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異能ある君は爪を隠す  作者: 御誑団子
第二部 恋は戦争

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ある少年の異能

「それでは、雨宮翔の異能の査定を始めます。よろしくお願いします」

 その会議はリモートで行われた。それもそのはず、異能の位を決めるこの会議は世界中の専門家によって決められるのだから。いちいち集まっていられない。

「国際規定によれば【罪位(ランク・シン)】の異能は国家転覆を起こせる火力と範囲とされています。先の映像通り、雨宮翔は擬似的な【対地中貫通弾(バンカーバスター)】を再現でき、炉心を保有している。加え音速を遥かに超えた速度での航行も可能、生体金属と呼ばれる液化と硬化する金属に似た物質を利用し翼を形成でき応用も効くものと思われます。以上をもって雨宮翔の異能は【罪位(ランク・シン)】の飛行能力【飛翔流星(シューティングスター)】と命名させていただきます」

 この決定に意を唱えるものは居なかった。

『これは、単純な疑問なのだが』

 一人の研究者がスピーカー越しに質問を投げ掛ける。

「日本はこの異能を君達の基準である【真位(ランク・シン)】にはしないのかな?」

 その質問に若い女性の有識者が答える。

『日本独自の基準はあくまでも唯一性と再現性、彼の持つ推進力は唯一であっても再現できないわけではありません。対地中貫通弾は既にありますし、炉心も原子炉等発電所として利用しています。音速を超えた航行は戦闘機が、生体金属も液体金属で再現可能。日本独自の基準は研究対象としての価値ですので彼はそこまでではありません』

『そうかね。ならばこれ以上言うことはない。失礼した』

『いえ』

 モニター越しの会話が終わる。

「では、これで会議を終わりとします。多忙な中お集まりいただきありがとうございます」

 参加者が続々と落ちていく。その中で一人残り続ける人がいた。

「……どうかなさいましたか?」

『いや、資料に載っていなかったから気になったのだが、彼は先天性の異能者かい?』

「具体的にはわかりませんがその可能性が高いと思われます」

『では、彼はこれからも異能が成長する可能性があるのだね?』

「それは……ええ、そうですね。可能性だけならば」

『ふむ、ありがとう。ならば【真位(ランク・シン)】も視野にいれなければならないね』

 そう言って彼は退出した。

「……ふぅ、終わったァ」

 男は背もたれに体重をかけネクタイを緩める。メガネをはずし目頭を押さえる。

「全く、日本が世界に誇る都市防衛機構を破壊一歩手前まで追い込みやがって」

 そう言ってタブレットに映る資料を手に取った。

「まぁ、ヒーローで良かったよ。本当に」

 彼の名前は田中誠司(たなかせいじ)、三十二歳の研究者であり、日本という国からもっとも頼りにされており、とある博士の弟子だった人物だ。

 そっと、机の上に置かれている写真立てを手に取る。

 そこに彼と一回り若い男性と子供のように若い女性が写っている。

「戸田の奴元気にしてるかなぁ」

 そう言って写真を置いた。

「しゃあ、報告書書いて政府のお偉いさん達に提出しないと」

 メガネをかけ直し、大量に積まれたエナドリの空缶の手前に置いてある新品の封を開けて飲み干す。

「充電完了、やるぞー」

 完徹三日目の異常テンションの中、もっとも重要な仕事を開始するのだった。




 僕に異能の登録とその詳細、使用時の注意事項が届いたのは登校初日の朝だった。

 異能の位は【罪位(ランク・シン)】、注意事項は高度百五十メートル以下の飛行時の速度制限と高度百五十メートル以上の飛行許可である。

「……まるで空を飛べる異能があるって知ってたみたいな注意事項だなぁ」

「そうなの?」

 朝食の焼いた食パンにイチゴジャムを塗った物を雫が頬張りながら質問してきた。

「この二週間で飛行制限を提示できるってことは知ってた……は言いすぎでも予測はしてないと出来ないよ」

 でもこれ、飛行能力の良いとこ全部潰しに来てるよなぁ。

「破ったら何か怒られたりする?」

「全然?注意されるぐらいだよ」

「なら別に守んなくても良いんじゃない?」

「でも、まぁこう言ったらあれだけど、飛行機の進路妨害とかしたら怒られるじゃ済まないしなぁ」

「なる……ほど……?」

 旅客機とか基地からの緊急離陸(スクランブル)とか邪魔したらがっつり犯罪だからね。それらを懸念しての注意事項だろうし。

「一応、カンナギに連絡しとかないと。ここから自由に活動できるように色々交渉するって言ってたし」

「この様子だと組織の一員として活動するの相当先になるね」

「だな」

 僕は届いた注意事項に目を通す。一応百五十メートル以内なら時速百キロまではセーフ……と。速度メーター無いから何キロ出てるとかわからないけどそこそこ早く飛べる。

「……まぁ、何とかなるかな」

 別に気楽にそう思った訳じゃない。僕自身まだ異能を使いこなせていないからそこまでする必要は無いだろうし。そもそも、僕の異能は出力が落ちて炉心の起動が出来ない。あの日、超人と戦った時の力は暴走による一時のもの、今はそこそこ早く飛ぶぐらいしか出来ない。

「……そろそろ学校じゃない?」

「ん、本当だ。じゃあね、行ってくる」

 時計の針は朝七時を少し回ったぐらいを指す。

 僕は急いで靴を履き玄関……直エレベーターに乗り込む。

「じゃあ行ってくるね~」

「うん!行ってらっしゃーい」

 エレベーターの扉が閉じるギリギリまで手を振っていた。

「……髪型、変って言われませんように」




「……おはよう……」

「おはようございます」

 少し遅れて雷蔵さんが起きてきた。

「ご飯……もう出来てるんだ……」

「翔が作ってくれました」

「そ、そう」

 この人はどうも私が居るのが落ち着かない様子。でも努力はしていて、それがどうしても申し訳なく思う。

「すまないね。こう見えて女性と暮らすのはこう見えてほぼ初めてなんだ」

「あー」

 そう言えば言っていた。息子と血の繋がりはないって。でも気になるものは気になる。翔のお母さんがどんな人なのか。

 でも今聞いても答えてはくれなさそう。

『天気予報です』

 私はテレビの声に意識を引かれた。

『今日の天気は晴れのち曇り、晴れ晴れとした天気ですが午後からはどんよりするかも』

 私は外を見る。青く澄んだ君の瞳のような空を見上げた。

『乾燥した空気なのでガスやたばこの消し忘れなどの火の不始末などに気を付けましょう』

5000PV達成しました!

ありがとうございます!

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