モノローグ ある少女の恋慕
別に初恋という訳じゃない。
小学校の時には足が速い男の子が好きだったし、中学の時は可愛い男子が好きで、そして今は顔が良くて身長が高い男子を好きになった。
……好きになっていた、筈だった。
あたしが心の底から好きになったのは何処にでも居て目立たない地味で静かで暗い男の子だった。
あたしをフッた男子は顔とルックスが良いだけの男で、もしかしたらその反動だとも思っていた。でも、思いの外気配りが出来て優しくて、何より暖かかった。手とか肌とかじゃない。胸が熱くなって、冷たく動かなくなったあたしの体を動かせるような熱をくれる。そんな暖かさ。
優しいなんて褒めるところがない奴に使う常套句なのに君に関しては優しいとしか言いようがない性格をしてる。
……
…………
………………どうして。
どうしてその優しさがあたしだけに向けられたものだなんて勘違いしたんだろう。
夕焼けに燃える教室、茜色に染まった部屋で見せてくれたあの笑顔を感謝を述べる人々に見せている。あたしだけが知っている君が知られていく。あたしだけの特別が皆の特別に変わっていく。
あたしの中で広がる燃えるような熱が胸を焦がす。形容しがたい感情が溢れて止まらない。
この感情の名前をあたしはまだ知らない。あるいは、思い出したくない。
やめて、触らないで、話さないで、翔君はあたしがやっと見つけたあたしだけの居場所なんだから。
強く、強く、口の中に血の味が滲むぐらい強く、唇を噛み締める。
奪わせない。絶対に。




