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異能ある君は爪を隠す  作者: 御誑団子
第一部 流星の君

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34/145

過ちを繰り返す

 蝉の音が聞こえる。

 家の中に熱が籠って、汗が滴る。むせ返るような錆びた鉄の味と匂いが居間に満ちる。

 荒れ果て、誰かが倒れている。

 僕は、僕は、僕は……

 じいちゃんと裕君を刺した奴に猟銃の銃口を押し付けていた。

 僕も、そいつも、血だらけで満身創痍だった。筈なのに、僕だけはまだ終わっていなかった。

「殺さないで、殺さないでくれ」

 僕はそいつの胸を踏みつけて眉間に銃口を向けている。引き金には指を、安全装置は昔盗み見た時に外し方を覚えた。

 後は引き金を引けば、僕は僕自身を守れる。なのに、何かがストップをかけた。

「うぅ」

 撃つなって、何かが言った。

「殺すな」

「殺さないで……」

 ダメだ、こいつは殺さなくちゃ。こんな事を平然と出来るんだから。自分がされる側になったらみっともなく命乞いをするんだから。だからここで殺しておかないと別の場所でお前は人を殺す。

「かける!」

 その怒鳴り声に聞き覚えがあった。じいちゃんの声だ。

 怒鳴り声に我に返った僕は銃口を血だらけの男から外してしまった。

「ぅ、ぅ、ぅうあああああああああああああああああああああ」

 絶叫と共に猟銃を弾かれて僕の手から零れる。顔を殴られて僕は体が宙に浮いて後ろのガラスの扉にぶつかった。砕けたガラスの欠片の一つを男は握って振り上げる。酷く怯えた顔で、僕を見ていた。

「化け物があああああああ!」

 僕は死ぬと確信があった。だって、僕の体はあちこち刺されてて血もいっぱい流してて、この痛みと傷を乗り越えられるだけの気力はもう無かったから。

 ジッと、僕はその男の顔を見ていた。そして次の瞬間、薄紅色と赤の花が咲いた。銃声に気が付いたのはその僅か後だった。

「じいちゃん?」

 銃が飛んで行った方を見るとじいちゃんが拾って引き金を引いていた。僕が近くに行こうとしたらその場で倒れ込んで、傍に行った時には息を引き取っていた。本当に本当の最後の力で僕を助けてくれた。なのに、何でか涙は出なかった。

「警察……救急車、よばないと」

 僕は固定電話を手に取って警察と救急車を呼んだ。

 裕君が外に居る。応急処置しないと。

 救急車が来るまで外でずっと待っていた。家の中は吐いてしまいそうで嫌だったから。

 蝉の音が聞こえる。川のせせらぎが、野次馬の小言が、サイレンが、酷く耳を劈く悲鳴が、いつまでもいつまでも聞こえてくる。

 その日僕の中で何かが失われた。とても大事な何かが失われた。何かを失って、心にヒビが入った。その生涯において永遠に治らない欠陥が生じてしまった。

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