始まりは静かに
雫と一緒にキッチンに立つ。
「おぉ」
今夜はカレーです。
手順は簡単。鍋に油を引いて玉ねぎを焼き豚肉を加えて炒め人参、ジャガイモ、他はお好みで加えて水入れて煮込みカレーのルーを入れる。これで完成。
雫にも手伝ってもらった。包丁の扱いは見ていてヒヤヒヤする。
「出来た?」
「うん。出来たよ」
炊いたご飯とルーを盛り付けて雫に渡す。残りは父さんのだ。
「いただきます!」
真新しいテーブルに椅子、慣れない。けど座って隣同士で食べる。
「んー!おいひい!」
「なら良かった」
ほとんど市販のルーのお陰です。
「いただきます」
僕も両手を会わせて食べ始める。
「ごちそうさまでした」
一足先に食べ終えた僕は今だけ借りている通信デバイスに連絡が入っていることに気がついた。
「……げっ」
送り主はカンナギだった。
仕方なく通信デバイスに残された音声メッセージを食器を片付けながら聞く。
『あー、もしもし?翔?申し訳ないんだが頼みがあって。そんな難しいもんじゃないから気張らなくても良いんだけども。今通ってる高校に西園寺ナオヤっていう生徒がいたら連絡してほしくって』
西園寺ナオヤ?なんか聞いたことがあるような……?
悩んでも仕方がなく、しょうがないので取り敢えず明日調べてみることにした。先生に聞いたら一発だろうし。
「ごちそうさまでした!」
雫も食べ終え食器を下げに来る。
「美味しかった?」
「美味しかった!」
「なら良かった」
日が沈んでも帰ってこない父さんの分を残して、皿洗いを始める。雫はその足でテレビを見始めた。
「……ニュースばっかりで飽きない?」
「飽きないよ。結構面白い」
「マァジィ?」
「ホントホント!まぁ、私が外の事全然知らなかったのが一番大きいんだけどね」
あぁ、それは何となく分かる気がする。
「西園寺財閥?の後継者が襲われたとか」
「…………………………なんてぇ!?」
僕は思わず大声で反応してしまった。
西園寺財閥!?の後継者ァ!が襲われたぁ!?
「えっ、外の事全然知らない……」
「巻き戻りすぎ!その後!」
「西園寺財閥の後継者が襲われた……」
「なぁん……もっとニュース見とけば良かった……」
西園寺、どこかで聞いたことがあると思えば財閥の……。
「財閥の人達がどうにかしたの?」
「いや、カンナギから西園寺ナオヤって生徒がいたら連絡してくれって言われてて」
「なるほど……、一応襲われたのこの人なんだけど」
雫がテレビを指差すとそこに二十代後半の男性の姿が映っていた。
「……学生って」
「歳じゃないよなぁ」
しかし、財閥の後継者を襲うなんて大それた事をするなぁ。
僕は皿洗いをしながらニュースの詳細に首を捻る。
「意識不明の重症、全身を強い力で潰されたことによる血管の破裂と全身の骨の複雑骨折……どう見ても普通の人間が出きることじゃない」
「異能者が犯人ってこと?」
僕はささっと皿洗いを済ませ雫の隣に座りに行く。
「異能者が犯人とは限らないけど、異能者が一番に疑われるかな」
「でも重いものをこう、全身を覆うように積み上げれば同じことが出きるんじゃない?」
「それだと血管が破裂するよりも骨が折れるよりも先に呼吸できずに窒息する。だからこれは瞬間的に強い力で地面や壁に押し付ける、念力の十八番」
勉強してるからこういうのはすぐ分かる。
「全身の、小さな物も含めて骨を丁寧に折ってあるなら異能者の方が可能性がある」
なら、逆に何で殺さなかったのか。怨恨すら疑うほど徹底的に痛め付けているのに。殺すことが目的ではなく拷問するのが目的なんだとすると何かを聞き出そうとした?何を?情報?何の?
「……西園寺って何してたっけ」
僕は通信デバイスをネットに繋ぎ西園寺財閥が行っている事業を流し見る。
そこに一つ、違和感を憶える事業があった。
「異能研究……」
……まさか、ね。
でもこれだと勘が反応した。
「……」
そこに載っていたのは世間一般に公開できる情報のみ。
でも明らかに、抜けている。必要な情報が。
まず異能研究と言うからには異能のサンプルがないといけない。念力、瞬間移動、発火、接触感応、そして不老長寿。それらのサンプルを使いどのような人間にどのような異能が芽生えるのか、そういった研究をしているのだが、異能のサンプルの出所が書かれていない。少なくとも協力者がいる明記ぐらいはされていてもおかしくないのに。
そしてこの研究を興したのは一代前の西園寺当主、の婿。【鉄四肢】の……創設時メンバーの一人だ。
「……翔?」
「ん?どうした?」
「怖い顔してるよ」
「ん……ごめん」
「別に怒ってる訳じゃないけども」
まずい……これは思ってたよりきな臭くなってきた。
何を考えてるんだ?カンナギは……。




