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異能ある君は爪を隠す  作者: 御誑団子
第一部 流星の君
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いつもと違う朝2

 今日はクリスマス。街中には恋人同士の男女や子連れの夫婦が行き交い、僕達は群衆に紛れ街中を歩む。カンナギから貰った服を着て、彼女の手を引きながら。

「寒くない?」

「大丈夫だよ」

 僕が着ているのは赤のニットに白に近い灰色のコート、がっつりクリスマスカラーである。

 雫が着ているのはホットパンツに黒タイツ、上は白のニットに長めの茶色いコート。

 こういうのはあれなんだけど、雫の恰好……エッチでは?特に足。冬でしょ?こんな薄布一枚で温まる?

「……で、何処行ってるの?」

 後ろから雫が質問を投げかけた。どこ……と言われて僕達は何処へ向かうべきなんだろうかと思案する。

 ただ、朝だからお腹が空いていた。

「え、あ、その、先ずは……朝食?」

「朝餉!」

「うん」

 でも僕、外食とかした事が無いんだよなぁ。ケーキ屋さんの上にある喫茶店は良く行くんだけど……、事件の翌日だしなぁ。

「食べたい物ってある?」

「食べたい物……ん~」

 周りを見渡しながら物色しているが選べないようだ。ない、のではなくて、ありすぎて。

「……ぶらぶらしながら選びますか」

「……うー……ん」

 手を引いて歩く。キョロキョロとお店を目移りさせる彼女を。

 途中、僕の歩く速度が速いのに気付いた。彼女自身特に気にしていないようだったけど、彼女が食べたい物を選んでいるんだから歩く速度を合わせてあげるべきだ。

 雫の速度、雫の時間に合わせる。彼女が三歩進める間にこちらが少し遅めの二歩ぐらいでだいたい同じ速度だ。

 僕が歩幅を調整している間に彼女は食べたい物が見つかったのか歩みを止めて僕の手を引っ張った。

「あれ!あれ食べてみたい!」

 彼女が指差したお店はガラス張りになっていて外から中の様子が見える。彼女が指差していたのは子供が頬張って食べているこのお店で提供されている食べ物。

 お店の名前は……。

「……マ〇ク?」

「〇ックって言うの?この食べ物」

「いや食べ物の名前はハンバーガーだね」

 まさかの世界的に有名なファストフード店である。いや美味しいよ?毎日食べようとは思わないだけで。でも今日はクリスマスな訳だし、もうちょっと良い物食べたくない?

「ね、行こう」

「あっちょ」

 雫が僕の手を引っ張って行く。グイグイと強引に。満面の笑みを浮かべて。

 彼女からすればファストフード自体初めての食べ物の筈。なら特別なんだ。なんでも。だから……

「……ま、いっか」

 巻き込まれた事をしょうがないと思おう。別の美味しい物なんてまた別の日に食べに行けばいい。

 出来る事なら、雫と一緒に。




「いらっしゃいませ」

 並んで数分、僕達が注文する番がやってきた。僕達の注文を受け付けてくれるのは高校生のアルバイトの少女だ。

「お持ち帰りでしょうか?店内でお召し上がりでしょうか?」

「店内で」

「店内で、ですね……ご注文をどうぞ」

「その前に……」

 僕はポケットから財布を出し事前に細かくしておいた千円札を出す。

「貨幣はまだ使えますか?」

 店員さんはニッコリと微笑んで……

「はい、大丈夫です」

 ……と言ってくれた。

「じゃあ、これのセットを二つ」

 噛みそうな名前のハンバーガーを開口一番言えそうになく指を差して注文してしまった。

「ドリンクをどうぞ」

「……炭酸飲める?」

 ふと、雫が炭酸飲料を飲めるか確認をする。

「タンサン?」

 知らないようですね。

「一つはオレンジジュースで。もう一つは……コーラで」

「かしこまりました。お会計は…………」




 いつもはネットで注文して運搬サービス使ってるからこうしてお店に来てまでは無かったけど、誰かと食べに来るんなら悪くない。と、店内で二人向かい合う様に座ってトレイに並べられたハンバーガーのセットを前に僕はそう想った。

「「いただきます」」

 まずはハンバーガーを手に取り、包み紙を食べる部分だけ取り除く。……ちょっと多かったかな。美味しいからいっか。

 雫の方は、初めてだから少してこずっていたけれど何とか手に持って食べられるように包み紙を剥いて、二人一緒に思いっきり頬張った。

 久々に食べたけど、うん、おいしい。

「んんー!んんんん!」

 口に物を含んで喋ってる。

「お行儀が悪いよ」

 瞳を輝かせて何か言いたげに急いで粗食する。

「おいしい!」

「……」

 そう言って満面の笑みを浮かべるその姿に呆気にとられた。

「……ハハ……なら良かった」

 無我夢中でハンバーガーにかぶり付く。まるで子供の様だ。初めてに触れてテンションブチ上げの状態の。

 食べ方も下手で、口周りも手もベトベトになってしまっていた。せっかくの服が汚れてしまう前に僕は彼女の口元と手を紙で拭いた。

「あ、ありがとう……」

「いいよ」

 周りから見ると僕は子供の世話をする母親だろうか?母親の事全然知らないけど。

「ゆっくりね」

「うん」

 ……赤ちゃんがご飯食べるときの涎掛け……欲しくなってくるな。




 日は真上辺りを過ぎ、時計の針は昼前を示していた。店内は徐々に人が増え始め、僕達は他愛のない会話で一時間近く話し込んでから外に出た。

 次は何処に行こうかと彼女は問う。どこに行こうかと僕は返す。

 とりあえず父の職場まで歩いて行こうかと僕は提案した。少し遠いけど、色んなものを見ながら。

 昨日までの焦りはもう無かった。不思議と彼女とこうして居たいと

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