エピローグ 本当の黒幕
十二月二十六日夜七時。
雑踏を見下ろしながらケーキを貪り電話に出る。
「もひもひ。ングッ……お疲れ。世界救ったばっかりなのに連絡ゴメン」
電話先の人物は疲れきった声だった。まぁ、世界を救った後なら仕方ないか。
「咲哉……うん。お休み。向こう百年は何とかする。安心して寝てて。じゃあね」
そう言うと電話が切れた。
ケーキを貪り食べる。
最近駅前にできた洋菓子店、その二階は洋菓子店のケーキを食べる事が出来るカフェ喫茶となっている。そのカフェ喫茶で暖かいお茶と一緒にスタンダードなショートケーキを食べる。
少し遅れた自分へのクリスマスプレゼント。
そんな至福の時間に水を差すように一人の男が訪ねてきた。
「……また怒られるぞ、雷蔵」
「話があって来た。許可は得ている。カンナギ」
ボクの向かいに雷蔵が座るとバイトの女子高生がメニューを取りに来た。
「ボクと同じものを彼に」
「はい。少々お待ちください」
下の階に降りて行くのを確認してから会話を始める。
「それで?何用?」
「翔を巻き込んだのは貴方か?」
「あぁ。そうだけど」
瞬間、こんな人が大勢居る場所で出してはいけない殺気を放つ。
「人の心がないのか……貴方は」
「元人殺しに言われたくない。今もそうだけど」
歯軋りする音が聞こえた。
「悔しがるなよ。知ってるでしょ?ボクは最善の未来を選んでいるって」
「【未来視】それで、なんで息子を巻き込む未来を選んだ」
「簡単だよ。雪村雫の生存率が最も高い未来だったからだ。それはこの瞬間までじゃない。これからもだ」
「だったら、最初から貴方が動けば良かったはずだ」
「ボクは長期戦闘には向かないって知ってるでしょ?一度に使える異能の数と肉体そのものの稼働時間が弱点なんだから」
そう言いつつボクはケーキを食べる。
飲み込んでから話を続けた。
「雨宮翔君の異能は確かに世界そのものを敵に出来るポテンシャルを秘めてる。でも、雪村雫ちゃんの異能は世界の全てが持てる全てを以て手中に収めたくなる異能、そもそもの格が違う。そんな彼女を世界から守り続ける役目を誰かが背負う必要があって、君の息子はそれに対してお誂え向きだったってだけ」
雷蔵がその言葉を聞いて胸ぐらを掴もうと手を延ばしたところでさっきのバイトのJKちゃんがケーキを運んできてくれた。
「お待ちしまし……た……」
「ありがとうございまーす!」
「あ、は、はい……」
気まずそうに足早に去っていった。これはまぁしょうがない。
「一般人もここには居るんだ。騒ぐなよ」
「……お前……ッ!」
「……まぁ、これはボクの名誉と彼の名誉のために言っておくと、雨宮翔君は自分の意思で雪村雫ちゃんを助けたよ」
「だとしても……」
「認めろよ。親の言うことを聞くだけだった良い子が自分の意思で誰かを救おうとして、そして救った。ボクは一応巻き込まない方向で調整していたんだからこればっかりはどうしようもね。未来視を覆したんだ。むしろ誇ってやりなよ。運命をひっくり返したってさ」
「……」
雷蔵が押し黙る。まぁ、説得できるだけの材料は用意してたしね。
「そっちこそ家に帰ってる?聞いたよ、この前休みを与えたのに会社で寝泊まりしたって」
「んんッ!?誰が……」
「犯人捜しなんてしてやるな。それよりも、息子とロクにコミュニケーション取らないくせにこういう時だけ父親面するなって~の」
「それは……」
「父親として振る舞いたいんなら好物の一つでも把握してやりなぁ」
全て食べ終えたボクは二人分の代金をテーブルの上に置いて席を立った。
「ここのケーキ、特にショートケーキは好物だよ。いつか買って帰ってあげなぁ」
ボクは店を後にする。少し酷い言い種だったかもしれないがあれぐらい言わないと動かない向こうにも問題がある。
外に出てカフェを見上げさっき自分が居た場所を見ると少しづつだが出されたものを食べていた。
「全く、不器用なのは良いけど気持ちがちゃんと伝わるように工夫しろっての」
ボクはあくびをしながら夜の街を歩く。あいにく未来視で見える光景には一時事件の気配はなかった。まぁ、この未来視は自分が関与しない他人の行動で見えるものが変わるから、あくまでも今一番起きる可能性が高い未来をシミュレーションしているに過ぎないんだけどね。
それでも束の間の平穏が訪れた。
「んー、明日は何しよう」
二十五年ぶりに訪れる休日をどう過ごそうか、ボクは背筋を延ばして考えるのだった。
これにて一章完結となります。
ご愛読ありがとうございます。引き続きおまけと二章をお楽しみください。




