静寂に倒れる
「まだまだァ!雨宮ァ」
空を震わせた一撃を超人は凌ぎ切った。だがその全身に受けたダメージは今までで一番深刻なものだった。それでもなお動くというのが超人の恐ろしい所だ。だけど、僕だって全ては出し切ったけど、まだ手が無い訳じゃない。
超圧縮した空気の塊を僅かに残しておいた。この空気の弾をさらに圧縮し指先ほどの大きさにしてさっきと同程度の密度にする。後は至近距離で破裂させるだけ。
巻き上げられた瓦礫を蹴って空気の弾を破裂させ加速しながら急降下する。
冷たい空気が頬を切り、白い息は置き去りにした。
「ハァ、クソ、前が」
眼が潰れたか。なら好都合だ!
「ああああああああああああああ」
急に動いたから雫が絶叫マシンに乗ったみたいになってる。でも、これで……。
「……そこかァ!」
直撃寸前、超人の手が面前に迫ってきた。最後の最後で僕を捉えた。あぁ、でも、僕の勝ちだ超人。
圧縮した空気は高温になる。この空気弾ならお前の皮膚を容易く焼ける。
空気弾に触れた超人の肌は燃えカスのように崩れ焼け燃えていく。まるで乾燥した枝のように。
……さようなら超人。
天響をもう一度、次は直当てだ。もう耐えきるなんて真似は、出来ない。
超人の体内で炸裂した空気の弾は衝撃波と共に超人の体を爆発させた。血がどっぺりと障壁にこびりついたとはいえ流石に見るに堪えない光景だったから彼女の目をとっさに塞ぐ。大量の血と肉があたり一面に散乱した。
これで、僕達はようやく最後の敵に勝ったんだ。
全てが終わって、彼は血反吐を吐きながら力無く倒れそうになった。目からは血涙が、耳からも血が流れ出ている。
「ちょ、今倒れちゃダメ!」
私一人で同い年ぐらいの男の子を運ぶのは骨が折れる。それまでに彼の命が尽きないとも限らない。せめてどっちに進めばいいとかあれば良いのだけれど!
「……あれ?」
それははるか遠くから聞こえるサイレンの音。どんどん近くなってきている。彼を助けてもらえるかも……。
強く抱きしめる。彼を抱えて、半分引きずるようにだけど連れて音のする方に向かっていく。
お願い、冷たくならないで、鼓動が消えないで、私、君に生きていて欲しいから。
それは私が罪悪感を抱えたくないからかもしれない。私は悪くないって、後になって言えるようにしたいからかもしれない。
そんな邪な感情全てをぶん投げてただ一つの願いが私の中にはあった。
もっと一緒に居たいって。
奥歯を食い縛る。ただでさえ重い足取りは雪でなお一層。それでも雪を踏み固めて希望に縋る。
「……あ」
赤いランプがチカチカしている。あと少し、こっちに、これでやっと。
「たすけて……彼を助け」
助けを求める私の声は、背後から轟音と共に跳んだ潰れたコンテナに掻き消された。
静かに、跳んだ時の音を響かせながら宙を舞ったコンテナは白と黒と赤いランプが付いた車を潰し爆発した。
「え……あ……」
振り返ってはいけないと本能が告げて、でも確認しなければならなくって。
私は焦りを感じる暇も無く振り返った。そこに、一番見たくなかったものが這いつくばる。
「ま、てよぉ……ヒーローォ」
下半身を失い、左腕を失い、全身の皮膚は剥がれ筋肉が剥き出しになり、それでも骨と筋肉を再生させながら片手で這いつくばり私達を追いかける超人が居た。
全身から血の気が引いていくのが分かった。
その姿を私は人とは呼びたくない。怪物だ。怖い話に出てきそうな人食いお化けとかそういう類の。
全速力で逃げ出す。こんなことになってなお生きている存在に私達が勝てる見込みなんてなくって。
「そいつ置いてけぇえ!」
追いかけてくる怪物から遠くへと。
その時、誰かが私の目の前に現れた。
「もう大丈夫……」
「助けて、彼をどうか助けて」
息が上がって掠れた声で助けを求める。
「うん」
やった、助かった、そう思って振り返る。
超人の動きは止まっていた。
「……」
なんで?
いや、それなら助かるんだけど……。
静かに、彼を抱える私は頭に突きつけられた重い鉄の筒の感触を感じることになる。
「そん声……トップか?」
翔君は言った。誰も信用できない。信じられるのは二人だけだって。
なんで、私は安堵した?その顔が、知った顔っだから?
「余裕がない時に助け船を出されたら、乗っちゃうッスよね」
ああぁ、ぁぁぁぁぁあああああ。
「戸田……」
「一緒に来てもらうッス。御神体さん」




