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異能ある君は爪を隠す  作者: 御誑団子
第二部 恋は戦争

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利害の一致

 最後の門が開かれる。

「……やっとここまで来た」

 あたしに背を向けている心愛と少女は門の向こうに有るものに心踊らせながら静かに待っていた。

 門が開ききる。生体認証ボックスから西園寺さんが出てきた。

「これで終わりだよね?出ていくよ」

「カンナギを呼び込む事になるからダメよ」

 銃を突き付けてあたし達に言い放つ。

「まぁ丁度良いし見学していきなさい。数世代先を行った賢人達の成果をさ」

 門の向こうには仄暗くて淡くて小さな青い光だけがそこに有る何かを照らしていた。

「これは生体強化外骨格。インプラントって言うべきかしら?」

「人工背骨やねぇ、移植用の……」

 一瞬西園寺の雰囲気が変わるもすぐに元に戻った……けど、何か違和感が残っている。

「何が欲しいの?ここに有るもんどれを取っても他所様に遅れを取ることはないと思うんやけど」

「……え、えぇ?そ、そうね……」

 怒り心頭だった西園寺さんは何故か落ち着いている。その様子を見て心愛は彼の心を覗いたんだと思う。けど、怒っていることは変わってないのかそのままスルーした。

「遥が欲しいのは……」

「……」

 さらに足を進めていく。

 あたしの目には液体の中に入ったら機械と人の一部がくっついたような物から密封されたガラスの小瓶に入った薬品まで何でもあった。

「どれもこれも世に出れば量産、改良、改善され広く大きく役に立つものばかり。救済にも、殺戮にも」

 心愛は嘲笑しながら飾られている展示物を眺めている。

「同意の無い最初の心臓移植、それと同じ。ここに有るものは一体どれだけの犠牲を払って作られたものなんだろうね。そして、それだけの犠牲を払って何で、世に出さなかったのかな」

 機械の心臓、人間そっくりの機械人形、脳深部接続デバイス、身体強化ナノマシン。

 そして……。

「あった!」

 心愛は小さな棚に飾られた五本の無針注射器と五本の薬品が入った注射器に直接付けられるアンプル。

「それは……」

「えぇ、これが……非異能者を異能者にするナノマシン。立花夜奏の最高傑作!」

 オレンジ色のアンプルが怪しく光っていた。

「さて撤収するわよ。遥、そっちは見つかった?」

「見つけたですよ。それもですか?」

「ええ。よろしく」

 見つけた注射器とアンプルを地面に置くと床が抉れて注射器とアンプルが消えた。

「んー、上で何人か死んでるかもしれないし蘇生用の機械とか薬品とか持っていかないと……」

 周りを見渡して他に何かを持っていこうとしている。背骨みたいなやつとか、義手とか。

「……はぁ、全く。ここの作りもめんどくさくしはってからに」

「……ん?」

「は?」

「え?」

 西園寺さんの喋り方にあからさまな違和感を覚え、全員が振り向いた。

 あたしは困惑を、少女は敵意を、そして心愛は焦燥を、三者三様のリアクションを取った。

「お前……」

「秋明はんも人騙すのは得意やさかい、先んじて手を売ってはったんやね」

 嗤う西園寺さんの顔は明らかに別人の顔だった。

「人格移植してたの!?」

 同時に、施設全体の灯りが消えた。

『入力者━━西園寺直弥(なおや)━━ID立花夜奏━━全てのシステムを再起動します』

 心愛が銃口を西園寺さんに向け引き金を引こうとした。しかしそれよりも早く彼はやって来る。

『システム再起動━━ID新規登録━━カンナギの入室を許可します』

 灯りが着くとあたし達を守るように銃を奪い、間に立つ幼い少年が居た。

「……遅かったやないの」

「だったらもっと早くやってくんないかな」

 さっきの、カンナギって呼ばれてた男の子だった。




「やっと追い付いた。散々引っ掻き回してくれたんだ。覚悟はできてるよな……心愛さん?」

「……未来視で……ほんと無法ねその異能。一体どこの誰の異能かしら?今のうちに確保しておきたい」

「日本の少女だ。本人はコントロールできなくて困ってるから手を出すなよ」

 銃は左手に、右手には【大口径空気弾(ブレスマグナム)】を展開してもう一人の少女に向ける。

 西園寺遥、未来視ではそう名乗っていた。

「活動時間は良いの?十分も持たないって聞いてたけど」

「お陰さまで超過してるよ!鼻血も血涙もドバドバ流れてるの見えない?」

「それでまだ元気あるんだ。もっと消費させるべきだったかも」

 ボクの体調ももうヤバイけどそれ以上に、こいつをここで殺しても問題が解決しないのがヤバイ。未来視でなにも変わらない。つまり特異点はもう過ぎている。

 ボクはもう負けている。

「何を手に入れた?」

「異能化薬」

「……そっか」

 手にはない。例の長距離移動で転移させた後。

 無法はどっちだっての。

「……一つ聞いておきたい」

「何かしら?」

「どうやってボクの未来視から逃れた?」

「あぁ、それね」

 勝ち誇ったように心愛は意気揚々と語り出す。

「前知識として聞かされていたのは直近の未来ほどハッキリ見えるってことと、遠い未来ほど広い範囲を見えるってことだった。そこからある考察をしただけ」

「ある考察とは?」

「一つは視点。見えているのは未来で自身が見るかもしれない光景。例えば十分後の未来なら十分間で移動できる範囲しか見えない。正解?」

 あってるけどボクは黙る。

 けど、だから翔の異能や瞬間移動っていう移動手段を用意したのに。

「もう一つは見えている未来は不安定だってこと。他人の行動で簡単に変わる。遠くの未来になればなるほど断片的でハッキリと見えない。だって未来だもん。見えたままの未来に突き進むのは未来視ではなくて可能性収束だから。この世にあっちゃならない概念の異能になっちゃう」

 それもあってる。

「その二つをあわせて、対策を組んだ。まずは未来視で見える未来が移動時間上どう足掻いても断片的になる場所に拠点を構え、大きな事を起こさずにダークウェブとかに殺人依頼を出す。報酬一億とかで学校襲わせたりね」

「それでボクの動向を調べてたのか」

「そそ。だって知らないこと多いし?正体不明、それが貴方な訳だったし」

 表立って行動しすぎた。いや、行動させられた。

 ボクが思っている以上にこの女は危険すぎる。あんな有って無いような情報でここまで追い詰められたんだから。

 いまここで殺さないと。

「殺すの?」

「ああ。さようなら」

 ボクは引き金に力を込める。撃つ瞬間、彼女は射線上には居らず弾丸は外れる。そんな未来を見た。

 彼女が屈んで避けようとしたその瞬間に銃口を避けた先に向ける。

 瞳を見開き、その光景を脳裏に焼き付くほど驚いた顔をしていた。

 ボクは負けた。だが、ただで帰すと思うなよ。

「……あー、もう。本当に憎たらしい」

 なのに、弾丸が放たれることはなかった。

「最高……遥」

 ボクの左腕は何か、空間に抉られるように消えた。

 視線をもう一人の少女に向ける。瞳を強く閉じて何かを念じているようにすら見えるその少女の傍らにボクの腕は転移されていた。

 思考が巡る。空間転移、でも、何で、腕が……ちが、まさか……。

 気づいた時には空気の弾丸を放とうとしていた。ボクの危険信号が心愛から遥へと急速に変わったから。だが、右腕も抉られ空気の弾丸は転移先で明後日の方向に飛んでいった。

「翔もみんなも間違えるわけだ。よくもまぁ、ここまで隠し通したな」

 怒りが沸く。他でもない自分に。こんな簡単な見落としをするなんて。

 目的を変更する。今すぐナオヤと綾乃を連れて脱出しなければ。

 ボクはナオヤを再生させた腕で掴み、もう片方の腕で綾乃を掴もうとした。しかし、今度は両足が空間に抉られ無くなる。とっさに浮遊を使用するもバランスを崩し綾乃を掴めなかった。その隙に心愛が綾乃を抱き寄せる。

「そっちは用済み。こっちはまだまだ仕事があんのよ」

「クソッ!」

 次の瞬間、ボクは胸部を丸ごと抉られる。超人の異能で炉心を使用していたから心臓を抉られても問題はなかったが炉心ごと持っていかれたら話は別だ。一瞬で全身の力が抜けて意識が朦朧とし始める。

 次はどこ?頭?ならまずい……けど綾乃が……。

 助けを求める目、不安な目、ボクは……切り捨てる他無かった。

 奥歯が割れる程強く噛み締めて瞬間移動を使用し外に出る。

「……ナオ?」

「……あら、深雪はん……深雪、みゆきぃ!」

 さすがのマッドサイエンティストも感動の再会に水を差す事をしなかった。

「治れ、早く……」

 活動時間超過のせいでうまく身体が治らない。

「手当て……救急車を……」

「まだ……まだ終わって」

「でもその怪我じゃ!」

 仰向けになってゆっくりと呼吸する。焦ると尚更治らない。

「……クソ……畜生……」

 悔しい。あの距離が、ほんの少し手を伸ばせば届くはずの距離があんなに遠いなんて。

「行かないと……」

 そう覚悟して再生していく身体に鞭を打とうとした。

『……なぎ』

「ん?」

 ボクのデバイスに通信が入る。

「……翔か?」

「そぅ……、じょ……きょうを……」

 かなり通信状況が悪いが連絡してきたってことは……

「近くにいるのか!?」

「い……むか……る」

「向かってる?あと何時間かかる?あるいは何十分か」

「さん……じゅ」

「三十分か?」

「……秒」

「は?」

 三十秒?いやまて、まだ十分程度しか経ってないぞ!

「ざひょ…………」

「座標!?いや待て!まだ綾乃が捕まったままだ!その速度で倉庫に突っ込むなよ!」

「……りょ……い」

 ボクは上空を見上げる。流れ星のように光るそれは減速し倉庫の屋根を突き破り中へ侵入していった。

「……自分達はとりあえず手当てしましょう。貴方も怪我が酷いですし」

「……そう、だね」

 悔しかった。同時に安堵もした。

 ボクは思っていた以上に衰えていて、そして、不要になり始めていることに。

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