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異能ある君は爪を隠す  作者: 御誑団子
第二部 恋は戦争

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過去の栄光

 僕とナオは一度自宅まで帰り、荷物を持って自動運転無人車両で移動する。

 僕はというと通信デバイスを通しリモートでサロメさんの説明を聞いていた。

 例の、スペアポケットありの四次元ポケットのような異能の。

『つまるところ、瞬間移動とは四次元あるいは~、それよりも上の次元へ干渉し三次元空間を跳躍する異能です~』

「さっきの紙の説明みたいな?」

 紙の上に書かれた二つの点を線で繋げないように線で隔て、僕に見えるように画面に写す。

『直線一本のみかつ、この真ん中の線に重ならないようにが条件の場合~、四次元への干渉にはこの紐のように~』

 紐の端を点に重なるようにしてテープで固定、紐の中心を持ち三角を作る。

『本来は移動できない経路を通って目的地に到達~。平面の世界から立体を観測できないよーに~、立体の世界から多胞体の世界は観測不可~』

 瞬間移動に対して空間移動は紙を折り曲げるような異能。四次元からの干渉に近い。

 しかし、西園寺遥の異能は……。

『四次元ポケット、つーまーり~』

 サロメさんは別の紙を取り出し点が隠れないように線の上に置く。

『このように~、全く別の空間を用意することで問題を無理矢理解決~これなら線をどのように書いても目的地に到着~』

 これが四次元ポケットの正体。

「いわゆる亜空間異能……」

『はい~。超長距離移動も空間を抉り腕を切り落とすのもあくまで副産物~。本質はこれ~』

「立花夜奏博士が提唱した真罪、原点異能……【門】」

 腕を切り落とすのは開閉機能、亜空間に留めておくのは備蓄か。

 つまりは城門で、誰にも見つけられない領地を保有していると思えば。

「父さんが戦った時に逃げられたのは空間の異常が見つけられなかったんじゃなくて……」

『そもそも観測できていなかった、が正しいかと~』

 前例がないのなら過去の異能データから照らし合わせても意味がない。

 この世界にただ一つの異能。

『対処、可能なのですぅ~?』

「一応は。かなり神経を使いますけど」

 手を強く握り締める。

「問題は格納量……最大射程範囲である半径百キロメートル、直径二百キロメートルの球状空間全て亜空間に格納可能なら」

『国家転覆すら可能~』

 僕や超人すら足元に及ばない破壊範囲。

「彼女がそこまでの事をして無いのはまだ未熟だからかそれとも」

「翔。そろそろ目的地着くで」

 僕の通信に割って入るようにナオの体で立花博士が話しかけてきた。

「はい」

『……』

「ありがとうサロメさん。また後で」

『あっ……』

 僕は通信を切り外に出る準備を始める。

 通信を切る直前にサロメさんが何か言いたげにしていた。けど、何を言いたかったのか大体分かる。

 その人に気を付けろ。

 痛い程分かっている。万能の天才、その再来。善悪を踏み越え功罪を飲み干す人。つまり、人の倫理観では図れない偉人で罪人。

 この人は人類の発展のためならば僕もナオも、きっと顔も名前も知らない多くの人を犠牲にして、たった一人でその罪を背負って生きていくんだろう。笑いながら。

 ……。

「……頑張るか」

 僕な嫌いなものと同じ生き方。都市を一つの生き物として見た時と同じ生き方をするこの人と僕は折り合いを付けなければ。じゃなきゃ、僕は、いつか、文明を滅ぼす星になってしまうから。

 そうして、僕達は目的地に到達し、車を降りるとそこは見ず知らずの山中だった。

「えぇ……」

「えーと、ここをこうして……」

 乗ってきた自動運転無人車両は荷物を乗せたまま多足車両に変形する。

「さ、着いて来とぉくれやす」

 軽い足取りで登山をし始めた。

「いやいやいや!もう夕方ですよ!今から山入ったら遭難しますって!」

「心配しいひんでもいける」

「いけるわけあるかぁ!」

「せやけど、後少しやわぁ」

 後少し……後少しって言われたって……。

 ……。

「後何分ぐらいですか?」

「約五分」

「空飛んでいきますよ」

 僕は彼女の体を掴み空中から目的地を目指し始めた。

「ナオ!変わったら覚えとけよ!」

「今は寝てるさかい無理」

 本当に目と鼻の先に別荘……とは言えない、ログハウス?のようなものが見えた。

「あれですか?」

「そうそう」

 ……こう言っては何だけど、思ってたよりボロボロの家だった。

「長い間使ってへんさかい」

「でしょうね」

 下で乗ってきた車が追従していた。

「それで、なんでここに?」

「ここは……鉄四肢の初代活動拠点やったんよ」

「初代……」

 活動拠点。鉄四肢の……。

「秋明はんは【倉庫】にあらへんとあかん物を置いてへんかった」

「それは?」

 僅かに笑い、博士は満面の笑みで答えた。

「最高傑作」

 僕達はボロボロのログハウスに到着した。ボロボロとは言ったけどまだまだ使える。

 裏手にある地下への入り口に車は止まり乗せてきた荷物を下ろす。

「倉庫の鍵は遺伝子情報、必要な遺伝子は……」

「ウチ」

 荷物は本物の立花博士の死体が入った生命維持装置だった。

 生命維持装置は四足で自立して地下を潜り、倉庫の上下開きする鉄の扉の前にたどり着く。

『照合開始━━照合終了━━お帰りなさい。立花博士』

 重い鉄の扉が開かれ、薄暗い部屋に小さい照明が複数個灯る。

 教室一つ分の広さの部屋に数点の何かが置いてあった。

「えーと、あったこれこれ」

 円柱状の冷凍機を開き中身を取り出す。

 銀色の薬品のように見えた。

「それは?」

「人体蘇生ナノマシン。超人の細胞から作り出し、世に出せへん……出したらあかん最高傑作」

 そのナノマシンを何の戸惑いもなく自身の死体を繋いでいる機械に差し込みチューブから流し込む。

「これでウチは生き返る。損傷した脳細胞を補って傷口を塞ぐ筈……」

「……」

「……」

「……どれぐらいかかります?」

「ざっと丸一日」

 空は暗く、分厚い雲が覆っている。

 ここから丸一日……帰宅時間……深夜……。

「安心してや。キャンプ用品一式もってきてるさかい」

 ……なんとまぁ、用意の良いことで。




 山中の小屋、今は遠い都会の喧騒、見上げれば手が届きそうな星の天蓋。七時間もかけて来た甲斐があったような無いような……。

 僕は何故かバーベキューセットの火起こしをしていた。

「……」

 感傷に耽る。

「はぁ……」

 ……

 …………

 ………………

 僕なにしてるんだろう。

「溜め息?幸せが逃げんで」

「誰のせいだと……」

「仕方ないじゃん博士わがままなんだから」

 いつの間にかナオに変わっていた。

「お肉……」

「多くない!?」

 キロ単位で用意されたブロック肉……これ切りながら焼くの?

「博士なりのお詫びなんだと思う」

「ナオへの?」

「君への」

 僕への?

「倉庫のデータベース内に君の研究記録が入ってた。中途半端かつ本腰をいれる前の内容だけど」

「……そっか」

 体細胞か何かから調べてたんだろう。でも、手に入る情報が少ないから直接……そして父さんに、殺された。

 僕は内心を吐露した。

「頭下げるってこと知らないのあの人?」

「辛辣ゥ!」

 本当、サロメさんが言う通りの人だ。人として女として親として終わってる。誉められるのは科学者としての功績だけだと。

 それでも、記憶の片隅に人として接してくれた彼女がいる。仮面だったのだろうか。

 僕達はバーベキューコンロを挟み肉を焼き始める。

「おー、俗っぽい」

「いつもステーキとか食べてるから埃被った肉とか口に合うかどうか」

「金持ちを何だと……いつもステーキ食べないし」

 違うのか。

「いつもは……サイゼリアで食べてる。安いし美味しくって」

「想像以上に庶民派じゃん」

「違う。日本の食べ物は安くても美味しい。どこ行っても。イギリスとかヤバイし」

「言うてでしょ」

「イヤァ?」

 なんか、トラウマがありそうな眉のひそめ方をした。よっぽど口に合わなかったんだな。

「ふぅん。一応聞くけど、塩と○き肉のタレどっちが良い」

「タレで」

「はーい」

 深い紙皿にタレをいれて箸と一緒に差し出した。

 受け取ったナオは少しだけ楽しそうに肉が焼けるのを待っている。

「キャンプとかしたことないの?」

 思わず口から出た疑問にナオは質問で返した。

「翔はあるの?」

「あるよ。昔、学校の行事で。まだじいちゃんが生きていた時だった」

「へぇ……」

「皆でテント建てたり、川で遊んだり、肝試ししたり。一番盛り上がったのは……鹿の解体ショー……だったっけ?」

「それ盛り上がったんじゃなくて悲鳴が上がったんじゃあ……」

 確かに悲鳴の方が大きかったっけ。僕は興味津々で猟師のおじちゃんが狩った鹿が解体されてるの見てたけど。グロいのはじいちゃんのでよく知ってたし。

「でも、シビエ肉でバーベキューって中々無い経験だよね」

「うん。僕の中でも今も輝く大事な思い出だ」

 古いアルバムを開くように、届かない星に手を伸ばすように、懐かしい記憶を思い出す。二度と手に入らない幸せを振り返る。

「……」

「ほい、肉焼けたよ。いっぱいお食べ~」

「いただきます」

 二度と手に入らないならもう一度始めれば良い。そのきっかけを雫はくれた。

 アルバムに出来た空白が埋まる。それが、今の僕にとっては何よりも幸せなことだから。

「じゃあ、僕も。いっただきまぁす」

 僕も食事を始める。

「……」

「……」

「辛くない?」

「辛い……てか痛い」

 僕はこの日程博士を恨むことはないだろう。

 あの人が食べ物に唐辛子パウダーをひっくり返して入れるような味覚狂いであることを。

「水!水ァ!」

「火ィ!くひから火ィ出る!」

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