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異能ある君は爪を隠す  作者: 御誑団子
第一部 流星の君
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運命邂逅3

 豪雪の中、靴を履いていない雫を歩かせるわけにもいかずおぶって走る。これでも体は鍛えているからそれなりに走れるけど、寒さが僕と彼女の体力を容赦なく削る。

 上着を手に取る時間が無かった。雫も素足だ、凍傷になりかねない。最悪僕の靴を履かせるしか無いけど……。

【超人】の足ならすぐ追いつく。この雪の中でも。

「父さん何処だよ……まったくもう」

 爆発の衝撃で通信デバイスが壊れ電話できない。運が悪すぎる。

 いい加減指先の感覚が無くなってきた。雫も僕も鼻先と頬が赤くなってきた頃合いだ。

「大丈夫?私走るよ?」

「大丈夫。自分の足先握ってて」

「うん」

 もしも、もしも父さんが別の道を通って来ていたのだとしたら。大回りして雪があまり積もってない道を通っていたのだとしたら……。


 今走っているこの道の先に父さんはいない。


 別の意味で動悸がした。【超人】相手に勝てるイメージが無い。それも人一人を担いで。糸も無い、武器を手にしていない。

 それでも、いざという時は戦わないといけない。守るとはそう言う事だ。

「先ずは安心して休める場所を探さないと」

 走り出す足に力を込めようとした後、鈴の音が聞こえてきた。どこかで聞いたあの鈴の音が。

 思わず足を止めて周りを警戒する。

「……?」

「どこから?」

 その時の鈴の音は僕達二人とも確かに聴き、建物の塀の影から鈴の主は現れる。

「待ってたよー、お二人さん」

 とっさに身構え戦う意志を見せる。でも僕のその態度に対して飄々とした声の人物は全身を露わにした。

「初めましてお二人さん、ボクはカンナギ、知り合いからはカンチャンって言われてます。えへへ」

 僕より身長の低い、いや雫より低い。ショートヘアで黒髪黒瞳の少年が現れた。

「こっち来て。今必要な物あげるから」

 ……警戒しなければならない筈なのに不思議と心を許してしまうというか、警戒心が無くなってしまう。

 雫はもう警戒していなかった。

「行こう行こう、レッツゴー」

「いやでも……、めっちゃ怪しいし」

「大丈夫ダイジョウブ、きっと良い人だから」

 僕のチョロさも大概だけど、雫の人懐っこい子犬感はとても危険過ぎる。仕方ないから付いて行くけど。

「子供だし」

「面白い冗談だ。ボクはもう三十路超えてるよ」

「え?」

「は?」

 足が止まった。いや有り得ない、そう心が訴えかけて。

「……歳を取らない異能……とか?」

「んー、半分正解」

「半分……ですか」

「まぁ、あんまりべらべら喋るもんでもないし、事が済んで余裕があれば教えるよ」

 内心淡泊な感想しか出てこなかった。なんというか、あまり直視してはいけない、そう直感が訴えかける方が勝る。

 警戒心を抱かせず、だけど心を許してはいけない。許容してはいけない。容認してはいけない。そんな存在だ。

「眉間に皺寄せてると年取ってから大変だよ~、雨宮君」

 そう言うと物陰から旅行鞄を取り出し僕に投げてきた。

「わッツ!ちょ……この……」

 突如投げられた鞄を取ろうとしても両腕が塞がっている。その事実を察知した雫が手を伸ばし僕の代わりに鞄を取る。

「キャッチ!」

「ナイス!……じゃなくて!」

「ごめんごめん。それぐらい取れる思って」

 僕の背中の上に鞄を置かれ、思ったより前のめりにされて頭の上でなんかガサゴソされる。

「……靴?」

「ブーツねそれ、君のね。足凍っちゃいけないし」

 後は……防寒着と防寒具、結構良いやつ、と良い額のお金と……。

「ん?」

「それ……」

「あぁ、それはワイヤーだ」

 それは僕が良く使う糸……じゃない。軍事用の良いやつ!

「うぇ!?なんで?」

「そういうコネがあるって事。んで」

 最後に彼は紙切れを一枚渡してきた。

「これは?」

「今晩君たちを保護する場所。もう話は付けてある。行けば手厚く保護してくれるはずだ」

 防寒着に靴にお金と、そしてワイヤー。何が目的でなんでこんなにしてくれるのか、気味が悪かった。だから、聞いてしまった。

「……あなた、何者なんですか?」

「んー、ボクはねぇ、君が思ってるような悪人じゃない、しか言えないかな」

「答えになってないです。何の疑問も持たずに信用しろって言うんですか?」

 きっと敵を見るような警戒心を見せていた筈。なのに眉一つひそませず、まるで子供の我儘を諫めるように優しい口調で言う。

「じゃあ……いらない?」

 言葉は幼い子供に言う内容ではない。が、何が言いたいのかすぐに察した。

 詮索するな、と。

 この極寒の中で特に何も羽織らず一人は靴も履いていない。そこに必要なもの全てを持って彼は現れた。

 断っても良い事は無い。受け入れる以外、僕達二人が無事で済む道は無かった。

 溜息が出た。なんだか掌で転がされている、そんな気がした。多分黒幕とかそんな立ち位置に居る人だ。

 少しして後ろから歓喜の声が上がっていた。

「これ暖かーい」

「似合ってる似合ってる。ほら君も着て」

「あ、ちょっと……」

 半ば無理矢理、僕はガッチガチに服を着せられた。リールの機能とワイヤーの射出上V系バンドが着けていそうな甲の部分だけ穴の開いた皮の手袋をつける事となった。

 そして僕は気付いていなかった。こんな悠長な事をしている時間は無いのに敵が追い付いていない事に。




「よし、これでおけ」

「ダルマ状態なんですが」

 ボクの顔面を今すぐ殴りたそうにしている彼を指差してケタケタと笑った。

 っと、そろそろ時間だ。

「じゃあね、ボクは行くよ」

 その言葉を聞いて彼女は呼び止めた。立ち去ろうとした心を留めほんの少し顔を傾ける。

「ありがとうございます」

「……どいたま!」

 水滴のような透き通った君は太陽のような笑みで頭を下げた。

 感謝なんて久しいけど、言われて嫌な物じゃない。それを再確認出来ただけでも来た甲斐があった。

「僕からもありがとうございます」

「はーい」

「態度違いません!?」

 ボクは手を振ってその場を去り、彼らが行ったのを確認してスマホを取り出す。

「みんな最新式の持ってていいなぁ。ま、これにもこれの良さってあるよねーッと」

 電話をかけ耳に当てる。鼓膜に呼び出し音が響く。相変わらず電話に出ないが、十回目のコールで彼は出た。

『もしもしカンナギ!すまない後で掛けなおす!』

雷蔵(らいぞう)、雨宮雷蔵!君の息子なら大丈夫、今安全な場所に誘導してる」

『…………本当に?』

「本当」

 慌てふためき、声を震わせ焦りに焦る声の主は雷蔵、雨宮翔の父親だ。

『ど、で、どんな感じだった?』

「女の子と一緒に薄着で雪道を走ってたよ。このままじゃ死にかけるからとりあえず服とかいろいろ渡してある。あとワイヤーも」

『あ、り、がとうございます』

「あいあい」

 後ろで宥められているのか、徐々に落ち着いた声音に変わって呼吸もゆっくりになっていく。

「とりあえず今から都心に向かってくれ。そろそろ不味い」

 出来るだけ真面目なトーンで伝える。普段おちゃらけてるからそうしないとまともに取り合ってくれない。

「命令、最悪の未来を回避しろ」

『……了解』

「息子が気になるなら今度からこんな日ぐらいは仕事休め。この前の休みも事務所で寝泊まりしやがって。息子に嫌われても仕方ないぞ」

『……はい』

 電話先の声があからさまに落ち込み覇気が無い。ボクの指摘もあるだろうけど息子が無事と聞いて内心安堵したからもあるだろう。

「じゃあよろしく」

 通話を切りスマホを右のポッケへ入れる。

 今日は雪が良く降る。厳しい寒さと真っ白な視界、でも音だけははっきりと聞こえる。

「ズルしやがったな、あいつら」

 壁を蹴り、段差を蹴り、パルクールで家屋の屋上まで一気に駆け上る。白い世界に紛れる四つの影が、いきなり現れた僕に足を止めた。

「こんばんは、少年少女達。今日は寒いね、少し体動かしていかない?頭でもいいよ?」

「超人……こいつ」

「あぁ、さっきの幻影迷路作った奴だ」

「バレテーラ」

 眼鏡の勘が鋭いのか、洞察力があるのか、【幻影(ファントム)】を使っていたことが看破されている。

「そこ退け。ぶっ殺すぞ」

「最近の子供って言葉遣いわる~」

 だけど、まだやりようはある。

「戦うのは苦手だけど、悪い子にはお仕置きが必要だよね」

 再度、【幻影】を使う。

「ヘイカモーン!一時間は足止めする、ゼ!」

「ふざけた事言ってんじゃんぇぞ!クソチビ!」

「誰がクソチビだお前ぇ!」

 それ禁句だぞ!身長伸びないボクの気持ち考えたことあるのか!?

「ストレスマッハで禿げさせてやる!」

 雪降る夜空に影の天蓋を貼り付け光を遮る。

 それは幻の影、偽りの虚ろ、出口へ辿り着けない監獄。

「【無間迷宮(ブラックボックス)】」

 幻影、それは幻を作る異能。全てが偽物で張りぼてで、直接的な戦闘能力は無い。ただし、一つ注意しなければならない事がある。

 それは、視覚的な幻だけではないという点。五感を騙すその異能は日本の基準では【天位(ランク・ヘヴンリィー)】だが、世界基準ならば最高位の【真位(ランク・シン)】が与えられる。

 千人単位の、異能を持った暴徒をたった一人で止めたのだから。

「……出たかったら、ボクを倒してごらん」

 我ながらかっこよく決まったと自負する。ほら、良いっしょ?

「ダサッ」

「……」

 泣きそうになる心を抑え涙を堪える。

「そこまで言わなくても良いじゃん」

 一粒ぐらい零れたかも。

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