襲撃 【2】
【流れ星】それが、超人を退けた異能者に送られた異名だった。
理由は簡単、最後に見せた超高高度降下攻撃、神の杖に匹敵する擬似的対地中貫通弾が流れ星のように見えたことから付けられた。
流れ星が雨宮翔である、ということは一部の人間だけしか知らない。
この学校に超人を退けた怪物が居る、なんて知るよしもない。
だがそれは雨宮翔も同じこと。襲撃犯の中に本来ならば用意周到に準備しなければならない存在が居ることを予測できない。
もし双方が敵同士として出会えば戦闘は避けられない。
飛翔するその姿は文字通りの流れ星、ならば地に落とすまで。
高温の噴流を吐き出しながら加速する。
ハッキリ言って余裕はない。暴走していないから無茶をすれば肉体が悲鳴を上げる。そうして動けなくなる前に敵を叩く。
校内に居た四名は無力化し屋上にいた最後の一人も倒した。最後はここに居る五名のみ。
銃口が向けられる。引き金より速く、僕はまず一人目を蹴り飛ばす。
次。
翼の形状を縮小、旋回能力に特化させ噴流の出口を左右に向ける。飛んでくる銃弾を速度を落とさず急旋回で回避する。
背後に周り反応するより速く鳩尾を掌底殴り意識を飛ばす。意識を失った敵を盾に残りの二人に近付く。
二手に別れ挟み撃ちを行おうとする。
僕から見て右に走った方に盾にしていた敵を放り投げフリーの方を強襲する。向けられた銃口、その銃口は一切のブレがない。機械による照準補正が効いている。速射性が高いアサルトライフルは完全に避けることは不可能だが最初の数発は行ける。その間に間合いに入れればいい。
銃口から放たれる弾丸、しかし、射線上に僕は居ない。
三人目、掌底による鳩尾の殴打と推進力を利用した回転と勢いを殺さないハイキックで制圧。
「このッ、バケモンがァ!」
火花を散らして射出するワイヤーを最後の一人に巻き付けて拘束する。
計四名の無力化が完了した。
「……仲間を見捨てて高みの見物?」
僕は最後の一人に話しかける。唯一、僕と戦うことを避けていた人物に。
「まさか……。弱点を見ちょっただけよ」
覆面をせず、服装も他の人達とはまるで統一していない暗い色の和服。その腰には今時珍しい日本刀を差していた。
年齢は僕より少し上ぐらいで暗い茶色の髪を靡かせながら飄々とした態度をとる。
「しかし、子供がこの状況をなんとか出来ると思っちょるのは、傲慢だが、若気の至りよな」
この男は僕が飛んだのを見て攻撃しにくい位置に陣取り四人を壁にするように立ち回っていた。
ハッキリ言って、只者じゃない。あらゆる動作の機微、些細な仕草すら警戒の対象になる。
超人が豪快な攻撃、高揚による動作の単調化、とにかく分かりやすい動きとは違ってこっちは分かりにくい。分かりにくいゆえに全てに意識を向けないといけない。
「そう身構えさんなや。ワシの方が速いから」
瞬間、首を切り落とされる錯覚を見た。
刹那、首元に両刃の切っ先が迫る。
足の力を抜いて崩れ落ちるように仰け反り刃を回避する。予測じゃない。完全な反射神経、でも、選択をミスった。
時間にして一秒にも満たない間に追撃が来る。次は真上から振り下ろされる。異常なのは刃が迫るその速度。人が訓練を受けていなければ反応できないギリギリの速度だ。
「くッ!」
推進力を使って仰け反った状態を維持、体を捻り半身になってなんとか回避する。
「これで……」
前傾姿勢に体勢を直して敵の方を向く。だが目前に切っ先が迫る。
指先のアンカーを射出、地面に突き刺しワイヤーを引っ張って這うような体勢を取る。
「これも避けるか」
髪の毛が僅かに切れた。だけど、これで行ける。
背面機構からエネルギーを放出、クラウチングスタートの体勢から一気に距離を詰める。
異能の性能は見切った。【伸縮】だ。日本刀の刀身を伸ばしている。しかも最初っから伸ばしてるんじゃなくて振っている最中に一瞬だけ伸ばしている。そうすることで刀を振る速度を落とさずに驚異的な間合いを確保する。むしろ刀身を伸ばせば伸ばすほど切っ先の速度は速くなる。その分精度も上げないといけないけど。
異能自体は強くない。でも、強くない異能でも戦闘技術と上手く噛み合わせることで想像以上の驚異になる。
暗殺術とハニートラップと【蓄電】を掛け合わせた彼女のように。
迫れ、距離を詰めろ、長所を殺せ。それで初めて僕に勝ち目が見えてくる!
なのに、飄々と、男は穏やかな表情で待ち構えた。
「間合いを詰める、か。その方法はお前で五人目よ」
バックステップをしながら刀を構える。切っ先を僕に向け右手で持ち左手は沿える突きの構え。その間、僅か一瞬。
「滾るな」
踏み込み、男は刃を突き出した。
瞬間、刀身は伸び僕の反応速度を超えて一直線に向かってくる。
両刃の切っ先は突きに特化した刀身。初めからこの一撃こそ男の必殺技。
回避が間に合わなかった僕は回避しきれず翼の付け根を突かれ片翼が切り落とされる。
バランスを崩して地面に半身を擦り頬に土を付ける。
男が薄ら笑いを浮かべる。きっと奴にとっては倒せて当たり前の人間なんだ、僕は。
分かってる。僕はヒーローじゃない。父さんじゃない。だからこそ、土にまみれ這ってでもお前の元に辿り着かなければならない。
片翼の出力を限界を超えて引き出す。
だから、お前達が易々と出来ることを命を燃料にやらなくちゃいけないんだ。
即座に足に力を込めて地面を蹴る。出力を上げた翼によって奴の懐に潜り込む。
「…………は?」
「油断……したな、このッ、野郎がァ!」
刀身を縮めてももう遅い。奴の攻撃体勢が整うより速く僕の攻撃が入る。
速度を殺さず顔面に拳を叩き付けそのまま地面に向けて頭部を殴り飛ばす。
白目を剥いて意識を失った男を目の前に息切れした僕は大きく深呼吸した。
「何が傲慢だ。なんとかなった、だろう」
能力を解き翼が消える。
あくまで切り落とされたのは翼、僕自身は傷一つなかった。
まぁ、頬に土は付いたけど。
ちょっとコーラルをキメにルビコン行ってきます。




