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異能ある君は爪を隠す  作者: 御誑団子
第二部 恋は戦争

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切っ欠け

 夕日に燃える教室、その一幕を夢に見る。

「助けてくれてありがとう」

 あたしは君にそう伝えた。ボロボロの君に。

「別に。当たり前の事だし」

 そう言いながら帰る支度をする。

「……あの」

「何?」

 君は冷たくあしらう。まるで人を避けているみたいに。

「お礼がしたい……」

「いいよお礼なんて」

「でも……」

「それじゃ。僕この後用事があるんだ。ごめんね」

 君は足早に教室を出ようとする。

 あたしは喉元にまで来た言葉が上手く出せずに居て、思わず変なことを口走る。

「えっと、えっとぉ……待って!君って身長高いよね!」

「……嫌味?皮肉?」

 そこまで高くはなかったけど思わず口から出てしまった。何とか君を引き止めたくて。

「いや、違っ、そうじゃなくて……」

「……何?」

 めんどくさそうに君は返す。正直感謝の言葉ぐらいは素直に受け取ってほしい。

「君、がしたこと。犯人の事抱き締めて上げたのは……あたし、正しいことだと思ってる!」

「……」

 苦しんでいた。叫んでいた。行き場の無い怒りを、憎しみを宿していた。君は真正面から受け止めようと努力した。ボロボロで誰よりも戦っていた君があたしには美しく見えた。あの時は怖くて今も思い出すのも辛いけど。

「だから、その……周りの人達が言ってた事、気にしなくて良いって言うか何て言うか……」

「……ありがとう」

 泳ぐあたしの視線は君を見る。

 溢れるように頬が緩む君、垂れる前髪の隙間から見える瞳、自然に出たその笑顔はまるで星のように綺麗だった。

「じゃあね」

 そう言って君は手を振って去っていく。

 一人残された教室、あたしは大きく跳ねた心臓の音を聴いた。

 あたしの心が恋に落ちた音を聴いた。

 ただの恋ならいつでも忘れられる。だけどこの時ばかりはあの瞬間の笑顔を忘れられずに居た。瞳の奥、脳裏に焼き付いた君はいつまでも瞳を閉じれば思い出せたのだから。




 朝だと言うのにあたしは気分がノらずにいる。

「どーしたの?」

「お姉ちゃん」

 寝起きの姉が部屋から出てきた。タンクトップに短パンのラフな格好に髪の毛は染めているのにボサボサだった。

 あたしは朝食も取らずリビングの机に座っていた。

「昨日帰ってからずぅっと落ち込んでるけどぉ、もしかしてまた失恋した?」

「または余計」

「……ありゃあ」

 頭から離れない昨日みた別れの光景。好きな人が同い年ぐらいの女性と一緒に消えた帰り道。それからずっと心がここに無かった。

「何があったの?お姉ちゃんに話してみなさい」

「………………その……」

 あたしは心の内を話す。好きになった人がいる事、その人が他の女性と仲良くしていることを。

「んー、見立てはどうなの?付き合ってるの?その二人」

「それは分かんないけど」

「なら、まだチャンスはあるわ!」

「……ホント?本当に!?」

「ええ!まだいける!」

 お姉ちゃんは勝ち誇ったように宣言する。

「その子の人となりは知らないけど男なんて袋を掴んだら後は手玉を転がすように簡単なんだから」

「袋?」

「そう!胃袋と給料袋と金◯袋」

「下ネタぢゃん!」

 真面目に聞いたあたしがバカだった。

「まぁまぁまぁ、これ本当よ。食事とお金の管理、そして肉体関係を持てば大体の男は相手から逃げられなくなるの。責任感がある子ほどね」

 得意気に、今の恋人を落とした手練手管を披露する。

「いざとなれば押し倒しなさい!」

「かなり、無理矢理な」

「恋なんて戦争なの。どんな手段を用いても勝てば良いのよ勝てば」

 そうなんだ。

 姉のその言葉を受けてほんの少しだけ心が軽くなった気がした。

 どんな手段を使っても……。

 あたしはあたしの中に生まれた矛盾を無視してほんの少し笑うのでした。

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