Final Battle 【飛翔流星】
『全システム起動━━都市防衛機構展開』
七つの内六つの光の塔が起動し多くの兵器から都市を守る異能を模した防壁が張られる。
その防壁を赤と青の星が容易く突破する。
戦闘は遥か上空、雲と地上の狭間。
雪花、砕け散る。
衝突は余波で空を震わせ衝撃波が雪を巻き上げる。
片や進化した次代の霊長類、片や改造人間を超えた非改造人間。
今この瞬間、雨宮翔を守る障壁は変容している。
拒絶を糧にあらゆる物を弾いてきた障壁は彼への想いを糧にした結果【拒絶障壁】は人類が到達できない領域に踏み込んだ。
【絶対守護領域】
かつて一人の科学者が提唱した【城壁】の異能、その内側に入るものをあらゆる驚異から防ぐ、概念に片足を突っ込んだ護り。その護りは例え宇宙空間に飛び出そうとも障壁内の空気を維持し続け生存可能とする。まさしく再現不可の【真位】の異能。
それが今雨宮翔を護っている。長くは持たないだろうけど。
ボクは事の顛末を見届ける。どう転ぼうとこの戦いの結末は確実に世界へと影響を与えるものだから。
唯一勝てるものは速度のみ、だがしかし最高速度に到達するまでの時間はどう足掻こうとカインの方が上だ。初速最速、なら僕は一度たりとも止まることは許されない。
加速し続ける。その上でカインの最速を上回り続ければ追い付かれることはない。
問題点は僕の思考のトレースと空気を蹴って走り続ける僕だけの優位を手に入れたこと。それは空中においても同じ条件でなければならない。
と、思い込んでいた。
「なんだぁ?また考え事かぁ!?」
「考えるだろ、お前を倒すために」
空を駆け僕に接近する。ただし地上と違ってその速度は落ちている。
地に足を着けて生きることを選んだ人類がそう簡単に空に適応出来るわけもない。そもそも地面と空気じゃ同じように蹴っても前に進む速度は落ち続ける。
活路はある。残りはどう切り開くか。時間は掛けられない。雫の障壁がどれぐらい持つか分からないから。故にこそこの一撃で見いだす。
大きく真上に旋回する。例え超人と言えど重力まで加われば速度を大きく落とした。
背面機構の出力をあげてカインの頭上を取った。爆発するように速度を上げて突撃する。腕に刃物のような翼を生やして突き出した。
「この程度避けるに決まってるだろ」
腕は空を切り何もダメージは与えられなかった。だからこそこの攻撃はブラフ。本命はこっちにある。
「……?ッ!」
ワイヤーだ。
「こっちか!」
こんなわざわざ使いづらい異能を攻撃の主軸に置くわけが無い。使い慣れたこっちこそこの場面では必要なんだ。
ワイヤーで超人を絡めとり引っ張ってビルに叩き付けた。
「グゥッ!」
一本二本程度じゃ引き千切られる。幾重に渡って絡め太い一本のロープとする。それを尽きるまで限界まで作り上げる。そしてそれらを周囲のビルや街灯、あらゆる物に巻き付け拘束する。次は足を地面に着けない。空中で。
カインを完全に拘束した。
「この程度でぇ!俺様を止められると思ったかぁ!」
ビルが、街灯が、看板が、へし折れ曲がり砕けそうになる。
でも、大丈夫。お前が抜け出すにもそれなりに時間がかかる筈だから。
「【空中疾走】弱点は体勢」
僕は屈みながら口にする。頭の中だけで思考できるほどリソースが残っていない。自然と口に出てしまう。
「【弱点看破】は簡略化のしすぎ」
無意識に見たことを知識と結びつけてしまうが故に知らないことに対して全く別の知識を引き出してしまう。僕の悪癖まで継承している。今直せ。
「【全速駆動】の弱点は限界に見切りを着けてしまったこと」
父さんはあの領域に届くまで色んな案を試した。だけどお前は限界を突破して使うことをしなかった。脳を焼き切ってでもさらに昇華させるべきだった。
「お前の弱点は高揚と共に攻撃が単調になること、そこに付け入れば……ッ!」
僕は大きく翼を広げ防御の一切を無視する。君の障壁を信じる。
これは僕の特権、あらゆる鳥類は真上には飛べない。これだけは僕の強みだ。
翼の限界を超えて音速を引き出し雲に風穴を空けその更に上まで飛んでいく。
第一宇宙速度、突破。上空百キロメートルの地点に約二十秒で到達した。
そこは空気もなければ光もない暗闇の世界。足元に広がるはまるで星々が散らばる宇宙のような地表、それでも水平線も地平線もまだはっきりと見える。星の縁がよく見える。
……。
…………。
………………。
カイン、お前に少しだけ同情する。
僕とお前は同類だと言った。それはきっと間違いじゃない。あの衝動に、叫ぶ悲鳴に、お前は苦しんだんだと思う。
だとしてもそれは僕には関係の無いこと。お前の境遇も、思いも、僕は踏みにじる。
彼女の元へ帰るために。彼女と共に帰るために。
推進力を止め宇宙空間で体勢を変える。崩れた体勢を微調整しながら真下へ向き直る。
この心に宿る思いを、消えないこの願いを燃料に炉心を稼働させその全てを放出の為に溜め込む。
翼の大きさは必要最低限、安定性も機動力も全て捨てる。
溢れ出る光は尾となり巨大な光の翼となる。その全てを持って僕は飛ぶ。
一条の星となって。
奴が飛んで約十秒、絡まったワイヤーは引きちぎっても纏わりつく。だったら最終手段だ。手足をへし折り切り落とす。再生すれば手足に絡まったワイヤーは問題なくなる。
胴を縛るワイヤーの束は引き千切った。
地面に足を着け限界まで力を溜め込む。全ての血が、筋肉が、細胞が、この瞬間に爆発するように跳躍力を強化する。
初速最速、地面にクレーターを残し円状の波形を残し空気を貫いて跳んだ。
『都市防衛機構━━最終機構展開』
都市部のビルや建物全てが地下に格納されていく。瞬く間に都市があった場所が鉄の更地と化した。確かに地下に逃げれば都市を破壊することは不可能だ。
だがふと、あることが過る。
俺様は幾度も地面にクレーターが出来るような跳躍を繰り返してきた。今更、そんな機能を使うか?
疑問、違和感、【弱点看破】は最初に間違った答えを出した。
都市防衛機構は俺様に反応していた、と。
違う。青い星が輝いた時だ。一際強く光った時だ。
星に手を伸ばす。天幕を巡る、それはまるで流星のように。
【空中疾走】では重力圏を飛び出せない。
あの最高速に届かなかった。
【全速駆動】ですら捉えられなかった。
三度煌めいた次の瞬間、本能が避けろと言って、駆け登る途中では体勢の問題で避けられず、腕を重ね交わり頭部を守る。
そもそも、あいつの最高速なんて知る由がない。上限なんて機能上ねぇんだから。あの守りがある以上空気の壁は邪魔しねぇし。
十分な助走を与えた時点で俺様は……。
いや、俺様は抗うぞ、お前がやって見せたように!
それは一瞬の出来事、雲よりも遥か上から加速しながら落ちてきた青い一条の光が赤い星を一撃で砕いた。
私の光を纏って。
砕いた光は散って消える。青い星は地上スレスレで急停止、地面に衝突していれば地下に格納された都市ごと破壊していたかもしれない。
僅かに遅れて轟音と共に走る衝撃波が襲い来る。
急いで自分自身に障壁を張った私は難を逃れ、遥か後方にある装甲車にはシールドが張られ翔君のお父さん達は身を護っていた。
「かっ……た」
私は生涯、この光景を忘れない。まっ更な土地に大翼を広げ光に照らされながら着地するその姿を。まるで天使が舞い降りたかのようなその神秘的な光景を。
そして私に向けてくれたどこにでも居る男の子の顔を。
人を超えたものに勝ったという事実と共に。




