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異能ある君は爪を隠す  作者: 御誑団子
第二部 恋は戦争

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君に会えて

 暗い空に散りばめたような星が小さく、でも確かに輝いている。

 僕は空を見上げながら貰ったチョコを食べていた。さすがに食べずに捨てる、なんて真似は出来なかった。

 六つ入った球状のそれは明らかに高いチョコレート、一つ口に運ぶ。僕が一度も食べたことがないぐらい美味しかった。

「……」

 これで良かった。良かったんだきっと。

 僕は、雫が好きだ。カンナギにあの言葉を貰った時にそう思ったから。

 だから、友人以上の関係を求める彼女の気持ちに答えるわけにはいかない。

 友人という関係が壊れてしまったとしても。

「……ハァ」

 まだ白い息が出る。身体から水分が抜けていく。乾燥した空気が食べたチョコの風味をより引き立たせる。

 街の喧騒が、学校の喧騒が、今は遠い。

「……静かだなぁ」

 耳を澄ますと古い記憶が甦る。

 フクロウの鳴き声、鈴虫の羽音、蝉が鳴く熱帯夜、そして、身を切るような寒さの夜。

 最新の設備かつセキュリティに最初は嫌悪感があったけど慣れてしまえばどこか懐かしさを感じてしまう。

「カンナギはこれを見越してここに?」

「翔~!ちょっと対応してよ~!」

 と思ってたけど雫が鳴きそうな目でテラスに飛び込んできた。

「どうしたの?」

「さっきから変な人がインターホン鳴らしてうるさいの!連打してるし!」

「えぇ……」

 急いでモニターを確認すると三人、四人ほどの男女が俺の事を喋っていた。

 記者か……あー、いや、これ、配信者……。

 んー、住所バレしてる。

「……これ、カンナギに相談した方がいいよなぁ……」

 カンナギとはここ数日連絡がつかない。父さんとは連絡しあっているらしく、どうも仕事関連なら連絡できる。が、僕が仕事の連絡をする事とかあるわけがなく……。

「……どうしよ」

「んー、いっそインタビュー受けてみるとか?」

「普通に嫌だ」

 追い返しても良いこと無さそうだし、出入りだけならテラスから飛べば良いけど……。

「……バイト、するんでしょ?」

「ん!誰に聞いたの!?秘密にしてたのに!」

「電話の声大きいよ」

 雫は口を手で覆い耳まで真っ赤にしていた。

 かわいい。

「……父さん経由でカンナギに連絡して貰うか……」

 こういう時に解決策を出せないのは少し悔しい。

 と、そうな風に思っていると男女数名の団体が焦ったように逃げていった。

「あれ?」

 そして改めてもう一度、誰かがインターホンを鳴らす。

 僕は一切気にせず扉のロックを解いた。

「よう!お久しぶり!」

「裕君!おひさ!」




 僕はキッチンでお茶の準備を始める。あまり長居をするつもりはないだろうけど出さないと悪い気がする。

「ほいこれ」

 リビングのテーブルに座り来客用の菓子を食べながらデータチップを置いた。

「頼まれてた襲撃犯の調査記録。【ならず者】総動員の賜物だぜ」

「こんなのに情報入ってるんだ……。私のスマホで読み込めるかな?」

「スマホ使ってんの?古くね?」

「でも首に付けるやつ何か落ち着かなくて」

「慣れてないとそうなるのか……」

 僕も慣れてはないかな。

 急須に茶葉とお湯を入れて来客に出す湯呑みに注いだ。

「今見る?」

「見る。届けたら見せて貰えないだろうし」

「……まさか、のけにされてんの?」

「まさかまさかだよ。カンナギが僕を出さないようにしてるらしい」

 僕は三人分のお茶をテーブルの上に運んだ。

「僕をナオに会わせないようにしてるみたいでさ」

「何で?」

「ウマが合わないから」

 正確にはナオの頭に寄生している立花博士の方だけど。

 秒で衝動が理性を上回るほど僕とは相容れない人物に会いたいとも思わないけど。

「けっこう大事だよな。相性って」

「社会に出たらそんなこと言ってられないと思うんだけど」

「バイトしようとしてる人の目の前で怖い話やめてよ」

 僕が座ってチップに手を伸ばし僕が使っている多目的拡張現実通信機器、通称オーグフォンに差し込みデータを表示する。

「【明園会】……なんか、アウトサイドと違ってしっかりしてそうな……」

「だろうな。そこ元やーさんの組織だからな」

「は?」

 やーさん……ってヤクザ!?

「は?へ?そんなヤバイとこが表立って活動してんの!?」

「元だって。今は暴力団として活動してない。というよりもう構成員居ないんだよ。今残ってるのは前組長の息子で今年で八十越えたお爺さんだ。その人が死ねば組織は事実上の壊滅、そしてその人は一年前から意識不明で寝たきり、もう裏社会の組織としては活動できない」

 僕は明園会に属している数人の異能者を見る。

「じゃあ、この人達は?」

「……これは自分も又聞きの話だから確証はないんだけどな」

 裕君はお茶に口を付け僅かに飲む。

「ヤクザを含む裏社会の組織は黎明期、要するに異能者が現れ出した時に人身売買として異能者の子供を買い、鉄砲玉として使っていたらしいんだよ」

「それって、人殺しをさせてた、と?」

「その通り。当時の法律じゃあ異能で人を殺したとしても殺害方法が科学的に証明できないから無罪だしな」

 僕はお茶を一口含む。

「……今は違うの?」

「違う」

 雫の質問に裕君は答えた。

「日本の【位】は再現に拘ってる。再現できるということは異能を科学的に証明できているとも言えるわけだ。証明できていれば問題点は異能を保有しているかどうかに争点が変わるし、こうなればあとは芋づる式に後ろで手を引いていた人物も裁判所に引きずり出せる」

 それはつまり、異能者が鉄砲玉としての価値を失うということ。

「買った子供達は殺すことも出来ず捨てられた。世の中にただ殺すことを目的として育てられた異能者の子供が野放しにされたんだ」

「じゃあ、この子達は……」

「飼い主の、せめてもの責任だろうな」

 五人の子供、何人かは成人しているけれど。

「西園寺遥……」

「西園寺財閥のご令嬢だな。一年前から行方不明だったがこんな場所に居たなんてな」

 一年前から……。

「捜索届とか出てないのかな?」

「出てると思う。見つからなかっただけで」

 僕はチップを抜いてテーブルの上に置いた。

「もう良いの?」

「うん。コピーしたから残りは後で見る」

「そっか。んじゃ自分も夜遅くまでお世話になる訳にはいかないからな。帰るよ」

「ん」

 僕と雫は裕君を玄関まで見送りに行った。

「そういえば、学校戻ったんだって?」

「そなんだよ。留年は何とか免れそうでさ」

 笑って返す裕君はどこか大人びているようにも見える。憑き物が落ちたと言うべきか。

「色々あったけど、また会えて良かった。気を付けて」

「おう、またな!」

 靴を履き終えて僕達は別れの挨拶を交わした。

 世界のどこにいようと同じ空の下なんだ。また会える。僕は大事な友達に手を振ってその後ろ姿を見送ったのだった。

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