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異能ある君は爪を隠す  作者: 御誑団子
第一部 流星の君

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44/145

Final Battle 【■■■■】

 空に青と赤の星が浮かぶ。

 燃えるような赤。

 透き通るような青。

 走りながら後ろが気になってしまって見てしまった光景。

「……何……あれ」

 とても人とは思えない。寧ろ悪魔のような青い君。瞳から溢れる青い炎のようなものが角のように揺らめいていた。

 爆発のように広がっていく暴風と衝撃波が走って十分の私達にも届く。

「どうなって……」

「もしかして暴走なんじゃ……」

「いや、あの子は暴走しない。自覚がなかっただけで先天性の異能者だから」

 暴走、確か能力を初めて使った時に制御しきれずに事故を起こしてしまう現象だった筈。

「いえ~、一つだけありますぞ~」

 ……なんか来た!?

 丸メガネとボサボサ髪の私以上に華奢でひ弱そうな手が袖から出ていない女の子が鳥みたいな足を装着して追い付いてくる。

 足をとうてい隠せそうにない短いヒラヒラの中身が見えそう。

「どうも~ハッキング&分析解析担当の者です~。セキュリティをハックするのに夢中で置いていかれてるのに気付かず急いで参りました~」

「えぇ」

 この緊急時にフワフワしたそのテンションは調子が狂いそうになる。

「喋り方に文句があるなら日夜徹夜の仕事環境に文句を~。気を取り直して走りながら解析した超人と息子さんのデータをどうぞ~」

「わっ!」

 視界にいきなり黄色い光の文字が浮かび上がった。

「超人はこの際無視します~。問題の息子さんは今現在異能の覚醒状態及び暴走状態にあります~」

「いやそんな筈は!」

 私達の歩く速度に会わせてその人は前に周り後ろ向きに歩き始める。

「こちらご参照~」

 そういって薄い光る板を取り出す。これ知ってる!テレビって奴だ!

「こちらのタブレットPCに、厳重なセキュリティを突破、データベースに侵入した旧【鉄四肢】所属だった橘博士の異能兵器実験記録~、そして~、独自の異能検査~、どちらも名称不明の男児の記録~」

「……まさか」

「はい、隊長の息子、雨宮翔の記録となります~」

 私は視界に写った翔君の情報と彼女が持つテレ……たぶれっとの情報を読み込む。

「博士のメモ書きには【衝動性】保有の可能性アリ、との事です~」

「バカな!そんな筈は!」

「そうです!だって彼は一度たりとも衝動の片鱗さえ見せていない」

「それは当たり前の事なのです~」

 私の横で翔君のお父さんと肩を貸している隊員さんが否定していた。反面、ドライな彼女は冷静に告げる。

「衝動性がもっとも強くなるのは異能の覚醒後~、即ち自覚した後になります~。先天性の異能保持者は初めての時に発現ではなく覚醒と呼ばれるのはこれが所以~。なぜってぇ~?覚醒前後で人が変わるからです~」

「人が……変わる?」

「はい~。徐々にですがたまに一気に変わる場合が~。その場合は異能を使って殺戮と破壊の限りを尽くすのです~」

 私の足が止まる。

「雫さん?」

「……」

「……そういえばこの方誰なのです~?」

「例の」

「あぁ~」

 私は、心の奥底で君の事を思う。人が変わるってことは、あの日あの時、私の手を取ってくれた君が居なくなるってことだから。

 決意はすぐに決まった。

「ごめんなさい、私、戻ります!」

「いや、いやいやいや!あのヤバイ戦闘に一般人が突っ込むのは流石に……」

「……」

「ねぇ!隊長!」

「……」

 人は最善の行動ばかり取れる生き物じゃない。私のこの選択はきっと間違いなんだと思う。それでも、間違いでも、彼の元に戻る理由がある。

 自分の為に戦えない君に伝えたいことがあるから。

 この決意をどうか、理解してほしい。

「……わかった」

 私の思いは伝わった。

「ちょっ、隊長!」

「彼女への驚異は既に取り除かれている。直接狙う者は居ないだろう」

「だからって……」

「それに、その役目は本来父親である自分がやらなければいけないことだ」

 でもその体だともう自分の足で歩くこともおぼつかない。

「だから、申し訳ない」

 血の繋がりがなくても父親としてありたい。その思いが伝わる。

 人生は経験と成長の連続、私も翔君もお父さんも、きっと人としてまだ未熟。だから、全力で駆けないといけないんだ。

「はい」

 私は彼から離れ来た道を全速力で戻る。

 遠い向こうで戦う君を見ながら。

「あ~、それと~」

「どうした?」

「今、光の塔のシステム移行が終わったようです~。これ、六棟全て起動するかも~」




 甲高い音が響く。背面機構から放出される推進力が人体を極限まで加速させる。

 翼の形は自由自在、体の何処からでも出せて、そして俺様の腕力でも破損しない。液体金属のような物質。

 片翼十メートルを超えていた巨大なそれは腕を広げた時と何ら変わらない大きさになっている。しかし、そこからの噴流に燃えている燃料がより大きな光の翼を幻視させる。

 薄く鋭い刃物のような翼と全身を保護するように生えている金属の羽毛。それらは俺の攻撃から身を守るためのものじゃない。空気から自分を守るためのもの。

 速度を上げれば音の壁に衝突する。空気はこう見えて想像以上に固い。

 特に、音速を出そうって奴には厄介な事この上無い。

「はっはァ!マジで鳥じゃんか!」

 全身に生えた羽毛のせいか、その姿は伝承に綴られる烏天狗のようだ。

「うるせぇ」

 直進、音速を超えて衝突する。刃物のような翼が俺様の腕を切り落とした。

「クッ」

 奴が通った後にガラスが舞って、円状の波形を残してカッ飛ぶ。

 まさしく戦闘機、青く光る奴の瞳が尾を引いている。

 ヤベェ、めっちゃ楽しい!

「こぉい!」

 大きく旋回してもう一度俺に照準を合わせ、奴が来るまでの間に肉体を万全な状態まで戻す。

 狙うはカウンター、衝突の瞬間にその顔面殴り潰す!

 遠方で流れ星のように光る奴が一際激しく輝いた。加速のために火力を上げた瞬間だ。見落とすわけがない。

 直進距離約二キロを五秒程度で飛行する。衝突直前のコンマ数秒に拳を放って、空気を殴り飛ばした。いや、空気を殴り飛ばしちゃいけねぇ。そこに奴がいないと……。

 俺様の視界に写ったのは直ビルにワイヤーを巻き付けて急停止しその場で逆上がりするように背中を見せる雨宮翔だった。

 俺が動かなかったからカウンターを狙っているのに気が付きやがったんだ。

 背面機構が一層目映く光り、次の瞬間、俺様の肉体でも耐えきれない超高温の噴流を放出する。

 俺様の肉体は瞬時に焼けていった。

「あぁっつぅ!」

 体の表皮が瞬間的に炭化した。数々の高温に耐え熱に対する耐性さえ手に入れた体を上の火力で焼き尽くす。

「この……」

 体が新しく皮膚を作り出す。たがその瞬間に、硬化できる俺様の皮膚は無くなっていた。

 衝撃が体を置き去りにして貫いていく。

 胸部、炉心と心臓を同時に蹴り潰された。落ちていく意識が即座に回復し心臓と炉心を再生する。

 だが、猶予は与えられない。ワイヤーを張り掴んであり得ない速度で帰ってくる。

「なぁっ……」

 腕が、足が、顎が、腹が、胸が、再生より早く破壊されていく。切り刻まれていく。目を潰され、耳を潰されていく。空中に放り出された体は身動きが取れず自由落下する。

 まるで鳥籠だ。バカ広い鳥籠の中で、一匹の怪物が暴れている。

 楽しかった。痛かった。冷たかった。それが心底嬉しかった。

 地面を滑りながら着地した奴は最後の攻撃に出る。切り刻まれた俺様の体は宙に、その真下で背面機構から高温の熱を噴出する。浴びれば肉片は燃え炭になり再生できなくなる。仮に再生できるほどの量が残ったとしても時間がかかる。

 青い炎が熱線の束となって空に打ち上げられた。これを浴びれば俺様は死ぬかもしれない。

 久しく死を感じた。




 超人、カイン・シュダット。

 異能名【次代進化霊長(ニュー・プライミッツ)

 だが、これらの情報は偽物(カバー)だ。

 かつて研究者が発見したこの異能の特性は決して表に出してはいけないとされた。その上で普通に生きることを願った。一つの生命体として。だが、それが彼の衝動、そして本能に火を着けることとなる。

 カインの真の異能名、日本基準の【真位(ランク・シン)】ではなく世界基準の【罪位(ランク・シン)】を冠した強欲の怪物。


進化分裂細胞(アルティメット・セル)


 その異能名こそ超人の本当の能力を表している。ただし、この名称を知るものは誰もいない。

 全員彼が殺したから。




 切り刻まれた肉片が形を変え繋がり超人へ接続される。接続された肉塊は増殖を続け集まり元の形へと戻った。

「はっ!」

 嗤う。超人は空気を蹴って熱線を回避した。

「あっぶねぇ!」

 死の危機に瀕したことで異能が飛躍的に向上した。異様な再生速度はこれが原因だ。

「あー、なんだっけ」

「くそっ!」

 今ので仕留められなかったのはまずい。これ以上強くなったら勝ち目が……。

「そうそう、空走ってる奴いたな。出来たらお前に追い付けるなぁ」

「は?」

 ……いや、いやいやいや、ふざけるなそんな出来る出来ないの問題じゃな……

 瞬間、超人が空気を蹴って走り出す。

「【空中疾走(スカイラン)】」

 見ただけで分かる。オリジナルの異能を学習して自分に見合った形に昇華させた。オリジナルは【浮遊歩行(エアウォーク)】の筈。

 今、超人は自分の肉体を改造して異能を再現したんだ……。まるで、学習するように。

「速度だけならお前が上だ!だから、力ずくでねじ伏せさせてもらう!」

「追い付けるもんなら追い付いてみろ」

 超人はどんどん速度を上げている。使う度に強化されているんだ。

 僕は放出しながらもう一度飛ぶ。

 速度だけならやっぱり勝てている。

 空中での取っ組み合い。ぶつかり合い。衝突の度に衝撃波が空気を揺らし轟音が街中に響き渡る。

「【弱点看破(ウィークポイント)】」

 次は何を再現した?弱点看破?一体何の……。

 僕が張ったワイヤーを巧みに使い奴は背後に移動する。そこは好都合だ。もう一度熱線を放出する。

 だが、超人は熱線を片手で受けながら炭になって腕が無くなるよりも早く片翼をへし折った。

「アガァッ!」

 激痛が背中に走る。

「接続部、根元が弱点か」

 バランスを崩して落ちそうになる僕は痛みに耐えながらも折れた翼の形を整えて飛行する。

「柔らかくて固い金属のような物質ねぇ。この思考速度があって初めて扱えるのか。頭の回転も何だかんだっても異能の賜物な訳だ」

「思考……まさか思考も」

 トレースしたのか!?僕の思考を!?

 しかもそれを異能として運用できるほどに。

「その観察眼と知識量は何物にも変えがたいからなァ!」

 僕の思考を簡略し見ただけで異能の弱点を直感的に知れるようにした無法のような異能。

 ふざけるな。

 僕はすぐに距離を取る。速度で勝っているならまだやり用はある!

 最高速度で僕は旋回する。

「なんだぁ?この程度か?」

 なのに、超人は追い付いてきた。

「なん……」

 僕はその目を見て戦慄した。僕が知り得る全ての異能の中でもっとも速くなる異能。それは現実速度じゃない。もっと単純な全てが速くなる物。

 父さんと同じ目をしていた。

「アク……セル……」

 それは父さんの最高速になるまでの時間がもっとも速い異能。

「いいやぁ!【全速駆動(フルドライブ)】だァ!」

 ただ速いだけじゃ勝てない思考を加速させ、限界突破状態で肉体すら着いてこさせる前例の無い人工異能を超人は再現した。

 速度ですら僕は負けた。

 超人の拳が防御の為の翼を砕き僕に届く。殴り飛ばされた僕は墜落し血を流しながら着地した。

「追い付いたぞぉ!さぁ、もっとやろうぜ!」

 ビルの屋上に奴が着地した瞬間、速度を殺してないからビルがひび割れて砕け散った。

 瓦礫の山で、奴は文明を踏み砕きながら現れる。

「ハァ……ハァ……くそ」

 怒りを、憎悪を燃料に飛んでも追い付けない。

 僕と奴で何が違う?僕はまだ……まだ……やれる筈なのに。

 身体中が痛い。空気の壁を突破できたとしても肉体にダメージは蓄積していた。思っていた以上に。

「……んだよやっぱり苦しそうだな」

 蝉の音が聞こえた。

「うるせぇ」

「そう言うなよ翔。俺様はお前の事買ってるんだぜ?」

「どうせ、勝てる程度には強いからだろ」

「んなぁこたぁねぇよ」

 笑いながら上機嫌な超人が僕に近づいてくる。

「んー、自覚してねぇのか。自分の衝動に」

「僕に?あるわけ……」

「いんやぁ?お前と俺は同類だ。俺様は人と戦いたい、殺したい、殺戮衝動ってやつだ」

 同類、な訳無い。だって僕は今まで普通に暮らしてきた。嫌なことや不快になることはあってもそれは気にすべき事ではないって結論付けた。

「お前も、自分に正直になれよ。気にしろ。自分の中の声を」

 蝉の音が聞こえた。

「うるさい」

「んー、なら、たった一言で今のお前を殺そう」

 本能が耳を塞げと叫び、衝動が僕の手を押さえた。

 奴の言葉はまるで蝉の音のように聞こえてきた。

「お前、本当は引き金を引きたかったんじゃないか?」

「………………………………ちが」

 瞬間、頭の中で暴れるように、蝉の音がノイズになって全てを掻き消した。

「俺様の時も、家族を殺された時も。調べたんだぜぇ、お前の事」

 ちが……。

「本当はお前……人を殺したかったんだろ?」

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