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異能ある君は爪を隠す  作者: 御誑団子
第二部 恋は戦争

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過ぎ去って、引き摺って

「零士、零士っちゅうんやな?ええ名前や」

 そう言ってそのおじいさんは頭を撫でてくれた。

「うち来るか?今日は冷えるけえな」

 優しく笑う親父の、しわくちゃなその顔を刹那に思い出した。

 親父はヤクザだった。でもヤクザと言っても昔と違ってこういった組織への政府の圧力とか風当たりとか強くて縮小、そこそこ大きかった先々代と違って今は親父しか居なかった。

「妻も娘も事故で無くしてなぁ。やから、この明園会はわしの代で終わりや」

 助けたのは寂しさを紛らわす為、それでも親に捨てられて寒空の下で踞っていた自分に手を差し伸べてくれたのは親父だった。だから、その恩を返したかった。

 俺に出来ることは少ない。掃除したり、料理したり、洗濯したり。でも、笑ってくれるのが好きだった。笑ってくれるってことは喜んでくれているって事だと思ったから。

 そして、そんな風に思って居たのは俺だけじゃなかった。

 俺の後に源と姫野がやって来た。源は小学校でのいじめと親からの虐待が原因で引きこもり、姫野は異能者狩りに襲われて両親を殺されていた。

 異能者へ対する偏見と差別の被害者。重なって見える部分は多かった。

「良くしてやってくれ。頼む」

 荷は重かったけど親父にそう言われたらやるしかない。せめて頑張れるように支えようって。

 色々あった。源が水が怖いって言ったから風呂の世話を見てやったり、すぐ攻撃的になる姫野と度々喧嘩したり、俺より先に居るのになにもしない彼方をなんとか動かしたり。

 ある日、俺達四人で親父の誕生日を祝った。

「こんなに食ったら、糖尿病で死んじまうよ」

 そう言いながら四人でホールケーキを食べた。

 笑ってくれた。その笑顔が、あの日の笑い声が、今でも好きだ。

「親父……」

「ん?」

「拾ってくれてありがとう」

 ひまわりの花畑を歩む。熱くて、暖かな日を歩む。

「儂も、ありがとうな。お前さん達がいてくれたお陰で人生の最後は幸せに終われそうだ」

 いつか終わる幸せを噛み締めながら俺達は生きていこう。

「零士」

「はい?」

「お前は力持ちだ。だからな、あの子達を守ってやってくれ」

「……言われなくとも」

「そうか!なら、思い残すことはない」

 それから間もなく、親父は息を引き取った。一昨年の話だ。

 きっと幸せだったろう。笑ってくれたから………………




「そう。それが貴方の幸せなんだ」

「零士にぃ!」

 記憶にノイズが走る。ヒビの入ったガラスが辛うじて割れていない、そんな状態で。

 傍らに最近彼方が連れてきた遥が涙を流しながら何かを吐いた痕があった。

「源ちゃん、姫野……」

 ああ、そうだこの女……この女が源と姫野を……。

「な、にが……もくてき……」

 頭を掴まれ指の隙間から睨み付けることしか出来ない。

「何も?ただ都合のいい駒にしたいだけよ」

「……外道が」

「何度でも。でも、そうね。同情はするわ。幸せを失うのはわたしも知ってるし。だから、自発的に動いてもらうようにするだけよ」

 電流に似た刺激が脳髄に走る。

「あ゛……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!」

「ここら辺の記憶をチロチロっと弄ってっと」

 自分の中の自分と言えるものに直接手を加えられる。

「記憶って人間、意外と簡単に捏造できちゃうのよねぇ。自分を守るために、自分で変えれちゃう。敵も味方も、妄想と思い込みで作れてしまう」

「や、やめッ」

 そこで意識が完全に途切れてしまった。




 翌日、目が覚めた。

 何かあったような気がしたが何も思い出せない。

 いつもの日課通りに全員分の朝食を用意するため台所へ向かう。ここ最近は市販品ばかり食べているような気がする。

 寒い廊下を歩き台所の前に入ろうとするとふんわりといい匂いが漂ってきた。

 扉を開けるとそこに■■■■(見慣れた)後ろ姿を見た。

 記憶にノイズが走る。

「……あ、おはよう」

「……姐さん?」

 そうだ、この人は親父のお孫さん。明園会をお継ぎになるお方。

「なにを……」

「何って朝食作ってるんだけど。わたし朝はお味噌汁と白米がないと始まんないんだよね。ちょっと待ってて……」

「いや、姐さんにそんな事させられませんって!親父にあの世でどやされる……」

「……そっ。なら手伝って」

 朝日に照らされて笑う姐さんの笑顔が眩くて俺は……

■■■■(心愛)を守ってやってくれ」

 いつか交わした親父との約束を思い出す。

「心愛姐!」

「姐さん!」

 源と姫野も起きて朝食の準備を行う。

 皆揃って朝食を取るのはいつぶりだったろうか。多分親父が死んでから長らくしてこなかった。

 そうだ、俺はこういった時間が好きだった。守りたいと思った。

 何物にも変えられないこの幸福を……。だから、守らないと……マモラナイト。

 この目障りな青白い光を消さないと。皆を……姐さんを……守れない……。




 動きがわずかに止まった翔の顔面に拳が入る。

「かけッ!」

 クリティカルヒット、ボクシングなら試合が終わってもおかしくない綺麗な一撃だった。なのに……。

「う……ぐぅッ!」

 少年はまだ立っていた。

「死ネ……動クな……来るナ……」

「翔!反撃しろ!殺してでもそいつを止めろ!」

 限界を超えて見る未来の風景に止まらない男が翔をなぶり殺す光景が見える。

 なのに、翔が取った行動はボクの言葉とは真反対だった。

 炉心を止め翼を散らし胸の光は消える。つまり、無抵抗になった。

 敵はお構いなしに拳を握り締め振りかぶる。

「あんの……バカが!」

 ボクは駆け出した。もう動かない手足を無理矢理動かしてあの男を止めるために。

 息は絶え絶え、なのに、翔は最後の力を振り絞って叫ぶ。

「ここに……ッ!」

 男が踏み込み拳を振り下ろす。間に合わない!

「……貴方達を害するものはもう何もない!」

 その瞬間、拳は翔の顔面に入り後ろに吹っ飛ばされる。

「クソッ!」

 ボクは飛ばされた翔と男の間に割って入る。

「今度はボクがあいて……を……」

「あ、あぁ……」

 だが男は止まり翔を殴り飛ばした拳を開いて見つめていた。

「俺は……ああ……やっと……止まれ……」

 そのまま膝から崩れ落ち地面に伏した。ボクは彼に近付き気を失ったか確認をした。その時気付く。その瞳から流すものがあった事を。

「……気付いてたのか」

 ボクは翔の方を見た。沢山の人に囲まれながら何やら呻きながら腕を振っている。大丈夫とでも言っているのだろうか。

 この男による二回の攻撃、その両方が大きく威力を落としていた。翔の攻撃による弱体化も大きかったのだろうが、それよりも翔のあの言葉はこの人の心が救われるには十分だったのかもしれない。救われた心は、止まれた思いは、異能を大きく弱体化させたことだろう。

 気付いてしまった。その心が救いを求めていることに。

 気付いてしまった。その思いを止めようとしていることに。

「……だったら、行動しなきゃだよな」

 その心はどこまで行っても英雄だ。例え目の前に会った背中を追いかけただけだとしても、その心は本物になったのだから。

「……お前はヒーローだよ。ボクが知らない、未来の英雄」

 もっと早く気付くべきだった。お前は、敵でも助けようと足掻く奴だって。

 ボクの未来視は新たな道を模索し始めるのだった。

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