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異能ある君は爪を隠す  作者: 御誑団子
第二部 恋は戦争

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Revenge Battle 【弱点看破】

 クリスマスから今日までの約二ヶ月、雨宮翔の活躍は多くはないが広く知られることになった。

 銀色の翼を携え、蒼白い光を放ち、月光に照らされるその姿は一番星。

 特にカインとの戦闘はネットに動画として残されている。

 何度見ても発現したばかりの異能者とは思えない。やはりこれは覚醒。先天性、感情の燃料、質量を無視した翼の収納。何も分かっていない。これが【罪位】の異能?違う。どう見ても【真位】の異能だ。研究者のバカ共め。

「弱点がない」

「ん?」

「お?」

 拠点にしている廃工場で私は雨宮翔の動画を見続ける。

「志波どうした?眉間にシワなんて寄せて」

「そうよ志波ちゃん。かわいいお顔が台無しよ」

「じゃあ雨宮翔の弱点をあげてください」

 他人事のようにいうカインとデンコさんにイラッとして意見を投げ掛ける。

「不意討ちキス」

「それで倒せるのは貴女だけです」

【蓄電】による感電手段は皮膚の薄い箇所への接触が必要不可欠だが、私は【蓄電】ではない。もちろん一度は倒した手段なのだから参考にはしたいが……。

「殴り続ける」

「それはお前だけだ」

 パワーのごり押しが通用するのは分かっているけど、それはあくまでも互角の速度があって初めて成立する戦法。とても参考には出来ない。

「お茶入りましたー」

 私達にお茶を持ってきたカリナを見てよそよそしい態度を取る。

「……それで今度の仕事はいつ取りに行くよ」

「考えておこう」

 これ以上彼女を巻き込むわけには行かない。これは言い訳の出来ない悪行だ。間接的にも人死にが出るかもしれない。そうなれば社会復帰など出来なくなる。

「……あの」

 うつむき、震えながら何かを言おうとして勇気が出せない彼女がそこにはいた。

「なにかね?」

「……ヒーローの……弱点……わかります」

 はっきりと、自分が驚いた顔をしたのが分かった。だが……。

「聞かなかったことにしよう」

「ごめんなさい。全部聞きました」

「……」

 私達三人は他所向きの笑顔を取り消して真っ直ぐに彼女を見た。

「我々にこれ以上首を突っ込むなら後戻りは出来ません。無論、追い出すつもりもない。貴女が負った心の傷が癒えるまで居ても良い。それが……」

 彼女の脳には針が刺さっていた。ただの針ではない。新生【鉄四肢】のトップ、戸田祐樹が精神干渉系の異能を模して作った代物。埋め込まれた人間は人が変わり憎悪と執着心が増幅される。

 自分を止めてくれた雨宮翔をヒーローとして執着し、自分を排斥した社会への憎悪を膨らませた。

 針を取り除いて一時の間、彼女は精神的に病み、とても不安定な時期が続いてしまってとても社会復帰させられる状況ではなかった。

 居たければ居れば?そう言ったのはカインだ。

 それ以来、食べ物の買い出しや衣類の調達をお願いしている。外に出れる数少ない人材ゆえに。仕事を手伝いたいと願い出たのはここ最近の話である。

「……分かってます。これ以上は言い訳できなくなるって」

「なら……」

「でも、わたしを助けてくれたのは皆だから」

 それは正しくない方法だ。もっと言えば、堕落、転落、そういった悪い方向への誘いだ。

「だから、助けになりたいんです!」

「……それは……」

「目ェ見て話してやれよ志波」

 カインからそう言われて目を見た。

 強い、覚悟の籠った目をしていた。

「………………分かりました。その代わり、一人で途中下車は無しですよ」

「ッ……ハイッ!」

 満面の笑みで彼女は良い返事をした。

「かわいい顔して女の子誑かすの上手いんだからぁ」

「悪い道に引き込むのもうめぇしなぁ」

「なら反対してもらってもよろしいですか?」

 特にカイン。お前が言ったことだろうがよ彼女が社会復帰できるように言わないっつったの。お前好みだろうけどな!強い覚悟をした人間とか!

「では早速、雨宮翔の弱点とは?」

「それは……」

 彼女視点で語られる雨宮翔の弱点、それは以外なもので、納得できるもの、即ち……。

「ヒーローの長所は超低空戦闘です。なので、空中戦は弱い。何故なら、もっとも熟練したワイヤー戦法を使えないので」

 そしてもう一つ。

「それと、速いかもしれませんがそれはあくまでも最高速の話です。初速は、わたしの爆発力の方が上回ります」

 それが雨宮翔に執着した彼女の語るヒーローの弱点。

 そこから私は構築する。空中戦に誘い込み打ち倒す戦法を。




 空気の爆弾化、それがもっとも厄介であることに僕は気付いていた。

空気弾(エアバレット)】異能に覚醒する前、対超人戦のために使った異能兵器、あれと同じことが、あるいはそれ以上の事が出来るなら無敵のクッションになる。

 空気爆弾は空気を圧縮し爆発させる単純な構造。圧縮された空気は念力場の力で形を変えている。任意の形、任意の爆発、それはまるで、カインにしたことをそのまま返されているような感触だった。

 故に……

「退けェッ!」

「断る!」

 目的地と僕の間に入る【念力場】志波と【無差別爆弾魔】カリナは移動する壁のように立ち塞がり、かつ、空気爆弾の壁によって全ての攻撃を無力化されていた。

 地上に近い場所で戦いたかったけど爆弾の威力を考慮した結果空中戦を挑まなければならない。確実に建物が壊れるなどの被害が出る。最初の一回、突破しようとしたが防御の爆発で地上の建物が一棟全壊、三棟半壊した。幸い、人は居なかったけど。他の建物も同じ様にとは行かないし避難したから別に良いとは行かない。そういったのは市民への心証の悪さに繋がる。そうなれば僕だけじゃなくカンナギと父さんの活動にも支障が出る。

「随分と、卑怯な戦法を使うね」

「貴方が英雄なのが悪いのですよ。被害も、損害も、何も気にしないただの悪童ならそもそも勝ち目なんて無いのだから」

 それはそう。だから空中戦で戦うしかない。

 正義の味方って思ったより窮屈だ。

「強行策より安全策を取る。ヒーローだから、絶対にそうする。ナイスな案でした。カリナ」

「でもやっぱり、製作より消費の方が速い」

「分かっています。だからこそ、ここで倒す」

 空中移動連射狙撃砲台、とでも呼ぼうか。なんかカッコいいな。

 じゃなくて、三度目の突破、三度の妨害、その全てで僕は速度で負けた。

 正確には初速で負けた。

 志波を通り抜けようとすれば僕の目の前に移動する。その際爆発による加速を行う。その速度は僕の初速を大きく上回っている。

 僕が彼らを抜くには十分な助走が必要になる。その助走距離を作るために後ろに引けば詰めてくる。

 完全な対策を組んで僕を追い詰めに来た。

「我々の全速力なら貴方の初速を完封できる。今持てる全てをもって、【流れ星】を打ち倒す」

 勝ち誇りながらも驕りはしない。余裕を持ちながら慢心しない。格上に対峙するということを理解したその心は一切の隙を生まない。

 相反して、僕は焦燥感で動きが鈍る。

 冷静に冷静に、そう勤めるほど砲台の連射で余裕を削られる。

 都市防衛機構を起動させれば僕が暴れても被害はゼロになる。けど、責任を取ってくれとカンナギに懇願した以上、規格外の迷惑はかけられない。国家の信用を失墜させた責任とか取らせられない。

 思った以上に雁字搦めな現状に僕は、歯痒く思うのだった。




 同時刻、対最強戦。

「自分の息子が気にかかるかぁ!?雷蔵!」

「気にはなるだろうよ!」

 倒すならいざ知らず、足止めとなればある程度楽になる。勝利条件が違うからな。だが、やっぱこう戦ってると滾ってくる。

 こいつの加速を追い抜きてぇって。

「おらぁ!」

 振るった拳は空気の礫となり飛んでいく。それを振るう刃で散らし、縮地で距離を詰め首元目掛け刃のないブレードを迫らせる。

 反って避けるも腹部に蹴りを食らい距離を開かせてしまう。

 俺様が再現した人工異能【加速(アクセル)】は思考と義肢の加速のみ。にも拘らず俺様を追い越してくる。

加速駆動(アクセルドライブ)】じゃ間に合わねぇ。何でだ?

「同じ速度、同じ視界……のはず」

 異能を使ってきた経験か?それとも、もっと別の何かか?

 追い詰められた思考がかつて再現した思考能力を再現する。

弱点看破(ウィークポイント)

 雨宮翔の観察眼と知識、そして思考をトレースし異能として再現したもの。

 瞬間的に弱点を見出だす驚異のそれは異能として昇華するには些か弱い。それでも、俺はあの時、追い詰められた。他でもない翔の一番の武器と思われる弱点看破(これ)で。

 他でもない、現人類最大の強さで。

 故に、思考は答えを瞬時に見出だす。【加速(アクセル)】の弱点を。

 加速は脳に高負荷をかける。そして、脳が酸素不足になるのを回避するために心拍数は上がり高血圧となる。【加速act2】となれば言語障害が現れるほどの酸素不足、それを補うための高心拍、高血圧に陥る。

 つまり長期戦。疲れが見えるまで戦い続け……

「んな消極的な戦い方つまんねェだろォがよぉ!」

 これは雨宮翔の思考そのものに父親に勝てねぇって刷り込まれてっからだ。それぐらい、勝利のイメージが浮かねぇ。

「つまんねェつまんねェつまんねェ。テメェはそんなもんじゃねぇだろ」

 あの日、クリスマスの夜。空に輝く星が、星だと見間違えるほど圧倒的だったお前は、俺様の脳天を貫いた。踏み砕いた。

 死ぬのは初めてじゃねぇ。でも、死の恐怖を感じたのは初めてなんだよ。俺様に食らい付いてきた奴は居ても追い抜いた奴はお前だけなんだよ。

 ガッカリさせんな。

 俺様が欲しいのは異能の弱点じゃねぇ。雨宮雷蔵の弱点だ。

 出せ、知恵を絞って……。

「そうか、なら……」

【弱点看破】が弱点を算出する。時間にして約一秒。

 俺様は確かに笑った。

「なる程そう言うことかぁ!」

 気付いた時には刃が迫り、防御のための右腕が切り落とされた。

「やっぱ良いわ、雨宮翔(おまえ)

 加速そのものの弱点を最初に試す。

 返す刃が俺様を切り裂く前に蹴り上げる。瞬時に防御に入っても雷蔵は空中に放り出される。

 加速の主能力は思考の加速。義肢の動きはおまけだ。

 そして、手足が動いても前後左右だけしか速くない。上下の動きは加速しない。

 そして、雨宮雷蔵は近接戦闘技術しか保有しておらず、空中戦は弱い。そっから遠距離から中距離の攻撃を浴びせる。銃撃が最も好ましいが、俺様にはない。だから、建物の石材や石像を砕き破片にして蹴り飛ばす。

 即席の散弾銃(ショットガン)は面攻撃、空気の礫と違って散らせない。

 これが雨宮雷蔵を倒す戦い方。

挑戦者(チャレンジャー)も悪かねぇ」

 直撃する直前、頭に当たるものだけを出来るだけ弾きダメージを最小限に止める。最小限に抑えても目に見える形で傷付いていた。

 前より弱くなった筈なのに、前より良い勝負っつぅのはなんだか不思議な気分だが、俺様に足りないものが見えてきた。

 レベルアップによる基礎能力だけを伸ばすんじゃなくて、ちゃんと強いスキルも覚えていかねぇとな。

「ウグッ……」

 地に落ちた最強を見下ろして思う。

「やっぱ足止め、時間稼ぎなんざ面白くねぇな」

 笑って、切られた腕を再生させながら高揚する気持ちを抑えられなくなり始めていた。

「本気でやるか。そっちの方がいい」

 胸が熱い。赤く仄かに光始める。

 止まっていた炉心が再起動し始めた。俺様の心に感応して。

 本番はここからと言わんばかりに。

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