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異能ある君は爪を隠す  作者: 御誑団子
第二部 恋は戦争

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ある少年の理想

 あたしの身体は燃え上がる。まるで、炎のように、それ以上の熱球となって、街を焼く。

 上空に居るにも関わらず地上に居る人々に熱が届く。

 悲鳴が聞こえる、叫び声が聞こえる、逃げ惑う声が聞こえる。

 もしこのまま地上に落下したら人死にが出る、じゃすまない……。

 あたしはヒーローでもなければ悪党でもない。人殺しなんて、とても心が持たなかった。

「いや、いやぁ!」

 溢れる涙すら瞬時に蒸発する。

「誰か、あたしを止めて!」

 それは紛れもない助けを求める声。だから、その言葉にヒーローは答える。

 青い光が熱球が放つ光の中を貫きあたしの居る中心点へと到達し、鋼の翼が熱を遮るように包み込む。

 そして、君はあたしを抱き締める。

「……翔君?」

「遅れてごめんなさい。助けに来たよ」

 あたしに触れた皮膚が焼けている。

「……ダ……メ!離れて!」

「大丈夫」

「大丈夫じゃない!」

「大丈夫!だから、聞いて。深呼吸して、心を落ち着かせて。焦っちゃダメ。落ち着いて、心を静めるんだ。そうすれば、綾乃さんの炎は小さくなるから」

 どう足掻いても君を焼いてしまう。のに、君は何事もないように悲鳴もあげず優しく囁いてくれる。

「楠さんを人殺しにはしない。絶対に、助けるから」

「フぅ……ッ!」

 こんな状況なのに胸が高鳴る。触れてくれる君が、助けようとしてくれる君が、まるで特別であるかのように思えてしまったから。

「うん……うん!」

 必死に心を落ち着かせる。そうやって熱が引いていく。

 君の翼はあたし達を包み熱が外に出ないようにしてくれている。

 心の熱に、あたしの火は連動している。

 静かに落下していく。消えていく。地に落ちて花開くように、幾重に重ねられた君の翼は開き熱で空気が歪みながら蒸気をあげる。

「はぁ……はぁ……」

 そして、あたしは自分の犯した罪を目の当たりにする。

「かけ……る……」

 あたしはその光景を見て言葉を失った。

 焼け焦げて、爛れた、君の右半身を……

「あ……ああぁぁ……」

 なのに君は服が焼けたあたしに半分ほど焼けた上着を羽織らせてくれた。

「だぁいじょうぶ。死にはしないから」

 何をどう見ても大丈夫じゃない。笑うその表情すら強がりにしか見えない。

「翔!」

 遠くからあたしを助けようとしてくれた幼い少年が瞬間移動で跳んでくる。明らかに動揺を隠せていないその様子からこれがどれ程不味い状態なのかより一層思い知る。

「お前、これ……今すぐ病院に行くぞ!放置したら死にかねない!」

「……それよりもやることがある」

 遠方を睨む君の視線の先にあたしをこんな風に使った心愛がまだ佇んでいた。

「あれを止めなきゃ」

「止め……いや、でも……」

 翔君からの言葉を先んじて聞いたかのように言葉を詰まらせる少年は苦渋の決断を下すように、苦い顔をして返答した。

「あぁ。行って。どうも、未来はお前を使い潰す気らしい」

「……うん。ありがとう」

 口しか見えないけれど君は確かに笑っていた。

「楠さんをよろしく」

「あぁ。任された」

 大きく広げた翼は巨大な鳥のみたいで、輝く胸は星のようだった。

 焼けた身体に鞭を打ち、遥彼方に向かって飛翔する。

 いつか見た、流れ星のように。

 あたしを置いて飛んでいった。




 心底、怒りが込み上げてくる。

 その怒りは衝動に依ったものではなく、むしろ私怨が混ざっている。けどそれ以上に許せないものがあった。

 利用した。楠さんを。僕の一番近くで平穏を過ごす彼女を。

 僕は過去に二度殺されかけて、その経験から友人を作らずに過ごしてきた。そんな僕に楠さんは話しかけてくれて、仲良くしてくれた。

 煩わしく思うこともあったし、仲良くしたくないと思ったこともあった。けどそれは傷付いてほしくなかったから。

 それでも、僕の理想とする何気無い日々を見せてくれた。だから、本当はこんな裏の世界に巻き込みたくなかった。血生臭い、この世界に。

 傷付くのは僕だけで良い。僕だけが……戦えば良い。それを、お前は……。

「覚悟、出来てんだろおなぁ!」

「出来てるに決まってんでしょう!」

 空を亜音速で飛行しビルの屋上に向かって行く。

 だが、三つの影に進路を阻まれ旋回するようにビルの周りを滑空する。

「何が……」

 ビルのガラスを義手の腕で掴み張り付く。

「フゥ……フゥ……」

「身体強化の異能!?いや、あの腕……」

 異能兵器……内蔵された異能は障壁、加えて定まらない焦点に充血した肌、異能活性薬、いわゆる薬による異能の強化を行った後に見える。

「そこまで……そこまで使い潰すのか!」

「えぇ、もちろん」

 ビル街に響き渡るおよそ人とは思えない絶叫が木霊する。

「殺す、殺す、殺す!」

 憎悪の増進、感情の爆発、異能は心と直結している。こうなってしまったら、手はつけられない!

 超人に匹敵する脚力を見せビルを破砕しながら僕めがけて跳躍する。振るわれた拳を翼で受けるも後方のビルに吹っ飛ばされ貫通、もう一つ後ろのビルに衝突する。

「いっ……たぁ」

「アハハ!アハハハハハ!」

 高層ビルを豆腐を切るように薙いで迫る水圧カッターが迫り来る。回避したらビルの中に居る人たちに直撃する。翼で受けるしかなかった。

 僕の翼は超人の本気の一撃を受けてもびくともしなかった。が、水圧カッターは翼を徐々に削って切断していく。

「自力でここまで出来るわけがない……圧縮の異能を後付けされたか!」

 翼の一部を変形させて水圧カッターの元の方へ砲撃する。

 水圧カッターは一度止まるが遠方に水の球体が見えた。

 同時に、斬り倒したビルが崩れ始める。中にはまだ人が居る。

「さてヒーロー、わたしは逃げるけど、人の命と悪党の抹殺、どっちを選ぶのかな?」

 一瞬動きが止まる。どう足掻いても人命の方が大切だ。だけど、その間に攻撃が止むとも思えない。

 どうする?どうするべきだ?

 せめて僕がもう一人いれば……。

「広域化、重力場、反転【広域(アンチ)反重力圏(グラビティゾーン)】」

 崩れるビルと人の身体が軽くなり浮き始める。

「人命はお任せしろ!全員もれなく助けるぞ!」

「カンナギさん!」

 目と鼻と口から大量の血を噴き出しながら崩れる建物を一人で支えている。

「瞬間移動、がフッ……終点固定……、許容……限界突破……【瞬間避難移動(テレポートテイカー)】」

 ビルの中やビルの下に居た人々が安全圏まで瞬間移動で運ばれていく。

 これがあらゆる制限がないコピー能力、恐らくはその最上位の力。

「やるべき事をやれ!雨宮翔ッ!」

 カンナギの檄に思考がはっきりとする。

 再びビルを足場に跳んで来た義手の男を今度は確実に止めた。

「お前は後回し、まずやるべきは……」

 圧縮される水球に視線を向ける。次の発射まで間に合わない。なら、開けた場所で待ち構える。

 一直線の道路を背後に水圧カッターを防ぐ為、水の勢いを受け流せるように変形させ湾曲した翼を展開する。

 放たれた水砲は湾曲した翼をそれでも削って切断していく。だけど、準備は出来た。

 それは僕の異能の課題、初速の遅さ。どれ程の推進力を得ても瞬間的な速度で負ける。逆手に取ることは出来ない。これは致命的な弱点だから。

 瞬間的な加速、爆発的な推進力、これを、炉心からのエネルギーを溜め込む機関を作って行う。

 水圧カッターが止むよりも前に僕は溜め込んだエネルギーを放出する。

 瞬間、僕は衝撃波と共に水球の元まで一気に翔んだ。

 瞬間的に出た速度は時速二百キロ、溜め込んだエネルギーと飛行するためのエネルギーは別に分けているからそのまま飛行し続け加速する。

「お前か」

 水球の下に不摂生が祟ったような細い女の子が狂気的な笑みを浮かべながら異能を行使していた。

 僕はワイヤーを展開し速度を落として、攻撃を回避しながら腹部を蹴り飛ばす。

 気絶と共に水球は崩れ地面に落ちていった。

「まず一人」

 瞬間的な加速に身体はギリギリついてきた。行ける。これなら、奴らを止められる。

 僕は翼を再度展開、形状を速度重視の小さいブースターのようなものへ変えエネルギーを放出し青白い光の翼を形成する。翼による機動力は捨てる。方向転換は全てワイヤーで行う。

 再度、瞬間的な加速を行う。

 どんどんと世界が遅くなっていく。そんな気さえする速さであらゆるものを置き去りにした。

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