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異能ある君は爪を隠す  作者: 御誑団子
第二部 恋は戦争

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パラサイトシフト

『もしも~し』

「もしもし、雫?」

『うん。どうしたの?』

「今日帰るの遅くなるかも」

『ぅぇえ!…………わかった』

「用事すぐ済ませて出来るだけ早く帰るから」

 落胆した雫の声に胸が締め付けられる。

『はぁい……』

 ……ごめん、本当にごめん。

 静かに切られた通話の後に申し訳無さを覚えながらも振り返る。

「……行きましょうか。西園寺ナオヤさん」

「……ナオで良い。フルネームは堅苦しくて嫌だから」

「そうします」

 見つけた。西園寺ナオヤを。カンナギの言った通りこの学校に居た。

「……さっきの条件覚えてる?」

「誰にも言わない代わりに全部話す、ですね。一応上司に当たる人には報告したいんですけど」

「全部見てもらった後ならいくらでも良いよ。でもそれまでは我慢してほしい」

 僕は彼を連れ父さんに無理を言って優先的に帰らしてもらった。

 移動方法は住所を知られたくない、と言うことで別方向にパトカーで送ってもらった後に僕が空を飛んで運んだ。




「ここが自分の家」

「……おぅ……」

 はっきり言おう。豪邸だ。暮らすにはあまりにもデカすぎる。

「……そろそろ楽にして良いよ。いつまでも仕事口調は疲れるでしょ」

「そんなことはありませんが……まぁ、うん。そうする」

 広い敷地にデカイ家屋、そもそも東京に何で建てれるの?

 あっ、プールある。

 僕は彼に付いて行く。正門をくぐり中庭を通って正面に見える屋敷に入った。

「狭くてゴメン」

「狭い……?」

「本家はもっと大きいよ」

「そう……なんだ」

 僕の感性がおかしくなりそう。

「西園寺家は十五になったら家を出て庶民の生活を体験させるために本家から出て一人で暮らすんだ」

「……ちなみにお金は?」

「必要最低限しかもらえないけど?」

「おいくら?」

「まぁ、だいたい月に百万ぐらいかな?」

 その金額が必要最低限とお思いで?

「そう……」

 ダメだ言葉が出ない。僕と感性が離れに離れまくってる。

 何で玄関に等身大熊の木彫りがあるんだよ。

「ここは祖父が最後に暮らした別荘でね。丁度良いから間借りしてたんだ」

「……こっちには攻めてこなかったの?」

 それはふと気付いた疑問。祖父が暮らした別荘なら少し調べれば足が付きそうなものだけど。

「来たよ。昨日。流石に迎撃システムが返り討ちにしたけど」

「迎撃システム、ねぇ」

 僕から見ても今日学校を攻めてきたのはその道の達人じゃない。多少は心得があったように見えたけど、多分中堅とかそれぐらいの人達。大金を積まないと動かない個人ではない。

 だからといって油断できる相手じゃない。ただの迎撃システムで返り討ちできるとも思えない。絶対に違法性がある。警報がなるとかじゃなくて確実に撃ってくるような。

「……それで、何で報告する事を遮ってまで僕に全部話そうと?」

「単純に信用できない。君の上司とやらが自分を本当に守ってくれる存在とは思えないから」

 確かに、探して報告しろ、がカンナギの命令だった。この先はなにも聞かされていない。

「なら、僕は?」

「人を守るために奔走して、全員を守った。なら、信用に足ると思って。言葉じゃない。実績でもない。その行動そのものに誰よりも自分が信じたから」

 豪邸に入って少し歩き、分厚い鉄の扉へ辿り着いた。

「ちょっと待ってて」

 鉄の扉の隣にある生体認証装置に手を置き、認証音と共に鉄の扉のロックが外れた。

 重い扉を二人で開き、暗闇に階段が現れる。

「この先に見てもらいたいものがある」

「……ここで先に何があるか聞いても良い?」

「……良いけど。説明を求められても上手く言えないからね」

 僕は静かに頷いて承諾する。

「祖父の残した負の遺産、原点異能研究と、その協力者」




 暗い階段を降りる。

 異能研究は西園寺財閥の事業の一つ、あってもおかしくない。でも原点異能、というものは聞いたことはなかった。

「論文とか読まない?」

「進化論は……でも内容は知らない」

「そっちか。なら仕方ない」

 そっちと言われて首を傾げる。異能研究の主流は進化論の筈だけど。

 そうこうしている間に地下室の扉の前に辿り着いた。

「この先に研究施設がある」

 恐らくは二十桁以上の暗証番号を入力して扉のロックを外す。

「どうぞ」

 僕は扉を潜った。

 まず、僕が何故彼の誘いを受け入れたのか。それは【対象】を知るためだ。

 この対象という曖昧なものの正体を知り解消することで被害を抑える策を見出だせる筈だから。

 視界が揺らぐ、沢山の強い光に照らされて目蓋を細めた。

「……来たよ博士」

 真っ白な部屋に薄く照らす青白い照明。設備は真新しく、でも、使用している痕跡がある。

「……」

 空気が違う。重い。

 なんというか、異常が無いことが異常に思える。もっと目に見える変なものがあるとそう無意識に想像していたんだと思う。

「……これが、見てもらいたかったもの」

 ナオが部屋の隅に設置されている人一人が入れる水槽のようなものが設置されていた。

 僕がその設備の前に建つと中身が見えた。

「え……」

 ボコボコと空気が底から上に浮いていくのが遅すぎる。中身の液体が水ではないものと判断し、その液体に浸けられているそれに絶句した。

「……博士」

 それは遺体。

 かつて自ら命を絶ち全ての情報を父さんに渡さなかった大天才。レオナルド・ダ・ヴィンチの再来。一番最初に【不老】の異能を模倣し自らで実験した結果子供の容姿のままになってしまった異常者。

 そして、父さんの恩人にして、最強の敵だった女性(ひと)

「立花……博士」

 衣類を纏わず培養液の中で穴の空いた頭に無数の電極を貼り、腕の血管には点滴のような管と胸部に貼り付けられた電極が心臓を動かす。

 遺体、と言ったがこの人はまだ生きている。生かされているが正しいかもしれないが。

「……これを見てもらいたかった?」

「……」

 僕は振り返る。

「……」

 あぁ、これは……。

「フフッ……」

 罠だった。

 瞬間、研究施設の扉全てが閉まりロックがかかる。

「対象、全生徒と全教師、なるほど……」

「罠と分かりながら取り乱さず冷静に状況分析、おっそろしぃ。うちの最高の研究対象(モルモット)君」

 ナオは椅子に座り足を組んで手元のペンで僕を指差し、笑顔に宿る狂気と歓喜を久しく思い出した。

 いや、ナオじゃない。

「……立花博士、ですね」

 それを僕はナオの姿をした天才に向かって言った。

「そんな睨まんといてよ」

 笑う、今にも高笑いしそうな笑顔で。精神だけで生きていたマッドサイエンティストが。

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