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異能ある君は爪を隠す  作者: 御誑団子
第二部 恋は戦争

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群体個人異能

 三分の足止め。

 戦闘が始まった瞬間不可能だと理解する。

 何故ならば始まったその瞬間にワシの腕は切り落とされたのだから。

「……あ?」

 目の前のそいつはその場から動くこと無く、素早く振るった腕から伸びた何かが腕を切断した。

 視界に捉え、理解し、痛みが脳に届くまでの間を遅延として知覚できるほど呆気なくワシは無力化された。

「まず一人」

「あ……あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

 吹き出る血を撒き散らし傷口を押える。

「よくも!」

 零士の肉体から蒸気が吹き出し奴に飛びかかる。握られた拳は硬く、高まった身体能力は体に貯まった脂肪を燃焼し痩せていく。

 今出せる必殺の攻撃、それを……

「【空気弾(エアバレット)】」

 固まった空気の塊に防がれる。

「高速化、回転、凝固……【大口径空気弾(ブレスマグナム)】」

 銃の形を模した指の先から放たれた空気の弾丸は、着弾し皮膚を貫き体内で爆発、零士の体は肩から先が爆散した。

「二人目」

 それはまるでタスクをこなすように淡々とワシ達を処理していく。

 これではまるでただの邪魔者の排除。障害物の除去のほうが的確やも知れない。

「このっ……」

「はっきり言って君達能力に統一性がない。連携も取れなきゃ協力して組み合わせることもできない。烏合の衆だ。せめて統制でも取れてたら違ったんだけど、ねっ!」

 姫野が異能を使用してデッドコピーを生み出し、倍々増殖し、倉庫内を瞬時に埋め尽くす。

「広域、重圧、飽和【超重力場(グラビティネット)】」

 紫色の力場が広がり周囲の空間にあるもの全てが重くなり、力場に入ったデッドコピーは全て地面にめり込み潰れる。

「この手の異能は本体が弱点だ」

 超重力によって姫野は膝を付き顔面が地面にめり込んであまりの重さに気を失う。

 増殖したデッドコピーは姫野の気絶と共に消滅した。

「三人目」

 最後の一人、引きこもりで華奢な少女、源に目を向ける。

「皆の……敵!」

 付近の海から海水を吸い上げ倉庫内に流れ込む。

「水牢……圧縮」

 奴を包み込み無力化を狙う。しかし……

「状態変化、気体、大質量……【水蒸気化(スチームチェンジ)】」

 触れた瞬間、海水は瞬時に蒸発し結晶化した塩と水蒸気が周囲を包む。

「まだ……水蒸気も水……」

 超高温の水蒸気が肌を焼きながらもまだ立ち上がる源は水蒸気を操ろうと手を伸ばす。

「衝撃波、停滞、指向【貫通衝撃(ショックウェーブ)】」

 源の体を貫き体内で停滞した衝撃は頭と内蔵を揺らし前後不覚となりその場に倒れる。

「四人目……やっと終わった」

 時間にして三十秒もかかってない。のに、奴の瞳には焦りが見えた。

「時間がかかりすぎた。ボクも大分衰えたな」

 これで?これで衰えた?

 ワシが見てきた誰よりもぶち強いのに……。

 でも確かに大量の汗を流し顔色は悪い。この戦闘ですら大きな負担になっている。

「さて……」

 閉じられた鉄の扉に触れると赤熱化し次の瞬間には爆発した。

「【爆弾魔(ボマー)】」

 奴は地下に続く階段を駆け降りていこうとする。

 まだ、ワシには片腕がある。戦える……まだ……

 強く柄を握りしめ足に力を込めた瞬間、奴の視線がこちらに向いた。

 一瞥、敵を見る目でも、格下を見下ろす目でもない。それはただ、仕事を片付けようとする仕事人の目。

 出来て当たり前、やって当たり前。つまり、奴には、ワシなど障害とすら思われていなかった。

 目の前に現れた死の気配に手足はすくみ動けなくなる。

 気が付けば奴は背を向けて階段を下っていった。

 なのに手足はいつまでも震え続けていた。




 重い鋼の門が上下に開く。

「ほとほと厳重ねぇ。まぁ、世界を揺るがす大発明品ばかりならこうもなるよね」

 あたしを他所に心愛と少女は門の前に立っていた。

「オレの異能で中に入ればよかったんじゃねーですか?」

「それはこの先を見てから判断なさい」

 門が完全に開くと吐き気を催す悪臭が外に漏れだした。

「うっ……何この匂い」

「あー、やっぱり」

 ピチャッと、水音がした。

 それは目の前の塊から溢れた液体。

「ほら、さっさと入って。扉閉めるから」

「いや、ちょっと……これ……死体……」

 死体と聞いて気付く。黒く変色した肌と腸液、そしてひどい腐敗臭。

「早くしないと後ろからあれが来るわよー」

 あれが来る。そう言われて少女はあたしと西園……西園寺さんを連れて門を潜る。

「閉めるわよー」

 鋼鉄の門が閉まっていく。

「さて、さっきの、どうして直接中に入らないのかって質問だけどこの死体最初に雇った泥棒なのよね。で、瞬間移動で入ったら内側の盗難防止装置に撃ち殺されたってワケ。もし先行して入ってたら死んでたわよ貴女」

「……そーですか」

 つまり、正規の手段で入らないと殺される。

「……あたし必要ですか?」

「えぇ、必要よ。まぁ、ただの保険だから最後まで必要にならない事だけ祈ってなさい」

 奥へ進む。

「まだ二つ扉が残ってる。行きましょう」

 全員が門に背を向けた瞬間、轟音が鳴り響いた。

「まさかもう!?」

 門が閉まる音が悲鳴を上げる。

 わずかな隙間をこじ開けようとする人の体が見えた。

「お前か……」

「やっばい!」

 とても人とは思えない恐怖を宿した目が隙間から覗いていた。

「ボクを欺いていたのは……」

「カンナギが来た!」

 小さな体からは想像も出来ないほどの膂力で門の閉じる力を押し返した。

「早く次の門に!追い付かれたら死ぬわよ!ほら、貴女も!」

 あたしは腕を引っ張られて奥に進んでいく。それでも後ろをずっと見ていた。

 赤く光る胸部に何かのエネルギーが体から漏れ出しているのを見逃さずに。

「【進化分裂細胞(アルティメット・セル)】」

 恐らくは渾身の力を込めて人一人が通れる隙間を開けた。しかし、それが良くなかった。

『侵入者警報━━侵入者警報━━』

 虫すら通れない赤いレーザーの網、その一つ一つが独立している。

 瞬間、レーザーの網は解かれ一本の太い光線になる。門を抉じ開けるため上と下の扉に挟まれているカンナギはその太いレーザーに急所である心臓と頭に拳大の穴を空けられ体は力を失う。

「ふざけ……秋明の奴ボクにも効くやつ作ったな!」

 門の力に押し負け彼の体は下半身が押し潰され右足の膝から下が門の前に転がっていた。その残った部分すらレーザーは消し炭にしている。

 いやそれよりも、頭と心臓を撃ち抜かれて何事もないように動いていた。

 人とは到底思えないその存在が門の向こうで生きているような気がする。

 そんな憂いを持ったままあたしはこの施設の奥へと連れていかれるのだった。

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