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異能ある君は爪を隠す  作者: 御誑団子
第二部 恋は戦争

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緊急家族会議

 僅かに息が上がる。無茶をした反動か貧血、或いは全力疾走をした後みたいに視界が一瞬だけ少し暗くなる。

「えぇ……何やられてやがるんですか?」

 瞬きをした刹那、膝下まである黒い髪の毛をした同い年ほどの少女が現れた。

「一房やったんですから」

 肌は病的に白く体は不健康に痩せている。前髪は顔全体を覆い目が見えない。

 唐突に、何の前触れもなく、僕の目の前に、男の側に空間を跳ぶように現れる。

 ……【瞬間移動(テレポーテーション)】!

 少女が僕の方を見る。僕は構わず走り出す。

「すげーですけど、まぁ、次は覚悟しとけです」

 僕の手が届くよりも速く少女と男は姿を消した。

 僕は即座に翼を出して空を飛び周囲を確認する。

 瞬間移動、それは空間を跳んで移動する異能。最も有名なものの一つ。弱点の多くは飛距離だ。基本的に瞬間移動は長距離を跳べない。でも……

「居ない……」

 少なくとも視覚で確認できる場所に少女と男の姿はなかった。そもそも、少女は何の前触れもなく現れた。連続して跳んで来た様子もない。つまりは一度で長距離を移動した。

 思考を巡らせる。瞬間移動に属する異能で長距離を一度で跳べる異能……。

「……もし、そうだとしたら」

 一つの答えが浮かぶ。だとして、もしかしたら、僕は……とんでもない組織の仕事に首を突っ込んでしまったかもしれない。




 学校襲撃、しかも最新の防衛機構を備えた設備が突破された。それは多くの人々を恐怖させ不安を掻き立てる。

 そして襲撃犯の中に異能者が居た。その事実はこの人を動かすには十分すぎる理由となる。

「……父さん」

 警察の到着と同時に見知った人達を僕は見た。

 壊された防壁の調査や証拠集め、監視カメラの記録確認等々を校舎で忙しなく行われる中僕は敵を撃退したということで話をしなければならなくなった。

「……」

「……」

 話すことは沢山あるのに会話が進まない。すごく気まずかった。

「……は~い隊長~、沈黙するなら変わる~」

「あ、あぁ、すまん」

「でわでわ~。お久しぶりです~」

 丸メガネにボサボサの頭、連日の徹夜でテンションが常におかしい女性。

「お久しぶりです。サロメさん」

「え~つと、え~つと、取り敢えず何があったかご教示~」

 僕は何があったのか、出来るだけ詳細に伝える。

「十名の襲撃者~、でも捕まったのは~」

「九名……」

「一人はいきなり現れた少女と逃亡~。しかも希少な【瞬間移動】で~…………これやばいのでわ~」

「ヤバイのに首を突っ込んだ自覚はあります」

 まず、瞬間移動系能力者は少ない。その異能は国が厳重に管理しなければならないほど。

非実在証明論(ゴーストランナー)

 机上の空論、可能性だけが存在する能力者の居ない異能名。唯一性と再現性から考えられた究極の瞬間移動。

 どこにでも居てどこにも居ない神出鬼没な能力、そして現状この異能に最も近い異能者が一人だけいる。残念ながら神出鬼没ではないが限りなく近い異能。

「【定点移動(テレポートポイント)】」

 定点移動、現時点最高の瞬間移動であり、同時に最広の感知能力でもある。

 ある定点(ポイント)から定点(ポイント)へ移動する異能なのだが、飛距離に制限がない。その代わりに目印としての定点(チェックポイント)として自身の一部がなければならない、という他にはない制限がある。

 そして、この異能の持ち主は分かっている。

「一房と言っていました。多分髪の毛か何かを持っていたんじゃないかと」

 今回の襲撃、思ってたより根が深そうだ。

「ちょっと待て」

 僕が断定した辺りで父さんが口を挟んできた。

「今どうして決め付けた?」

「いや、だって一房……」

「それが本当に目印としての髪の毛を指しているのか?」

「あ~、そういうことですか~」

 サロメさんが父さんの意図を汲んで僕に噛み砕いて伝える。

「決定的な証拠ではない~、決め付けて動くのは危ない~、そう言うことだと思います~」

「あっ……」

「現状証拠では翔の推測で当たっている。だが、もし、その推察をひっくり返しかねない事実が出てきた時に対処できるか?」

「それは……」

「悔やむことはありません~、だってこちらも同意見~」

 それは監視カメラの記録を見ての答え、つまり僕と同じ結果を出した、ということ。それでも……。

「ただしこの推察は可能性~、違う答えがあるかも~。見えてない証拠があるだけで~」

「……」

 それは、たしかにそうだ。あくまで僕が出した答えは今ある事実から算出したもの。なら、決め付けちゃいけない。

 僕は違う人を犯人扱いすることになるかもしれないんだから。

「……翔」

「へぁいッ!」

「……こっちの業界にいつ入るかは分からないが、入るならどんなに目の前の事実が確かなものでもそれ以外の僅かな可能性を切り捨てるな。異能関係は特に、な」

「あっ……わかった」

 そうだ、僕はついさっきそれで翼を切り落とされた。伸縮速度を見誤って突きこそ必殺であることを思考の外に置いたんだから。

 何とかなったから良い、じゃあこの先やっていけない。

「気を付けます……」




「……」

「……」

「少々厳しすぎでわ~」

「うぐっ!」

 翔から聞いた話の要点をまとめながら空き教室に部下と二人っきりの状態で話しかけられる。

 しかも、おもいっきり心をえぐる形で。

「あ、あれぐらい言わないと……」

「言い方というものが~」

 それはそう。

「……うまく、話せないんだ。日に日に大きくなっていくあの子に何を話せば良いのか……」

「変に気取るから~」

 白衣の少女は体を半身にしてこちらを向いた。

「いつも通りにしていればよいのです~。子供に対しても~」

 いつも、通りか……。

「それにしてもやはり厳しすぎ~」

「それは、まぁ、そうだろうなぁ」

 おもむろに胸元のペンダントに触れた。男物ではない、女物のペンダントに。もちろんこれは自分の物ではない。かつて非人間を人間に引き戻した女性の形見だ。

「人間、最も間違えやすい瞬間はいつだと思う?」

「そうですね~、悪い事が露呈したときでわ~?」

「たしかにそうだな。たが、もっと前段階の第一歩目がある」

「それわ~?」

「うまくいっている時、失敗知らずの、成功だらけの瞬間だ」

「それわ~……う~ん、確かに心当たりが~」

 もちろん要素としては単体で外道に落ちることはない。

「失敗からは多くの事を学べるが、成功からは何も学べない。むしろ、成功体験が重なれば重なるほど成功した手段に固執する。それは、先入観となって初見の物事に対応できなくなる」

「その後の失敗の原因模索もしなくなる~……ですね~」

「あぁ。どん詰まりの悪循環だ」

 翔にはその傾向がある。今、あの子はある成功体験をしている。

 自分が傷付いてでも人を助ける。

 それは……確実にいつか自分を死なす。自己犠牲ほど人を救えないものはない。

「まぁ~、それはある意味で仕方のないことかと~」

「……何で?」

「隊長の息子ですから~」

「おいそれはどういう意味だ」

 メガネの向こうに見える潤んだ瞳と微笑む口元、まるで人の事は言えないぞと告げられているようだった。

 ……確かに手本になったのが自分なら、まずは私から変えていかないといけないな。

コーラルをキめて来ました。

またルビコンに行くかもです。

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