?」

 時間にして一秒未満。それだけあれば僕の速度なら避けられる。

「はァァあ!?」

 完全な不意打ちなら当たるだろうけど来るって分かっていれば行ける。

「避けんなぁ!」

「死ぬわ!」

 問題は彼女の潜在能力。

 心と異能は直結している。心の強さがそのまま異能の強さに繋がる。追い詰めれば異能が強くなるかもしれない。その強さが彼女は未知数だ。

 故に、速攻で方を付ける。

 溜め込んだエネルギーを解放し瞬間的な爆発力で高速の推進力を得る。

 一直線に彼女に向かって飛んでいく。

 驚きと恐怖が入り交じった表情を浮かべている。でも手加減は出来ない。

 例えまだ幼い少女と言えど所持している異能は日本どころか世界すら巻き込む。それほどまでに危険な異能。

 同情の余地はある。むしろ君は被害者側にいる。それでも、今歩んでいる道の先は悪だ。だからこそ、全霊を以て止めなきゃいけない。

「お前……お前も……何で……あの時……」

 恐怖が、驚愕が、わずかに色を変える。

ヒーロー(おまえたち)はあの時助けてくれなかったのに……なんで……今さらァ!」

 怒りが、それよりも濃い憎しみが、あらゆる感情を塗り潰した。

 瞬間、世界に断層が入る。

 分かったのはきっと勘だ。僕は衝突寸前だったにも関わらず翼を展開して軌道をずらし回避する。

 縦に入った断層は彼女の視界に入る範囲全てを切った。

「……まさか」

 空間を抉る機能を限界まで薄く伸ばし、広げて展開したんだ。開閉すればあらゆるものが切断される。

 四次元ポケットなんて比じゃない位凶悪だこれは。

 彼女は大量の吐瀉物を吐きながら笑ってこちらを見る。

「オエ……は、ハハハ……」

 怒りや憎しみを消費するのは快楽だ。

 ……快楽。食事も、娯楽も、興味も奪われていた彼女が渇望しないわけ無かった。

 人に対して使う。カンナギが腕を抉られた時点で兆候はあった。

「……衝動」

「ハハハ……アハハ……ハァ……」

 呑み込まれかけてる。

「気持ち悪い……」

 笑いながら彼女はそう言った。本音であり、衝動の言葉。

 自らの不快感を糧に物を壊す様はまるで幼児の癇癪。

 身も心も成長することを阻害され続け、自らの願いで母親を殺してしまった少女の末路。

 それはあまりにも……。

「……可哀想、なんて言ったら君は怒るだろうね」

 僕は言い表せない程複雑な心境だった。

 僕はヒーローじゃない。だから、僕の手も彼女には届かない。

 歯痒くてもどかしい、覆らないその事実は僕の心を締め付けた。




 青い星のようだった。

 漏れる青い炎のような光は尾を引くほうき星のようにも見える。

【流星】

 そう呼ばれるのも納得の姿。

 だから、遥か彼方にて輝く星に手を伸ばした。

 紙に描かれた絵をなぞるように、届くように……世界を破断する。

 無尽蔵に、無意識に、心に沸き上がる言い表せない感情を燃料に。

 胸が苦しいのに追いかける。気分が悪いのに走り続ける。体が重いのに手を伸ばす。

 息苦しくても呼吸は荒く、視界は暗くなって焦点が合わずとも常に捉えて、悲鳴を上げる体が嬌声を叫び始める。

 口の中が石鹸の味でいっぱいになって、鼻の奥が胃酸で痛くなって、それでも、それでも、オレは……この痛みを、気持ち悪さを受け入れていた。

「しつけーですね」

 まだ捕まらない。星は空を飛び続けている。

 掘削でも、切断でもダメ。でも、穿孔なら。

 立体だった攻撃を面に、そして、点に。

 空間の把握、門の展開、開き、そして閉じる。この行程を限界まで短縮する。じゃなきゃあの早さに追い付けない。

 あの男は多分門の展開の時点で攻撃に勘づいている。だから、回避が間に合ってるんだ。わずかな空間の歪みと、そこからでも回避できる初速。流星じゃなきゃその時点で勝ち確定なのに。

 なんで、オレはまだ動くんだろう。

 繋がりを切りたくないから?半分はそれ。でも同等に……

「チロチロ飛びまわんねーでくれです」

 あれを捕まえるのが思ってたよりオモシれーんです。

「鳥は、鳥籠の中がお似合いです」

 星を囲むように編み目状の門を展開し開閉を繰り返す。

 通過すればサイコロステーキになる。止まればオレの門が当たる。

 これが、オレなりの星の捕まえかた。あとは手を伸ばすだけ。

 なのに、星が止まることはなかった。門が閉じた一瞬の隙間を高速で抜け出す。

「は、ハハハ……オエッ」

 胃から逆流した吐瀉物……が遂に尽きた。これでもう何も吐かない。

 やっと本気を出せる。

 朽ち果てた花のようにオレは崩れ落ちて、でも星を見上げて手を伸ばすだけ。

 次は捕まえる。

 この胸に響く言い難い衝動が、痛みが、不快感が、オレを引き上げてくれる。

 でも、星は、オレを、見て、何か叫んでいた。

「もうやめろ!それ以上は死ぬぞ!」

 分からない。分からない。分からない。

 何を、言っているのか……分からない。

 痛い、は、気持ち、悪い……。でも、心地良い。

 自分が傷付くのは気分が良い。

「ハハハ、アハハハハハハッ!」

 なんで戦っているのかも、忘れよう。邪魔だ。こんなの……。

 こんな……

『遥……オレの、可愛い娘よ~』

『遥ちゃん。よしよ~し』

 耐え難い記憶……。

 頬を熱い何かが流れ落ち、同時に大事な何かを忘却する。

 この衝動に身を委ねるために……。

 そうしなきゃ■がりを……守れない。

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