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異能ある君は爪を隠す  作者: 御誑団子
第二部 恋は戦争

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反撃【1】

「……忙しいって分かんない?分からなそうだな!」

 ボクはビルから瞬間移動で人を運び出しながら反重力で崩れる建物を支えていた。にもかかわらず、敵が一人歩いてくる。

 正直ボクには戦える余裕なんてない。六つの異能を同時使用し頭が焼ききれそうで目と鼻と口から血が出ている。

 制限時間は既に超過、今はただ使い潰されそうになっている大馬鹿者に無茶をさせないために根性で何とかしている。けど、これ以上は本当に不味い。のに、なのに!

「は、ははは、さっきよくも、やってくれたのう」

 よりにもよって近寄ってきたのは【劣化模造】の奴。

 目の焦点が合っていない。よだれを垂れ流し狂ったように笑っている。

 加えて、さっき以上の速度で増殖するデッドコピー、しかもコピーしているのは超人。

「始めての気分よ。怒りというのはこんなにも気分が良いものだったのだな」

 怒りの消費、それは動物も含むもっとも簡単なストレスの消費方法。そりゃあ気分が良いでしょうよ。

「ッつゥ……いい加減にしてくれ」

 作り出した軍勢をボクと後ろに居る人々に差し向けてきた。一切の躊躇無く、我を失って。

「ッ!……逃げろ!」

 地面を蹴って迫り来るデッドコピーの群れ、逃げ惑う群衆。その間を一条の光が通り過ぎた。

「は?」

「なぁッ!?」

 ボクは驚きを隠せなかった。

 だって、一個人が保有する異能があらゆる異能を凌駕するその光景を目の当たりにしたから。

 デッドコピーの群れが通り過ぎた余波で蹴散らされ脆く消え去っていく。

 異能は心と直結している。ただの真似事とはいえ英雄に憧れたその在り方は本物、故に、雨宮翔の異能は【超人】カイン・シュダット、【絶対守護領域(パーソナルエリア)】雪村雫の二人に届く。まだ、覚醒したばかりの発展途上の力で。

 ボクたち全員が一条の光に目を奪われた。

 紛れもないヒーローに。

「翔!もうちょっと遠くで戦え!」

 無茶を言うなと答えるように静止する。青白い光を放ち巨大な翼のようになって。

「あれ、あれが……ヒーロー……」

 知らない……ボクはこんな異能、知らない。未来にすら映らなかった巨大な翼を。そして、新しく生まれた未来の可能性を。

 視線を翔に向けたわずか一瞬の間にデッドコピー達は光に群れる蛾のように集まっていった。

「なん、制御が効かん!?」

 コピーした個体ですら強者との戦闘欲を抑えられないらしい。規格外の異能者とはよく言ったものだ。

 だが翔も無策で飛び回っていた訳じゃなかった。ボクは空中にキラリと光る目を凝らさなければ見えない細い糸が張り巡らされているのが分かった。

「これ……鳥籠」

 ワイヤーのジャングルを即席だが作り出す。

 瞬間、爆発的な加速により翔が鳥籠の中を駆け抜ける。超人のコピーを一切無視して元凶に向かって翔んだ。

「く、来るなぁあ!」

 無尽蔵にランダムに作り出す大量の劣化コピーをワイヤーを掴み曲線を描きながら回避し僅かな隙間を掻い潜って男の元に辿り着く。

「この手の異能は、本体が弱点!」

 鳩尾に蹴りが入り、男の口から大量の吐瀉物が漏れ出す。

「ぐ……ぞ……がぁぁああ!」

 二発目、推進力によって加速した拳が鳩尾に落ちる。

「あ゛ッ……」

 男が完全に白目を剥いた。意識が完全に無い。にも拘らず超人のコピーは止まらない。

「【自律稼働】……本来は人形に使う異能をコピーに……」

 また翔は爆発的な加速で翔ぶ。

 ワイヤーを掴み急旋回、目にも止まらぬ速さで一体目を撃破する。

 劣化コピーゆえにその耐久度には問題がある。そして、超人の強さの一つはその硬さだ。その硬さが劣化している以上、雨宮翔の敵ではない。

 ワイヤーを掴み弓の弦のようにしなる。そして、矢のように自身を放つ。その行動を繰り返し五秒にも満たないうちに全てのデッドコピーを倒しきった。

「これで二人目」

 着地し噴流を放ち、大きく呼吸をして排熱を行う。

 身体からは熱を放ち冷たい空気と触れ水面のように周囲の空間が揺れている。

「……しゃ、写真!動画でも良い!撮っとけ!」

 体内に出来た青く光る筋は消費しきれていない余剰分のエネルギーが出口を探して穴を開けている様子そのもの。本人は絶叫をあげ痛みに悶えてもおかしくない筈なのにその姿はまるで燃える天使のようだった。

 炉心の性能が良すぎる、というのも考えものかもしれない。

「……」

 全員の避難が完了する。

 ボクの仕事は終わった。

 見えなかった未来、可能性としては限り無くゼロに近くて未来視すら拾わなかった微かな希望は暗闇のような未来で星のように輝く。

 青い光と共に。

「……最後まで見守るよ。皆」

 六方向の一面にのみ四角の障壁を張り巨大な筋肉の塊が地上に着地する。

「はぁ……はぁ……殺す……殺さないと」

 皮膚は赤黒く筋肉によって膨れ上がり汗が蒸気のようになって高熱の体を冷やす。

 翔の冷却が終わった。大きく呼吸して炉心をより稼働させ一層青白く輝く。

 この大騒動最後の戦いが始まろうとしていた。




 熱い。熱い。熱い。なのに、体は悲鳴を上げるどころか好調だった。

 痛いのは嫌だけど心が軋むよりマシだ。それに、思いの外体が軽い。

「……何の……為に」

 純粋な疑問が口から溢れる。

「君達は戦うの?」

 それが、僕の運命を左右した。

 刹那、人の声帯からは絶対に出せない絶叫が響き焦点が合っていない目がハッキリと僕を見た。

 僕を敵と認識した瞬間だ。

 ワイヤーの中を一直線に駆け僕目掛けて突き進む。次は回避をしない。真っ正面から受け止める。

 ワイヤーを地面に突き刺し、糸を伝って液化した金属を流して体を固定する。

 突き出した拳に合わせて翼の盾を展開、攻撃を止める。

「グッ……」

「さっきのお返しだ!」

 小さな筒状に加工した翼に溜め込んだエネルギーを射出する為に使用する。

 パイルバンカー、それは義手目掛け放たれ障壁に阻まれる。

「クソッ!」

 障壁系異能の強さはよく知っている。雫の障壁はその他の異能とは一線を画しているがそれでも足元に及ぶ。全方位ではないからこその強みかもしれない。

「展開速度が速すぎる」

 恐らくは自動展開。だからこその展開速度だ。

 だけど思考の隅っこに何か引っ掛かるものがある。もっと、こう、致命的な欠点を見落としているような……。

「しっっ、ねぇぇぇえええ!」

 振りかざされる拳が何度も僕の翼を殴り付ける。自分の拳が血だらけになっても、それでもなお。

 歯を食い縛っている。目をひん剥き睨んでいる。力を込めて拳を握り締めている。まるで、そうそれはまるで……。

 思考が完結する前に固定していた地面がひび割れ僕の体は後方に飛ぶ。

「この……やろ」

 考える暇を与えずに速攻で潰しに掛かる。あぁ、それは最強の戦法だ。

 カインは本気の敵を叩き潰したいという思いから全力を出せるようになるまで待ってくれるが、本来はそうはいかない。こんな風に攻撃をさせる暇を与えずに余裕を潰して削り倒す。力と耐久力があるなら最強の戦法。

 こういった手合いに思考を加速させる【加速】は強い。だから僕はせめて結論と対抗策を素早く出して対応する。それが凡人に出来る最強の戦術だと思ったから。

 見落し、致命的な欠点、なぜ、どうして、拳を振るった時障壁は展開されていなかったのか……。

 迫り来る敵に僕は足元に転がる瓦礫を投げた。一つは軽く、もう一つは思い切って。

 軽く投げた方は当たり、強く投げた方は障壁が展開され防がれた。

 異能兵器は外付けの異能、装着者の心と同期しないが影響は受ける。なら制御方法は?何を基準に発動している?

「……速度ッ!」

 自身ではなく向かってくる物体の速度に反応して障壁が展開される!なら、装着者の意思は一切関係無い!

 ならどうする、どう対策を……

 迫り来る敵が、振り上げた拳が、スローに見えるほど思考を巡らせる。

 ……これしかない。

 踏み込み突き出された拳を屈んで避け、突っ込んでくる敵を受けた。

「ウグッ……」

 予想通り障壁は展開されない。僕は奴の突進を全身全霊をもって止めた。

「こっから……ここから!」

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!」

 障壁は雫みたいに全方位じゃなく六面立方体の一面のみに展開される。つまりこのまま飛翔すれば上空まで連れていける。

 胸部の炉心から生まれたエネルギーを推力に使用、翼から甲高い音と共に噴流を吐き出す。

 爆発的な加速と誰も追い付けない速度で空に向かって翔んでいく。障壁の境界に皮膚を焼かれそうになるがその痛みすら今はいらない。

「な……にを……」

 頭が冴えたのか、男が現状を少しずつ理解していっている。

「待て……これ、は!」

 相変わらず身体強化というのはシンプルながら強い異能だと再認識する。

「その障壁、地球で叩き割ってやる!」

 これはカインにやった攻撃の縮尺版。

 雲を通り抜けた辺りで敵の胸ぐらを掴み空中で急停止、細かく噴流を出して姿勢制御を行いながら真下に向かって一気に加速する。

 空気の壁を突破し地面に向かって翔んでいく。さながら隕石のように。青く燃える星となって。

「やめッ!」

「ないッ!」

 男を地面に向けて思いっきり叩き付ける。意図してか否か、衝突寸前に地面に向けて張られた障壁は粉々に砕け散り地面に大きなクレーターを作った。

 衝突時の衝撃で白目を剥き気絶した男は身体が痙攣するように動いていた。

「……疲れた」

 じんわりと右半身が熱くて刺すように痛くなる。

 アドレナリンによる興奮状態が終わったんだ。視界が揺らぐ、力が抜ける。炉心すら維持するのがやっとかも……

「翔ッ!」

 遠くから声が聞こえて、そっちを見るために男を視界から外した。

 あ、カンナギ……終わった。怪我人……楠さんは……。

「避けろ!まだ……」

「フゥゥゥウウウ……」

「動くぞ!」

 視線を戻したその時にはもう、拳は目の前だった。

 防御は間に合わず腹部に直撃し、内臓に衝撃が走り胃袋の中身が吐き出された。

「オェッ……」

 歯を食い縛り痛みを堪え、まだ動く敵を制圧するために気合いを入れて戦闘態勢に戻る。

「ハァ……ハァ……」

 歯を食い縛っている。目を見開いて睨んでいる。拳を強く握り締めている。

 その姿はまるで、まるで……

 脅威から守るべきものを守ろうとする決死の覚悟をした人の姿だった。

 ……気付いてしまった。

「殺す……」

 ボクは、気付いちゃいけないものに気が付いてしまった。今目の前に居る男の胸中と、膨れ上がった感情を。

「お前を、殺して……皆を……」

 あの女が操ったこの人の心、それは……

「……………………ま、守らない、と」

 誰もが持ち得る守るべき物を守ろうとする当たり前の感情。

 僕がクリスマスの夜に抱いた彼女への想いに似たものだった。

ファ○キン長時間労働。


25000PVありがとうございます!そして、更新遅れて申し訳ありません!

また、多くの誤字脱字報告、誠にありがとうございます。本当にありがとうございます!


二章はようやく折り返し、登るだけ登りました。あとは一気に下降するだけ。読者の皆さんに喜んでもらえるようがんばります。

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