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異能ある君は爪を隠す  作者: 御誑団子
第二部 恋は戦争

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燻る意思を

 病院には何度か通った。異能覚醒後の翔と脳に重症を負った雷蔵、そして一応検査の私で。国内有数かつもっとも設備の整った病院には異能者隔離施設があると言う。見たことはないけど。

 この隔離施設には発現後不安定かつ強力な異能を持つ人がカウンセリングやメンタルケアを受けるために設けられていて、そこに居る異能者の中には言われるがまま人殺しをしてしまった人も居るらしい。

 ……当たり前に生きている人は幸運なんだろうか。日の当たらない場所で生きている人は不幸なんだろうか。

 そう考えた時、一番身近な人達がノイズになる。

 日の当たる場所で英雄と呼ばれる雷蔵は家族を犠牲にして心身ともにボロボロになって、誰よりも心を殺して生きてきた翔を当たり前だとは言えない。

 今の社会にどうしても合わない人間は居る。雷蔵も翔もそういった人間で、それでも合わせて生きようと頑張っている。

 だから、苦しんでほしくないと思うことはきっと不自然じゃない。

「到着~」

 そこはビックリするほど簡素な造りの扉だった。

「……ここ?」

「はい~。電離発火、即ちプラズマならば鉄すら融解~。ならむしろ燃えやすい素材で短時間で灰に変えて貰った方が安全~」

「それはそうですけど……」

 人が触れるだけで炭化する程超危険らしいそのプラズマ、だけど翔は触れても半身の大火傷で済んだ。いや、炉心と膨大なエネルギーの熱に耐えられる体を焼ける。そう考えればどれだけ……

 私は覚悟を決める。恐怖を踏み倒してその部屋に入った。

「……こんにちわ」

「あっ、雫ぢゃん……どしたの?」

 ベッドの上で外を見ていた彼女は私の入室と共にこちらに振り返った。

 そこにはくたびれたように見えながらも瞳の奥を輝かせている綾乃さんの姿があった。

 以前見た底無しの虚に光が灯っている。

「……話を……しにきました」

 笑う。何事もなかったように。

「うん。しましょう」

 ……私は、その目に睨まれている。光が、炎が宿った目に見つめられている。それは彼女にとって銃口を向けているのと変わらない。

 世間に疎くて、田舎暮らしで、友人の居ない私でも分かる。敵視されてるって。その理由は絶賛寝込んでる翔だってことも。

 同じ人を好きになった。その理由も動機も違うけれどこれだけは分かる。きっと私と貴女は相容れない。あの日、私達が双方を認識したあの日、お互いがお互いとも翔の知らない顔を知っていたから。

「翔君はどうだったあ?」

「皮膚移植は成功、火傷痕一つ残らずその後の生活には一切の支障はないとのことです」

「……そう」

 わずかに感情を察せられる。

 ガッカリした。明らかに。自分がつけた傷が消えると分かって。

「あの……」

 窓の外を見ている。鉄格子で飛び出せないようになっているその窓から日が差していた。

「翔と……距離をおいてください」

 私は心の底にある確かな願いを口にする。

「ずっとって訳じゃなくて、その、今だけ。せめて、この事件が解決するまで」

 彼女が私をはっきりと見る。

「…………」

「今の翔は、誰かを助ける為に自分を犠牲にしてる。ヒーローじゃないから、そんな方法でしか誰かを助けられない。だったらせめて、その負担を軽くしてあげたい……だから」

 嘘偽りない私の本音。彼女の顔を見てはっきりと分かる。きっと聞きたくなかっただろうって。

「今だけ……で、済むわけないぢゃん」

 今にも泣き出しそうで、壊れてしまいそうな中絞り出す。

「ぢゃないと……全部貴女に奪われる」

 彼女の頬から微かに白い炎のようなものが揺らめいた。

「翔が、一度でも貴女のものだったんですか?」

 分かってる。それは宣戦布告だって。

 奥歯を噛み砕くように表情を歪め、叫び声を必死に抑えて炎を灯す燃料に変える。

 それは恋心か、それとも……

 激しく燃える真白な炎は一瞬で触れるものを焼き尽くす。だけど触れなければ問題はない。包み込んでしまえば……

 私は私の異能を使って彼女の周りを障壁で包み込み閉じ込めた。

 私の障壁は認識で効果が変わるらしい。翔が言ってた。だから、この障壁は内から外に向かう事を防ぐように、動いてほしくない、そう願って。

 炎は、障壁の内側だけで燃え続けた。

 翔の異能は始めて使った際長時間使用が出来なかったように、彼女も長時間燃え続けることが出来ない。

 時間にして一分、燃え尽き体力が底を突いて炎は消えた。

「はぁ……はぁ……なんで」

 睨む目も、もう力なく。

「あたしは……ただ……」

 分かってる。分かってるよ。それでもね……

「私は、例え不可抗力でも翔を傷付けた貴女が許せない。だからここに居るんです」

 私は踵を返してその場を後にする。

「先程の言葉、どうか肝に銘じておいてください」

 扉が閉じたその後に声を殺すように啜り泣く彼女の慟哭を聴きながら唇を噛んで歩き出した。

「もういいのですか~」

「はい……」

「……了解~」

 帰り道、何故かサロメさんは私の頭を撫でてくれた。

「……良く頑張ったのですよ~」




 日は傾き空は橙色に燃えている。

 穏やかな朝を向かえるように君は目を開いた。

「……雫」

「おはよう。もう夕方だけど」

「ん……」

 私はベッドの隣に座って起きたばかりの顔を眺めていた。

「……いでで」

 翔は体を起こして私に向き直った。

「おはよ……」

 傷跡はない。火傷ももう治っている。でも私はテレビで見てしまっていた。焼け爛れた君の姿を……。

「……痛いところない?」

「………………特には……」

 全体的に体を動かし終わった後にそう答えた。

「そっか」

 あぁ、どんなに取り繕ってもダメだ。やっぱり私は……君が、一番大事な人だから……。

「……今回の事件降りよう。翔が傷付くの、見たくないよ」

「……」

 君は口をつぐんでいた。

「翔が居た方がいいのは分かってる。だけど、今回はなんだか、超人とは違う何か嫌なものを感じるから」

 多分、君は私の言う嫌なものが何なのか分かっている。分かっていて答えてくれない。

 底抜けの悪意、あるいは罪悪感の欠如した何か。それほどの存在が居なければ人間をあんな風に利用できない。人の尊厳を踏みにじるようなやり方は。

 それは絶対に手段を選ばないはず。目的を何がなんでも達成しようとするはず。そんなものと戦っていたら今回みたいなことがこれからも続くかもしれない。

 それでも、君は穏やかな笑顔で首を横に振った。

「ごめん、降りれない。多分、……に対抗できるのは僕だけだから」

「……」

 ……ずるい。ずるい、ずるい、ずるい。そんな風に笑われたら、私を助けてくれた時みたいに笑われたら、何も言えない。君はこれからきっと誰かを助けて、何食わぬ顔でこの大空を飛んで、誰かの心に熱を残して行ってしまうんだろうな。渡り鳥みたいに。

 私、離さないからね。神様だった私を世界に縛り付けたその責任、取って貰うんだから。

「なら、今ここで説明して。私を納得させて。そして約束して」

 それは今も前も変わらない。私のただ一つの願い。

「私の所に帰ってくるって」

 夕日に焼かれながら君は僅かに微笑んでくれた。

「もちろん」

 少し悩んで君は話し出す。

「僕の推察でしかない場所もあるから悪しからず」

 今回の事の真相を。

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