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異能ある君は爪を隠す  作者: 御誑団子
第二部 恋は戦争

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襲撃 【4】

 時間にして三分、僕はまだ空気爆弾の壁を抜けなかった。

 後どれだけ爆弾が用意されているのか分からない。無闇に消費戦に持ち込むのは愚策。それで抜けなかったら継戦出来ない。

 この後もきっと戦わないといけない。もし西園寺遥の異能が想像通りのものだとすると。それに【伸縮】の奴もまだ残っている。

 まだ、後がある。

 手こずるわけにも全力を出すわけにもいかない。

 でも……。

「逃がさない」

 並走しようにも前に出られる。横に逃げることも出来ない。

 サッカーとかしたことないけどディフェンスの仕事ってこんな感じなんだろうな。

 とにかく邪魔をする。思考を巡らせない。

「最高の仕事してるよ、お前」

 ……もう腹を括るしかない。

 僕は空中に止まり、精一杯の大声を出して話し掛ける。

「カリナ!白金カリナァ!」

 その一瞬、彼らは弾丸の雨を降らせることを止めた。

 僕の精一杯の誠意に答えるために。

「……僕に言ったことは……嘘……だったの?」

 その言葉に志波と同じ瓦礫に乗っている彼女は唇を噛む。

「聞かなくていい。ただの時間稼ぎ……」

「ううん。答えないと。ヒーローは、一番最初に助けようとしてくれた人だから」

 自らの足で立ち、彼女は答える。

「わたしは、彼らに救われた……手を取ってくれた。正しくない、間違った道だと思う。でも、でも……」

 そこに、今にも死にそうな少女の姿はない。間違っていても前を向いた少女がいる。

 君は、生きる希望を見つけたんだ。それが、社会に仇成す光であったとしても。

「わたしは、この人達と生きていきたい!」

 それが、君が見つけた一番強い光だったんだ。

 大きく息を吸って、頭を冷やす。思考を正す。呼吸を正す。

「……それで、良いんだね」

「うん」

「僕の敵で、良いんだね」

「うん!」

 時間は、十二分に得た。

 僕は背面から膨大な量の噴流を解放した。

「なっ!」

「この為の時間稼ぎか!」

 一つだけ策がある。その策がどこまで通用するのか。

 僕は自分の異能に向き合わなかった。向き合う切っ掛けがなかった。

 ただの便利な推力程度に思っていたけれど本質はそこじゃない。

 翔ぶ為の異能、翔ぶ為の機能、その全てを兼ね備えているとすれば。

 出来る。必ず。

 噴流を最大解放し僕は後方に飛行する。

「ッ!?」

「まさかッ!大きく旋回するつもりですか!」

 速度を出せば出すほど僕の肉体は耐えられなくなる。だから空気抵抗に耐えられるように全身を液体金属で覆う。

 空気を穿ち、穴を空け加速し続ける。父さんとカインの上空を駆け抜け一気に上昇、雲を貫く。

「くッ……距離が、遠すぎる!」

 ガトリングのように放たれる弾丸の雨は僕から見ると曲がっているように見え、偏差撃ちに慣れてないから僕が居た所を通りすぎている。

「ど、どーすんの!」

「先回りします!これだけ大きく旋回したらむしろ進行方向の予測がつきやすい!」

 志波とカリナは上空で滞空、射程範囲に入るまで待機し続ける。

 分かってる。それが最善で、僕は今のままではその壁を壊せない。

 故に、その壁、ぶち壊させてもらう。

「炉心、起動」

 胸部が青く光り、全身を巡るエネルギーは皮膚を貫いて全身から漏れ出す。

 両目からは青いエネルギーが炎のように漏れ、液体金属で覆った顔の目の部分が青く光っていた。

「ミサイル……いや戦闘機!」

「待って待って待って!これ……」

「あぁ、この壁を貫くつもりだ!」

 炉心、臨界突破、装填済みエネルギー全放出。

 全霊をもって、その壁を粉砕する。




 昼間だというのに雲が青白い光に照され空とは違う青色に染まる。

「ハッ!バケモンかよ」

 炉心が限界を超えて稼動している様子が良く分かる。

「俺様もあっち行きてぇなぁ!」

 逸る気持ちを落ち着けて、真っ正面の仕事をまずは片付けねぇとな。

「ほら、とっととくたばれ、最強」

 空中に打ち上げた雨宮雷蔵は度重なる破片の雨を食らい続け手足が悲鳴をあげ始めていた。

 近接戦闘しか出来ねぇんだから不自由な空中で攻撃され続けるってのが攻略法になるのは当たり前か。

「なぁんで長期戦でスタミナ切れなんてつまんねェ答え出したかなぁ」

 余裕はない。このまま勝てる。そう思っていた瞬間、【弱点看破】が警告する。

 弱点が消えた、逃げろって。

 その僅かな一刹那、空中で構え笑う最強の姿が見えた。

「翔の思考をトレースしても、その慢心は消えないな」

 最強が最強たるその所以、それは危機を打破するがゆえ。

 どんな時も、どんな逆境も、抗い歩む。それこそ雨宮翔が目指した背中。

 気付けば俺様も笑っていた。

「【加速第二段階(アクセルact2)】、限定使用」

 時間にして本当に一瞬、体感時間三十秒の世界に突入する。

 同時に俺様もその世界に突入する。

「【全速駆動(フルドライブ)】」

 一瞬の攻防は予想外の行動から開始した。

 雨宮雷蔵の義足が空気を噴出し空中を駆け、俺様目掛け飛んでくる。

 回避も防御もしない。カウンターで仕止める!

 故に、地面に足を付けてしまった。

 それは意地をもって最強と謳われた男の限界を超えた一撃。

 体感三十秒の世界の中でさらに速く加速し、俺様が認識できない速度でブレードを振り抜き、音を置き去りにした。

 俺様の上半身と下半身は切り裂かれ、瞬きの内に視界は真っ逆さまになった。

 そして、加速した世界は元に戻る。

「……【立体機動(ワイヤーアクション)】」

 切り離された傷口からワイヤーを飛ばし体を繋いで再生させる。それでまだ……。

 その時、上空で雲を散らす爆発が起き、青い尾を引く流星が何かに衝突した。

 空の戦闘も佳境に入る。




 空気を揺らす衝撃、圧縮空気の壁と鋼鉄の流星の衝突。

 チャレンジャーはわたし達。メタ張ってここまでやって戦法一つでひっくり返す、何てされたくない。けど!

「志波さん!」

「うぅぐぐぐぅぅぅ」

 衝突物は戦闘機のように鋭い先端で空気の壁に穴を空け続ける。

「能力の強さは分かっていましたが、想像以上ですね!」

 志波さんの爪が剥げ、指が折れ、筋肉は引きちぎれる。

 それでも押される壁を押し続ける。

 だけど二十秒経ったその瞬間、壁に亀裂が走り貫通する。

 ヒーローはわたし達には目も暮れず目的地に向かって翔んでいく。その時の風圧でバランスを崩し、わたしは瓦礫の足場から落ちていった。

「あっ……」

「カリナさん!」

 気付いて手を掴むには遅すぎる。彼の手も、わたしの手も、空を掻いた。のに、わたしは落ちることなく双方の手に絡まった細い糸で落下は防がれる。

「……これ……ワイヤー……」

「……敵に気を遣う余裕までありましたか……はぁぁぁぁ、ちくしょう」

 心底、敗北という状況が良く似合うと思った。

 清々しいまでの負け。なんというか、次、絶対対策されるよね、みたいなそんな笑うしかない。そんな心がすくような気持ちだ。

「帰りましょうか。どうせカインは本気出しかけてるでしょうし、デンコさんに大人しくさせてもらいましょう。その為の彼女ですから」

「……ですね」

 始めての、わたしの敗北は思ったより後悔の無いものだった。

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