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異能ある君は爪を隠す  作者: 御誑団子
第二部 恋は戦争

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撤収

 一度灯った心の火はそう簡単に消せない。

「ボルテージあげてけェ!最強ォ!」

 超える。何としても。刹那に見た意地の加速、この一瞬の世界を!

 耳に取り付けた通信機器が遥か空に浮かぶ友人に繋がる。

『撤退だ、カイン』

「イヤだ!」

『ワガママだな。お前は』

 呆れたような、くたびれたような、そんな声で返してくる。

「安心しろォ!俺様が全部ひっくり返して……」

『デンコさんよろしく』

「承りました」

 一瞬の世界を駆け抜ける雷撃が俺様の体を貫き意識を飛ばしかける。

「あッがァっ……」

 デンコの稲妻が俺様の動きを止めた。

「仲間割れか?」

 雷蔵はさすがに動きを止める。電気は最大の弱点だ。義肢がダメになるからな。だがその一瞬にデンコが俺様を抱え離脱した。

「お前ぇ……良くもやってくれたなぁ」

「志波ちゃんの頼みだもの。たまには胃薬飲ませないようにしなさい」

「イヤだぁ……バトるぅ……」

 俺様の、俺の視界には追撃を行おうとする雷蔵が見えた。

 だがまぁ、強引な止め方をしたんだ。対策はもちろん用意してあった。

 そこそこ力業だが……。

 遠方からの狙撃により地面は抉れ舞い上がった土は視界を塞ぐ目潰しになる。そしてその僅かな隙にデンコが建物の影に隠れる。

「なかなか、悪知恵の働く逃げ方を……。これ以上は警察の管轄か」

 あくまでも特権を付与されているのは雷蔵一人。そしてその特権も一点特化、殺害にのみ。故に、逃げた異能犯罪者を追うのは国家権力者の仕事だ。

「で、どう逃げるんだ?」

「ビルの上に。二人が回収しやすいように、ね」

 本当は体が動くのだがじっとしている間に落ち着き、テンションぶち上がる前より冷めた気がする。

 そうして、俺達の仕事は終わった。




 西園寺ナオヤが連れ去られるほんの少し前。

「でねぇ、その男浮気してたのよ!しかも!旦那と子供が居る女性と」

「何であたし達は昼ドラみたいなドロドロした話し聞かされてるんですか?」

 あたしと谷さんは心愛と名乗った女性の過去の恋愛遍歴を聞かされていた。

「そりゃあ仕事でハニトラ仕掛けたし文句言われても仕方ないんだけど、情はあるのよ。この仕事が終わった時この人には幸せになっててほしいって。その情すら失くす程の泥沼っぷりだったんだから」

「……それで、貴女はどうしたんですか?」

 谷さんがほんの少し食い気味に聞く。

「……幸せになってほしかった、それは嘘じゃない。だから、まぁ、スタートラインには立たせてあげた。そこから先は彼が努力すれば幸せになれたんじゃない?」

 笑うその瞳から嘘じゃないことだけは分かった。

 非道で冷徹、だけど無情じゃない。それが今の会話で分かる彼女の在り方だった。

「まぁ、何が言いたいかって言うと、恋って一方通行なのよ。自分の想いを送るしかなくて、それを受けとるかどうかは相手次第。受け取ってもらえなかったら返して貰えない。恋をする以上、そこだけは知ってないといけないの」

 それはまるであたしに釘を刺すように紡がれた言葉だった。

「どうして、何で、自分を見て、そう思ったら振り向いてくれないんだから」

 唇を固く結ぶ。いつか見た彼の姿を思い出しながら。彼女があたしを憐れむように見ていることも気付かずに。

 そうこうしているうちに倉庫の広間に少女と少年が現れた。一人は口調の荒い瞬間移動みたいなことをする少女。そしてもう一人は西園ナオト。

「ナオ!」

「深雪!」

「はいは~い、感動の再会の所悪いけど、こっちの言う事聞いてね」

 走り出そうとした谷さんを捕まえ、近付こうとするナオトは足を止めて苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

 その隣に居た少女は静かにこちらに移動してくる。どうも顔色が悪いように見えた。

「……人、運べるようになったんだな」

「……はい」

 静かに返事だけを返してその場を離れた。

「さて、言わなくても分かるわね。この場所なら」

「……倉庫の鍵」

「えぇ」

 可愛らしく、でも瞳の奥はどす黒く、心愛は笑う。身の毛がよだつ視線を常に向けていた。

 一人、その視線を浴びて覚悟を決める少年が居た。

「一つだけ聞きたい」

「なあに?」

「どうして学校の人達も襲った?それだけ聞きたい」

 一瞬視線を落として、口を開く。

「【寄生憑依(パラサイトシフト)】、完成してるんでしょ?人格移植」

「なんっ……で」

 目を見開いて驚くナオトに畳み掛けるように答える。

「こっちは色々情報貰ってんの。仕事だしね。賢者の遺産がどんなものかザックリとね」

「……まさか、他の人に移植してるかも知れないから殺そうとしたの?」

「そうよ。一人より二人、二人より三人、増えた方が都合が良いでしょ?」

 僅かに黙り、ナオトはただ一つ答えを出した。

「誰にも移植してない。この人格は、西園寺ナオヤはここに居る自分一人だけだ。だから、他の人に手を出すな」

 絶対的な覚悟、弱々しくも気迫を感じる目と表情、毅然とした態度は悪党をたじろがせるには十分だった。

「……これだから英雄ってやつは」

 一瞬、心愛の目は据わり見下すような視線を送った。

「いいわ。この子は解放してあげる。その代わり貴方はちゃんと言う事聞いてね」

「分かった」

 心愛は谷さんを離し、恋人の元に駆けて行くのを許す。

「それは感動的な再会……」

 心愛の目に二人の心はどう映ったのだろう。

「ドラマなら盛り上がること間違いなし……」

 何色で、どんな形で、どんな状態だったのだろう。

「でもね、これは……」

 ただ一つだけ分かった。

 次に彼女の瞳に映る色は、きっと悲しい青色だ。

 瞬間、乾いた音が響いた。その音は谷さんの腹部背中から貫き、臓物を引き裂く。

「えっ……」

 谷さんは倒れ腹部に手を当てて自分の手に血が付き、痛みに体を丸めていく。

「……深雪……深雪ぃ!」

「あ……あっ……いっ、だぁぁぁぁあ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛……」

 響き渡る絶叫と痛みに悶えるうめき声が乾いた音の正体を探らせる。

 銃声だった。撃鉄が雷管を弾いた音だった。

「なん……何やって……やがるんですかてめぇ!」

 瞬間移動する少女の感情が一瞬で沸点を超え、心愛に掴みかかる。

 心愛の手には拳銃を握られていた。

「何って、素直に人質を渡すわけ無いでしょう。でも安心して。この銃はね足が付かないように自動照準機能とかついてない……」

「そういうこと言ってんじゃねーですよ!なんで撃った!何で……人殺しはしないって言ったじゃねーですか!」

「だから殺してないでしょ。ほら、致命傷だけど死んでない。あっ、立っちゃダメよ」

 もう一度乾いた銃声が響く。次は右足の太ももを貫いた。

「あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛……」

 また叫び声が上がった。

「おい!」

 少女は彼女に立ち向かう。でも、一瞥した瞬間の瞳に後退りしてしまった。

「なら何?貴女が毎度も連れ戻してくれるの?もう顔色悪いのに」

 少女は正論に口を塞ぐ。何も言い返せずに。

「西園寺ナオヤさーん。その子の応急処置がしたかったら協力してね。さっさと終わらすためにも」

「お前……お前ぇ……絶対にぶっ殺してやる」

「あら、良い感じの暗い赤色になった。ほらほらその調子でさっさと扉を解錠して頂戴ね」

 そこに覚悟を決めた彼の姿はない。ただ憎しみに顔を歪ませ涙を流す少年がそこにはあった。

「遥と、綾乃も。付いて来て。ここの地下に宝部屋があるから」

 抵抗感を覚えるあたしに銃をちらつかせて脅す。そんなことをされたら付いて行くしかなかった。

「せめて血を」

「次は頭撃つわよ。嫌ならさっさと来なさい」

 選択できない。彼は谷さんに、逃げて、と涙を流しながら小さく呟かれ、傷口が地面に付かないように横向きに寝かしながら物陰に移動させてから付いて来る覚悟を決めた。

「さて、どうせそろそろ来るでしょうからさっさと済ませましょうか。皆ぁ!本命の足止めよろしく!三分ねー!」

「分かりやした」

「は、はい!」

「了解しました」

「……はい……」

 そう言われて四人の人が地下に続く扉の前に立つ。

 その顔には脂汗が浮かんでいた。

「さてさて、さっさと行くわよ。日本最強よりも世界無敵の方がヤバイに決まってんだから。どっちも弱っててあれなのにヤバすぎだって」

 重い鉄の扉が閉まる。地上への唯一の道が閉ざされた。

 その時、扉の向こうから爆発音に似た轟音が響いた。




 扉が閉まってから約三秒後、本命が現れた。

 雨宮親子の足止めは必須。何故ならばこの本命と手を組まれた場合、文字通り手も足も出なくなるから。

 ぶち強い、じゃあ説明にならん。

「全員、戦闘態勢」

 ワシは今まで負けたことはない。それは周りが弱かったから。強い奴と戦ったことがない。何故なら、戦わせて貰えなかったから。

 見て、そして対策を組む。それが基本戦術。

 体が震える。手が震える。視界が震える。力を込めて柄を握って恐怖を抑える。

「……まさか、対策をガッチガチに組まれてるとは思わなかったよ」

 土埃の中、腹部と足を撃たれた少女の応急処置を行い瞬間移動で安全圏に退避させる。その手際、何万、何十万、何百万と人を助けてきた人間の手捌きだった。

「未来視を対策されるってことは、海外でのボクの活躍を知ってる奴か。テロ組織か、犯罪斡旋組織の紹介か。まぁいいや。全員潰そう」

 二つ名【正体不明】、経歴、年齢、性別、異能、そして名前、その全てが秘匿された世界を股にかける対異能組織【天之川】唯一のメンバー。

 名前は、心愛姐さんに聞いた。

「お前さんが、カンナギか」

「喋るな。こっちはふざける暇もなくぶっ通しでお前らの後ろ楯を探してたんだ。テンションだだ下がりな訳」

 土埃の中からそれは姿を晒した。

 鋼の翼、炎の剣、超再生と進化する肉体、山吹色の障壁、白金の冠、紫の重力場、半透明の羽衣、複数の異能を同時展開し小さな体は歩き始める。

 カンナギの情報の一つに絶対に知っておかなければならないことがある。それは、ある事件を解決した時に付いたもう一つの異名。

 あれの異名は二つ【正体不明(アンノウン)】そして、【神凪(かみごろし)】。後者の所以は当時、神と一般人と異能を持っていた人達から崇められた異能者を真正面から戦い、殺害したことから。

 戦闘を見ていた人からはこう言われる。崇めた人は本物の神ではなく、あれこそ神の権能そのものと。あの人こそ、現代に姿を晒す本物の神様だって。

 目の前に居る異形一歩手前の姿を見て確かに思う。これは、人ではない何かだと。

 遊色の瞳に睨まれたその時、そう思ってしまった。

「死にたい奴から前に出ろ。その首切り落としてやる」

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