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異能ある君は爪を隠す  作者: 御誑団子
第二部 恋は戦争

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変わった日常

「あー、えっと」

 僕はいつもと違う道を通って登校した。

 校門前では生徒指導の先生に捕まり髪色の件で軽い注意をされ、名前を言ったらポカンとされた。

 生徒会と風紀委員の人に挨拶をしたら……

「誰!?」

 ……と言われ、終いに僕は教室の前で人に囲まれている。

「ねぇねぇ、君、転校生?名前教えて?」

「何で目が青いの?外国の人?ハーフ?モデルとかやってる?」

「なぁ、うちの部活……入ってみねぇか?」

 髪型を変えた事より名前も顔も覚えられていないことが悲しかった。人付き合いを避けてきたのは僕なんだけどね。

「転校生、じゃない……かな……」

「ふえぇ?」

 うーん、コミュニケーションのリハビリはしないといけないなこれ。全然言葉が出てこない。いや、ショックで言葉が出ないだけでもあるんだけど。

 男女に囲まれ、視界が塞がれていたけれど見慣れた赤い髪が揺れるのを見た。

「あっ、おはよう!」

「んー……」

 彼女は若干元気無く不機嫌に僕の方を見て、僕を囲んでいた人達は僕の視線の先に目を向けた。

「楠さん」

「………………」

 楠さんは僕の顔を目を凝らすように見て驚いた顔をした。

「翔君じゃぁん!なにその頭!イメチェン?ビミョーに似合ってないよぉ」

「えぇっ!?」

「うそうそ!チョー似合ってる。かっこいいよう」

 さっきまでの元気の無さも不機嫌もどこへやら。いつもの笑顔を浮かべた。

「……ちょっと綾乃どういうこと!こんなイケメンとどこで出会ったのよ!全部包み隠さず教えなさい!」

「え、えっとぉ……同級生(クラスメイト)だよぉ?冬休み入る前にも居たじゃん。……憶えてない?」

「え」

「は?」

「マジか」

「……はい」

 全員の視線が一斉に僕へ向いた。

 何とも言えない驚いた顔をして、若干引いて。




 僕のモテ期は数分と持たずに過ぎ去った。まるで過ぎ去った遠い思い出のよう。ついさっきの出来事だけど。

 さっ、いつもと違うイベントがあったからって気にすんな。大丈夫大丈夫。あっ涙が止まらないよう。

「大丈夫?」

「ぜんぜん」

 僕は楠さんと廊下を歩きながら帰路に着く。今日は始業式だけ、特に授業とかはない。部活はあるらしいけど。

「この後どう?この前言ってたカフェとか」

「あ、いや、今日は用事あるからもう帰らないと」

「そっか」

 しょげる彼女、それほど楽しみにしてくれてたんだ。少し申し訳ない。

「また今度ね」

「……うん。楽しみにしとくねぇ」

 赤い髪の毛で隠れたピアスが見え隠れする。ほんの少し元気を取り戻してくれたようでホッとした。

「あっ、そう言えばッ……っィて」

「ご、ごめんなさい!」

 曲がり角を出会い頭に誰かにぶつかる。向こうは急いでいたようで少し申し訳なかった。

「いえこちらこそ。怪我はないですか?」

「大丈夫です!気遣いありがとうございます。すみません急いでいるので……」

「呼び止めてすみません。どうぞ」

「失礼します」

 何だこの会話。社会人のやり取りかよ。

 腰が退けて頭を下げる僕とぶつかった誰かは謝罪し合ったままその場を後にした。

 その誰かが通り過ぎた瞬間、嗅いだことの無い変わった匂いがした。別に臭いとかそういう話ではなくて。

 僕は振り返って通り過ぎた誰かの背中を見た。

「……誰だっけ?」

 男子の制服を着た小柄な誰か。髪の毛はピンク色でショートカットほどの長さはある。

「隣のクラスの有名人ぢゃん。ほら、お金持ちの」

 お金持ち……、御曹司とかだろうか。

 ならなんで彼から、木が燃えたような匂いがしたのだろうか。

 僅かに嫌な予感がして、でも確証もなく、僕は気を引き締めて日常に心を引っ張った。

「……どうしたのぉ?」

「あっ、いや、何でもない」

 僕達はまた歩き出す。

 最近色々ありすぎてすぐ何かを勘繰ってしまう。あのクリスマスは僕の日常を異常に変えるには十分だったようで。




 階段を降り靴を履いて校舎の外に出る。と、後ろからバタバタと音を立てて女子二人が追いかけてきた。

「おーい綾乃~」

 先行した一人が楠さんを捕まえ、後から来たもう一人がへばりつく。

「カラオケ行こうよ~」

「ぜぇ……はぁ……もう!黙って帰っちゃダメでしょ」

 この二人は楠さんと仲良くしている、例に漏れずピアスと髪染めをしているギャルのような女子。黒髪で長身の人と金髪でおっとりしている人の二人だ。

「いいよぅ!行こう行こう!」

 僕と違って二つ返事て承諾している。

「じゃあここで。じゃあね」

 僕は邪魔しちゃ悪いとその場で別れを告げる。

「……何々?付き合ってるの?」

「あの人今朝の人じゃなぁい?」

 彼女達の評価に恐れながら足早に校門を出ようとして人集りが出来ていることに気付く。

「あの、どこの人なんですか?良かったら連絡先でも……」

「名前教えてください!」

「良かったらこの後俺とデートでも……」

 ……なんかデジャブだ。

「あっ、いたいた。翔~」

 そしたらもう聞き慣れた声が近くから聞こえてきた。

「雫……なにしてんの?」

「お買い物の帰り。近くに来たから待っちゃってた」

 男子の驚きと殺気に満ちた視線が一斉に僕へ向けられた。こっわ。

「エヘヘ」

「……まぁ、良いけど。今度は連絡してね」

「うん!」

 屈託の無い笑顔が向けられる。周りの視線がより鋭くなる。

「帰ろっか」

 そう言って僕は彼女の手を取って男子の集団から引っ張り出し一緒に帰る。

「重くない?」

「これぐらい大丈夫だよ」

「……一個持つよ」

「ホント?ありがとう」

 雫が持つ食材が入ったビニール袋を一つ持って僕達は帰路に着く。

 僕は気付かない。背を向けた後ろで、雫と一緒に帰るその光景を見て愕然とする誰かが居たことを。

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