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異能ある君は爪を隠す  作者: 御誑団子
第二部 恋は戦争

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君は眩く星のよう

「ヴぉえ……」

 遥の口から大量の吐瀉物が吐き出された。

「あーあーあー、大丈夫ぅ?無茶させたわね」

 解放しようとわたしが近付くも遥は差しのべた手を払い除けた。

「汚ぇー手で触んなです」

「あら、なら、自力で頑張ってね」

 上目遣いで睨み付ける彼女は怯え、それでも力強かった。

「この調子じゃ荷物全部は無理そうだから必要なものだけ持って跳びましょう。ここから十キロ程離れた都市部の屋上に転移ね」

「この……こき使いやがって」

「使いますとも。一番便利なんだから」

 わたしは複数の義手や医療用ナノマシンとか、色々手に持つ。

「ハァ……ハァ……ォエ……もうでねーです」

「じゃあ行こっか」

 その場に残した綾乃も連れて行く。

「一回上に飛んで他の子達も連れて行くわ。死なせるのは目覚めが悪いもの」

 一度倉庫まで飛び、戦闘の跡を見る。

「……派手にやられたわね」

 さすがに肝が冷えた。腕が切り落とされた彼方、吹き飛んだ零士、地面にめり込んだ姫野、目を回している源。

 時間にして一分もなくやられたのでしょう。

「みんなも転移させねーとでしたね」

「そそ。さぁ、頑張ってね」

 空間の縁取り、全員を別々に指定して転移させ、最後にわたし達を飛ばそうとしたその瞬間、倉庫の天井を突き破り青い光と鋼の翼が現れる。

 全身の毛が逆立った。それは警告、危険予知。あり得ない想定外の事態が起きたから。それはあたしにとって最悪のシナリオ。

「そう、来たんだ」

 雨宮翔の姿が夕日に照らされて露になる。

「……」

 その瞳はただ敵意を向けている。

 幸いにも彼が襲ってくるよりも早く転移に成功した。だが、分かってる。すぐ見付けるって。

 ビルの屋上、街を一望できるその場所からわたし達がさっきまで居た倉庫に視線を向ける。青い光が星のように眩く輝いた。夕日に染まる世界に異物が混ざるように。

「そう、なら、やらないとね」

 遥も綾乃も目を奪われている。だから今のうちに全部やらないとね。




 あたしは、きっと笑っていた。都合よく、今の状況を解釈してしまったから。だって、まるでお姫様のようだったから。

 日の当たる場所に居るあたしを見てくれなかった。日陰の世界で君は戦っていたから。暗闇だからこそ君は眩く輝く星のように見える。

 だからあたしも日陰に入った。こっちなら君もあたしを見てくれる。チャンスが巡ってくる。やっと、やっと、やっとやっとやっと!(きみ)に手が届く……。

「ヒーローってこれだから嫌なんだよねぇ」

 翔君に目を奪われていたあたしは首の後ろに鋭い痛みと共に何か熱いものが体内に流し込まれた。

「な、にを……」

「強くて、カッコ良くて、まるで世界の全てを救えるよな顔をして……、そんなこと無理なのにね」

 心愛が何かあたしに打ち込んだ。何を……。

 その手には無針注射器が、そこにあったアンプルの一つが無くなっていた。

 アンプル……異能発現薬……。

「……なに?」

「はーい、星に見惚れてる場合じゃないわよ、遥」

 気を取られていた遥が心愛に触れられるとどこか遠くを見ているかのような虚ろな目をし始めた。

「先に謝っておくわ。わたしの異能は【感情見識】なんて生ぬるいものじゃない。触れればその子の脳内すらいじり回せる。記憶、感情、価値観、倫理観、何でもね。異能だって使える」

 ゾクリと、背筋をおぞましい悪寒が這う。あたしは、あたしは始めて心愛という女性の本性を見た。

 冷たく笑い、吐き出すように見下す、この世全てを見捨てた少女の目を。

「貴女の心を見た時、計画を変えた。本当は谷深雪を使うつもりだったけど、不確定になるぐらいなら貴女の方が良いなって」

「何が……何の話!」

「日陰に入りたいんでしょう?」

「へ?」

 笑う。心底あたしを見下して。

「なら、ヒーローの敵になるのが手っ取り早くて良いじゃない」

「……ちが……ちがう……あたし、そんな事……願ってなんか!」

「だから利用させてもらうの。どんなに異能を発現させられる薬も、異能そのものの基礎である強い感情がないと強くて制御の効かない危険なものにはならないから」

 ああ、あたしは……

「察しの良い貴女なら後は分かるわね」

 間違えた。

 あたしは、翔君を殺すためのとっておきだったんだ。

「……嫌、嫌だ。そんな事したくない」

「なら助けも呼ばすに一人寂しく死になさい。愚かで無知な、バカ女」

 全てに絶望したような顔をして彼女は遥を動かした。

 瞬間、視界が変わって広くどこまでも続く夕日に燃える空に放り出された。あたしはそのまま自由落下していく。地面にむかって。

「嫌だ、嫌だ、嫌だ」

 誰か助け……

 その時、視界の端に青い光が見えた。

 青い炉心の光、青白い翼の光、夕日を反射させる鋼の翼、翔君が落下していくあたしを助けに来た。助けに来てくれた、来てしまった。

 伸ばそうとする手を押さえる。溢れる涙を必死に抑える。嗚咽を、動悸を、一生懸命隠す。

 君が来る。来たらあたしは殺してしまう。わかる。自分の身体の中で何かが形を無そうとして居るのが。それが異能だって。

 だから来ちゃダメ。

 死に向かう恐怖よりもあたしは雨宮翔を思う気持ちの方が強く上回った。

「来な……いで……」

 か細く、今にも消えてしまいそうな声。あたし自身そんな声が出るんだって驚くほど……悲痛で小さな叫び声だった。

 そんな声を聞いて君が来ないわけ無かったのに……。




 異能の発現には強い感情が必要になる。薬を使えばより一層。

 あの時見た楠綾乃の心は恋していた。

 負の感情は一時のもの、使い果たせば底をつき、感情と直結した異能は弱くなる。だけど、正の感情なら?

 恋、誠実、希望、信仰、等々は使っても湧き出る。負の感情よりも強くなることは稀だけど、一度上回れば負の感情に負けることは基本無い。

 綾乃の恋は世界を巻き込む。異能者となって。

 わたしは確かに見た。その心が、死の恐怖よりも誰かを想う気持ちの方が上回った瞬間を。

「……やった」

 刹那、綾乃は眩い光を、雨宮翔を上回る光量を発し爆発する。

自家発火(ファイアスターター)】や【発火現象(パイロキネシス)】を凌駕する発火能力。

「【電離発火(プラズマ)】」

 触れるもの全てを焼き尽くす異能が世界に爆誕した。

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