会わせる顔はなく
「ほい」
「ん、あんがと」
話が終わった後、前金として百万ほど受け取りその金で俺達はたこ焼きを買って食いながらショッピングモールのベンチに座っていた。
外はサクッと、なかはトロッとしていてけっこう旨い。え?揚げたこだって?面倒な関西人かよ。
「電子さんとカリナさんはどうする?」
「カリナ?誰だっけ?」
「爆弾魔」
「あー。あれは置いといて良いんじゃねぇか?」
俺はまた一個食べて熱さにハフハフしながら噛む。
「でも、少しずつ慣れてきてるし、そろそろ戦闘に出しても良いんじゃないか?」
「それこそ決定的に戻れなくなるだろ。アイツの意思で俺達と一緒に居るって言わなきゃこれ以上してやる義理はねぇ」
「優しいね」
「別にそんなんじゃねぇよ。覚悟がねぇ奴が前に出たって邪魔なだけだ」
俺はまた一つたこ焼きを口に放り込んだ。
「そっか。なら、その意向に従うよ」
「おう。でも、デンコかぁ。技術が暗殺よりだから使いづらいんだよなぁ」
「それはそう」
【蓄電】は結局のところ溜め込むことしか出来ない。放電すら粘膜などの皮膚が薄い部位、例えるならば口腔内からしか直接触れて電気を流すしかない。初期も初期の異能、むしろここまで鍛えてる方がどうかしてる。けど、けっこう好きだそういうのは。
「んー、俺がヘイト集めて後ろから数減らして貰うか」
「なら、こっちは一人で雨宮翔の足止めかな」
「そうなるな。前みたいに油断すんなよぉ?」
「しないよ」
志波の目には確かな決意が宿っている。よほど負けたのが悔しかったんだろうな、あの日からどう戦うかをずっと考えていたらしい。
「……で、西園寺遥、だっけか?あれはどうする?」
「どうするって?」
「あれ、ほっといたら死ぬぞ」
あの状況で、あの環境で唯一笑っていた少女を思い出す。
「復讐じゃねぇし、多分悪い感情じゃなねぇ。もっともっと純粋な気持ちであれは血の繋がった家族を殺そうとしてやがる」
「……」
「俺は分かんねぇよ?多分こういったのはヒーローのお仕事だ。だけどヒーローがそんな都合良く人助けできるとは思えねぇ」
「彼でも?」
「……直接戦えばその機会はあるかもな。だがまぁ、足止めだけって言われてるしそこまでやる義理もねぇが、全部終わってヒーローが助けてくれなかったそん時はうちで匿えば良い」
「そうか。ならその方向で動こう」
「おう」
俺はたこ焼きを食べ終わると近くのゴミ箱に容器を捨てた。
「一応、西園寺遥を初めとしたあの面々の情報を集めておくよ」
「あいよー。あ、でもあの寄生虫だけは別に良いや」
「何で?」
「知らなくて良い。あれはいつかぶっ殺しておくから」
自分でも良く分からないが不快感が凄まじい。あれは人間や人間社会に寄生する類いの物、あの目は特に自分が寄生できる相手を品定めしていた。多分、俺達に見えないものが見えている。
もしかしたら、人の心すら見えているかもしれない。
知ったこっちゃねぇか。
「雑魚の生存戦略ってのは分かるが、あれは俺の一番嫌いな人種だしな」
「弱い奴?」
「弱い奴は嫌いだが不快感はねぇ。生まれたばかりの赤子を俺が殺すと思うか?」
「いや全然。むしろ可愛がると思うが」
「可愛がるか?まぁ、それはともかくとしてだ。俺は弱いままでいる奴が嫌いなんだよ。自分を弱者にカテゴライズするような奴。分かる?」
「何となくね。でも、あれがそうだと?」
「少なくともそう動いてる。そして、そういった奴らが蔓延ると真っ先にするのは強者への寄生だ。強い奴から血を啜って、死なない程度に弱らす。一番嫌な展開だ。張り合いのある奴が居なくなるからな。劣悪なんだよ、アイツらの生態は」
俺達はベンチから立ち上がり出口に向かって歩き出した。
「さて、連絡来るまで暇だな」
「そうだね。何か買って帰ってあげようか」
「たこ焼き器買って帰ろうぜ」
「気に入ったんだ」
「気に入った」
ふと、誰かが着けていたらしく足音が重なった。
「……跳ぶか」
「ん、よろしく」
俺は志波を担ぎ上げ足にめいいっぱいの力を溜めて空を跳んだ。
夕日に焼けた空を駆け、恐らくは公安の追手を巻いて逃げるのだった。




