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異能ある君は爪を隠す  作者: 御誑団子
第一部 流星の君

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英雄の在り方 2

 透明な素材で作られた竹筒みたいな円柱の中に私は閉じ込められている。その周りにはかなりの広さの空間と壁に見たことがない大量の機械が並べられていた。

 赤く点滅する光、青く漂う明かり、白く暗い灯り、異様な雰囲気を醸し出している。

「……なにもしないんだ、超人さん」

「んあ?」

 白い髪の毛と赤黒い皮膚、真っ赤な血走った目は肉食獣みたいだった。

「しねぇよ?トップとの契約だしな」

 気怠そうに壁に寄りかかって空中に指を走らせる。街中でも見たことがある光景、確か、オグフォ?で何かを操作している時の動作だった筈。

「……んー、やっぱりなぁ」

「何を調べてるの?」

「あいつの過去だよ。雨宮翔のな」

 笑いながら超人は口を覆い笑いを隠す。

「一部の経歴が消されている。誰かが意図的にこいつの過去を消してんなぁ」

「……どうして……」

「さぁなぁ?まぁ、でもこれでやることは決まった。仕事も終わったし金もらったらとっととこいつの過去を消した奴を問い詰めねぇと」

 そう言うと超人は首に着けていた装置を外し投げ捨てた。

「それはそうとお前も大変だなぁ。こんな糞みたいな組織に目ぇつけられて」

「こんな目に遭ってるのは誰のせいだと思って」

「ダハハ、それは確かに俺のせいだな」

 そうだ。超人のせいで征四郎が死んで、翔君が死にかけて、私はここに閉じ込められてる。

 悔しい。何もできない自分が、目の前に居るこの人を殴れないことが。

「そう睨むなよ。良い面が台無しだぜ」

「目の前から消えたら睨まないで済むけど」

「まぁそう言うなよ。暇潰しに面白い話をしてやろうと思ったんだからよ」

「面白い話?」

 超人は円を書くように歩きだし少し悩みながら話を始める。

「たぁしか、ここのシステムっつーのは異能を研究するのと同時に異能の増幅装置だった筈だ」

「私の異能を調べたいだけじゃないの?」

「脳ミソかっ開いて?それは確かだろうなぁ。だけど、本当の目的は人柱さ」

 超人は私の前に止まって笑いながら語り書ける。

「首から下を切り落としシステムの中枢に据えることで都市全体に巡っている防衛機構の礎に、そしてだなぁ、都市防衛機構は今【障壁】と【念力】を再現した壁で守られてるが【障壁】はお前の異能の性能に変わる。ここは、そういった場所だ」

 ……え?は?……え?

「良いなぁ。その面だよ。動揺してんな、焦ってんな、絶望してんな、お前の面いけ好かなかったからその顔見たかったんだよ」

「まっ……」

 死ぬならまだ良い。でも、そんな生き地獄なんて……私は。

「嫌なら雨宮翔に助けでも乞うたらどうだぁ?助けてくれるぜ、あいつは。その時はまた俺が全力で戦えるしな」

 その言葉で止まる。止まってしまう。だってそんなこと言われたら、もう……

「ま、首切り落とされるまでに考えてな。地獄に生きるか、生き地獄に留まるか」

 そんなの、そんなのもう決まってるようなものだ。私は、今の私は、もう、翔君に傷ついて欲しくないって思ってしまってるから。

「お、話をすれば」

 正面にある鉄の扉が開かれて戸田と名乗った男の人とそして、翔君が入ってくる。

 血を何度も吐くほどの大怪我はもうどこにも見られず、言った通り彼は全快したんだと、そう思った。

「寒いッスねぇこの部屋」

「……」

 彼の顔はとても暗い。何となく君の胸中を察してしまった。

 きっと、全部聞いている。

「……さて、別れの挨拶をする時間ぐらいはあるッスよ」

 そう言って男は道を開け、翔君が歩きだした。

 翔君と超人が入れ替わる。二人は視線を交わすこと無くただ真っ直ぐに進む。

「説得できのか?」

「後一押しッスね。彼が彼女を切り捨てれれば……世界は新生出来るッス」

 その言葉に超人は鼻で嗤う。

「まぁ、期待せずに待ってやるよ。その新生した世界とやらを」

 二人の会話をよそに翔君が私の目の前に到着した。近くに来れば彼の目元が微かに腫れている。

 私は、彼を苦しめたんだ。どんな時も暖かい君をこんな憔悴しきるほどに。

「……ごめん、雫」

 なのに君の第一声は謝罪で、その声音からは悔しさを滲ませる。

「な、んで……なんで謝るの?」

 私はそんな顔して欲しくなくて、ここに居るんだから。

「私大丈夫だよ。うん、もしかしたらもう会えないかもしれないけど、時間にしたら一日程度だけど、楽しかった」

 泣きたくないのに涙が溢れる。この二日間の事を思い返すと胸が熱くなった。言葉がうまく出なくなって、呼吸がどんどん出来なくなっていって、声が震えて、心が締め付けられていった。

 ただ一言、私の心の中に生じた今にも出てしまいそうな言葉があった。

 助けて……って。

「わた、私、君に……会えて……本当に、本当に良かったぁ」

 でも私のこの言葉に嘘はない。笑って言えるぐらい心の底からの本音なんだから。

 でも君は歯を食い縛って、でも、穏やかに私達を隔てるガラスの壁に触れた。

「……雫、僕ね」

 手を重ねる。君の熱を感じたくて。

 瞳を濡らしながら彼は口を開く。

「僕も、君に会えて良かったって思ってる」

「うん」

「だからこれは僕のわがままだ。もっと、ずっと、雫と一緒に居たいって」

 真っ直ぐに私を見て、君はそう告げた。らしい、まるで一番星みたいな輝きの笑顔を浮かべて。

 でもそれは……。

「交渉は決裂ッスか?」

 重い、鉄の音が聞こえた。

「……」

「黙ってちゃ分かんないスよ」

 振り返った君が遠くから鉄の筒を突き付ける戸田を睨み付ける。

「……ねぇ戸田さん」

「なんスか?」

「僕、貴方の事が過去一大っ嫌いだよ」

「そうッスか」

 指に力が籠る。弾かれて、火花が出て、鉄の玉が放たれる。筒の向きは翔君だ。

 咄嗟だった。正直もう一回使えれば良いぐらいしか体力が残ってない。それでも君に死んで欲しくないから迷わなかった。

 私は、障壁を張った。

 君は難なく玉を避けていた。

 ……何で!?

 障壁に当たった玉は弾かれて壁に当たり、障壁の内側で避ける動きをした君は体の半分だけが障壁から出ていた。

「……は?」

 私を中心に障壁を張った。その為か障壁の縁がガラスの壁を切り穴を空けた。

「いや、いやいやいや、それは……」

 ……障壁使ってればもしかして逃げられた?ていうか超人ゲラゲラ笑ってるし。

「……」

「……」

「……やぁ」

 ヤバい、絶対顔赤い。火を吹きそうなほど恥ずかしい。あんな、あんなこと言っておいてさらっと逃げられるとか。

 穴があったら入りたい。

「……プッ、ハハ」

「あ、アハハ~」

「それはダメッスよ!」

 激昂した声が響き、また引き金が引かれる。直前私は翔君に抱き付いて玉を全て障壁で弾く。

「……ッ!嘘だ、そんな筈は……!」

「最初からあいつも障壁に入ってたぞ」

「違う……【絶対障壁】は異能の保持者以外障壁の内側には入れない筈なんス!」

 何度も火花が散って玉が放たれる。笑ってる暇なんてなかったけど、私の体力は障壁を張れるほどもう無い。気力でなんとか保っている。だから、気を抜いたらもう。

「【絶対障壁】じゃない?……そういえば」

 翔君は何かに気付いたのかハッとしていた。

「なんて思い違いを」

 僅か後に火花は止まった。唸るような悔しがる声が微かに聞こえ、私を抱き締める君が睨みを効かせる。

「何で……」

「簡単な事だよ戸田」

 君が声を出すとほぼ同時に障壁が消えた。私の額へ僅かに脂汗が滲む。

「【絶対障壁】じゃなかった。それだけだ」

「そんな筈無いッス!ちゃんと、確証を」

「傍目から見れば確かにあらゆる攻撃から防げる護り、でもそれは彼女の心次第」

 君が私を一層強く抱き締める。まるで、護ってくれるように。

「【拒絶】、この障壁は心の壁。机上の空論ではあるけれど彼女の異能は【精神障壁】になる」

「そんな……そんな訳……」

「あー、なるほどなぁ。トップは最初っから」

「前提から間違えていた。昼間の問答も、この選択も」

 ……私は、私の事が分からない。自分が思っているよりも。だから、ほんの少し混乱する。

 心の在り方が障壁の強度とか展開速度に反映されるのは分かっているし、君がこの内側に居ることに違和感はあっても不快感はなかった。でも、それならもっと多くの人がこの内側にいても良いと同時に思った。どうして、どうして、君だけ、心の内側にいて良いって思ったんだろう。

 心の奥底にその答えはあった。

 寒かった、痛かった、辛かった、悲しかった。最初に会ったあの夜に、意識が沈んでいく中で温もりを求めて手を伸ばして、君はその手を取ってくれた。

 それは一時の気の迷いかもしれない。それでも、今だけは君の温もりに身を寄って居たかった。

「……まだ、まだッス!」

 荒々しい声音が響く。

「性能がほぼ同じなら問題はその心だけ!その心が全てを拒絶すればいくらでも代用は出来るッス」

「……」

「全部説明したッスよね!その娘は都市防衛の要に、君はそこに住む人々を護るヒーローに!そうすれば半世紀は安寧を得られるって!なるッス、英雄に!君がッ!父親を超えてッ!」

「……申し訳ないけれど、やっぱり僕はヒーローじゃない。僕は」

 君の瞳が青く光る。超人がその様子を見て笑みを浮かべ、戸田は絶望しきった顔をしている。

「ただ一人、彼女だけしか護れない何処にでも居る、意地しかはれない唯の男の子だ」

「……その目は」

 瞬間、建物全体に大きな揺れが生じた。

「それにさ、本物のヒーローっていうのは見ず知らずの他人の為に命を懸けられる人だし、何より、どんな困難もぶち壊す人なんだ」

 笑って、彼は私に話しかけた。優しい瞳と力強い声と共に。

「何が……」

 建物の壁一面に取り付けられた機械が一斉に作動し始め、凍えるほど冷たい風が流れ込んでくる。

『都市防衛機構━━━━起動━━【電磁障壁(エネルギーシールド)】展開━━【念力防壁(サイコバリア)】展開━━計━━百層防衛プログラム展開完了━━飛翔物体衝突します』

 衝撃はない。だけど、君も私も自然と不安はなかった。

「そんな、嘘だ……超人!迎撃の準備ッス!」

「はぁ!?俺がやんのぉ!?」

「あの人に勝てるのはお前だけッス!」

 そんな筈無いって戸田はあわてふためいて、超人はなんか怠そうにしている。

『【電磁障壁(エネルギーシールド)】突破』

 突如として壁の一部の機械に火が着た。

「EMPまで……ダメッスこれ、本気で怒ってるッス」

『飛翔物体【念力防壁(サイコバリア)】96%突破━━停止を確認━━停止をかか確認━━て停止をを━てていしををを』

 その瞬間を私の目は捉えた。一瞬光ったそれは壁を切り裂き穴を空け、斬った壁を内側に吹き飛ばして何かが飛び込んでくる。

 着地した足は火花を散らし、駆動する腕はブレードを持っている。

 私も彼も、その人を知っている。

「うちの息子によくもまぁ手を出してくれたな」

「……隊長」

「分かってんだろォなァ、戸田ァ!」

 最強の肩書きを背負った翔君の父親、雨宮雷蔵さんの背中だった。

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