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異能ある君は爪を隠す  作者: 御誑団子
第一部 流星の君

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33/145

Revenge Battle 【次代進化霊長】

次代進化霊長(ニュー・プライミッツ)】ありとあらゆる異能の頂点、例え無意識の内に力を制御して居ようとも人を容易く殺せる殺人鬼ならぬ殺戮鬼へ至る超能力。

 過去の実験において彼の皮膚を傷付けた事は無く、超高温でやっと軽い火傷になっただけらしい。

 熱が唯一の突破口ではあるもののそもそも傷を付けられるだけの高熱をどうやって生み出すか。それだけが僕の課題だった。自分が触れた傍から炭化する武器も視野に入れないといけない。

 幸いあの場にはその条件を満たせる武器が一つだけあった。

 高周波ブレード、本来の使い方は超振動によって切れ味を上げるのだが振動の出力を上げる事で刀身は熱を帯びるようになる。もちろん本来の使い方ではないし、正規品には安全装置としてそこまでの出力を出せないようになっている。しかし、あの仮倉庫に置かれていた装備は違法品、もちろん改造してある。超人に傷を付けられる高熱を出力できる。

 拳銃はむしろ役に立たない。撃っても弾かれる。でも使い時が無い訳じゃあない。ここ一番が必ず来る。むしろ待ち伏せは罠が主要な戦闘になる。

 だから、必然とこうなる。




「ん?は?え?」

 雨宮翔との距離は十二歩ほど離れていた。なのに、ブレードの切っ先が俺に届いた。つかこのブレードめっちゃあちぃ!

 熱、熱か!確かに斬るんじゃなくて焼き切るんなら可能性はある。だが、一体どうやって詰めて来た!

「チィ!」

 油断した、まさか首に一撃貰うなんて。とっさに仰け反ってなかったら首が斬り落とされてたかもだぞ。それに、熱のせいで治りが遅い。再生のコツは掴んだのにこれじゃ攻め切られる。

 距離だ、先ずは距離を取って……。

 とっさに俺は後ろに飛んで離れる。

 詰める方法をしっかりと見て仮定する。

【加速】いや【縮地(ショートワープ)】に近い。でも移動事態は物理的。

「おっと」

 まっすぐにしか突っ込んでこないと分かれば対処は簡単だ。

 再び突っ込んできた雨宮翔はさっきと同じように首を狙う。一撃目で落とせなかったせいでかなり焦っているのか冷や汗をかいて歯を食い縛り眉間にシワが寄っている。

 残念だなぁ、あぁ、残念だ。

 正直もっと食らいついてくれるって思ってたんだがなぁ、雷蔵の息子だし剣術ももっと優れてると思ってたんだが、勿体無いけどもう殺すか。

 一歩引いて横振りの剣を避けカウンターとして拳を振り上げる。

 どう足掻いても避けられない渾身の右ストレート、だが寸前に何か弾力があるものに阻まれた。

 水、いやそれよりも柔らかい。

 次の瞬間、柔らかい何かは炸裂し人を吹き飛ばすほどの風を産み出した。

「まさか異能か!?」

 志波が言っていた。こいつには異能があるって。これか?だが、いきなりなんで……いや、犬猫に付ける首輪みたいなあれはまさか!

「いや異能兵器か!」

 異能を再現した外付け機能、しかも今の事故ってねぇ!ほとんどの奴が事故ってんのに扱えてんのか!

 中身は何だ?気体の粘度を上げる?見えない柔らかい壁を作る?それとも、爆発的な距離の詰め方、空気のクッション、もっと単純な……。

「空気の圧縮、任意の破裂、【空気弾(エアバレット)】だな!」

 空中に飛ばされた奴がギョッとした顔をした。当たりだ!

 空気弾、あるいは空気砲。圧縮した空気の弾を放ち破裂させるシンプルゆえに再現しやすかった異能だ。

 ネタが割れればこっちのもん、なんだが不可視となれば一筋縄では行かない。発動のタイミングも弾が今何処に有るか一切が分からないんだからな。

 となれば、発動のタイミング、何か分かりやすいアクションが……、駄目だ情報が少なすぎる。

 視界がゆっくりに見える思考速度の中で、奴が空中で高周波ブレードを投げてきた。いきなりだったから虚を突かれたが片手で簡単に弾ける。

「おいおい唯一の得物を投げるのか?丸腰だぞお前」

 拳は多少焼けるが致命傷を負わなければ問題はなかった。

 奴の腰から大量の火花が散り始めるまでは。

 鉄が削られながら耳をつんざく不快な音を発し、腰に付けた装置は何かを急速に巻き取っていく。

 ライトに照らされてチラリと光る空中に直接引かれた線を見る。

 ワイヤーだ。

 巻き取られたワイヤーはブレードに繋がってんだ。投擲した物を回収して……いや違う。

 奴が空中で回りだした。空気弾を複数爆発させ勢いを生む。それは、まるで鞭を持って舞っている。鞭を持って……。

 背筋を走る悪寒を感じた。呼吸が乱れて大量の白い息を吐き出した。

 俺は即座に下がって距離を取ろうとして、何もかもが遅かった事に意識が向いた。

 一息の後、奴は伸びたワイヤーに波を作り先端を揺らす。鞭の先端は上手く扱えば真空を生む速度、音速に匹敵する。もしこのワイヤーも同じ速度が出せたのなら?そりゃあ、どうなるかなんて想像付くよな?

 俺はとっさに右に避けて、左腕が瞬間的に切断された。骨も皮膚も焼き斬られた。気付いたのは痛みが走ってから。悲鳴は上げなかったが悶絶はした。

 また鉄が削れるワイヤーを巻き取る音が聞こえる。流石に何回も出来ることじゃねえよなと思いながら雨宮翔に目を向ける。右手にはブレード、恐らく左手に空気弾と予備のワイヤー操作、分かる、俺には今の状態の奴がもっとも強いって。

「は、はは、ははははは!これだこれだよ!これが俺の欲しかったもんだ!これが俺様の探し求めた戦場だ!」

 斬られた傷口が激しく痛む、失くした腕の痛みが蠢く、これ、この痛み、この窮地、つか追い込まれてる!

 やっと、やっと俺は、全力で戦える相手を見つけたんだ。




 別に同情して欲しいと思ったことはねぇ。人を殺して、数多の悲鳴を聞いて、俺様はただ何も感じなかった。人の心が無かった。

 とにかくつまらなかった。何もかも、生きる事さえも。このままいけば俺様は退屈で死ぬだろうなってそう思った。比喩じゃない。本当だ。死んだ方がマシだって思える程この世界には何もなかった。

 街の裏道、ヤク中とかギャングとかホームレスとかが毎日一人以上死んでいくような環境で街の雑踏を聞きながらそう思った。

 そんなある日になんか偉そうな黒スーツの男二人組が俺様の元を訪ねて来た。

「……これ、君がやったのかい?」

 それは一カ月前の新聞の記事。そこには俺様が活躍した事件が大々的に載せられていた。

「そうか、なら私達と一緒に来てくれるかい?」

 そう言われて俺様はどこかの研究所に半ば監禁された。

 大人は俺の髪の毛や唾液を採取して大喜びしている。何がそんなに嬉しいのか知らねぇけど。でもそこは今までよりも多少は暇を潰せた。

 用意された知恵の輪百個を解き、高性能AIとの数多のスポーツ対決、学校行ってねぇから文字覚えたり、今までよりは楽しかった。ただ、一月経つ頃には飽きた。ていうか全クリした。知恵の輪はなんかいい大学入ってた奴らが用意した一個しかなくなったし、スポーツ対決はAIが俺の動きに付いてこれず、勉強はあらかた覚えた。全言語を読み書き喋れるようになったし。

 そこで俺様がハマったのがゲームだった。探索したり強い奴と戦ったり、死んでもまた挑んだり。多分身体能力が操作キャラとプレイヤーでイコールじゃないから楽しかった。全裸プレイとかよくやった。その方がハラハラして面白かったから。多分半年は持った。でも飽きた。全部やれる事やって退屈になったから。

 また、死にそうな日々に逆戻りした。

 つまらない。

 何をやっても大体上手くいく。二回やればそこらの連中より上手くやれる。三回やれば俺様より上手い奴はいなくなる。

 真っ白な部屋の真っ白な床に頬を擦り付けうつ伏せになってふて寝するのが俺様の日常。そんなある日、俺様の部屋に誰かがやってきた。だだっ広い部屋だったからまぁいいんだけど。

 そいつは知恵の輪に苦戦するし、体を動かすのはダメダメだし、勉強もある程度学はあるのに嫌っているし、もしかしてこれが普通なのかって思いながら過ごした。

 毎日毎日寝る時間になるとすすり泣いていた。ごめんなさい、ごめんなさい、お父さん、お母さんって言いながら。

 可哀そうとか思わなかった。人殺したんだ、ふーん。ぐらいしか。

 ある日そいつがゲームに手を出した。操作ムズイと言い、仕方がないから横である程度教えてやりながら見ていた。最初の難敵を倒してそいつは初めて笑った。手に汗握ってやった、やったと言いながら俺様の方を見て笑った。

「やったよ!」

「あぁ、やったな」

 別に俺様は楽しくはなかったはずだ。でも自然と笑っていた。

 非人間の俺様に初めて友人が出来た。

 それからも俺達は一緒に過ごした。そこそこ長く、仲良くやってた。

 それでも退屈に感じる日はあった。日常の合間合間に虚無を感じる瞬間があった。でも、大人しくしておく事がきっと大事だと思っていた。寝ていればいいとそう思っていた。

 そんなある日、やっと俺の研究成果が出そうだと誰かが言った。はぁ、それで?

「貴方の体は人類の役に立つ!貴方は生きていて良いのよ!」

 …………は?なんだそれ?

 それはまるで今までは生きてちゃダメだと思ってたみたいな言い方だった。人類の役に立つのは良い。生きるのも別に良い。ただただ、お前たちの承認が無いと生きてちゃダメだって言うのが酷く気持ち悪いと感じた。

 今まで感じた事の無い不快感、よく見れば小太りの不細工女がよくもまぁ言えた。

 あの瞬間から俺様は嫌悪感を抱いた。でも何に、何でと問われると分からない。だから一回この気持ちは呑み込んだ。

 翌日の朝吐いた。ゲロもだけど、あの時感じた嫌悪感を支配者ぶってる大人共に喚き散らした。

 子供の戯言と切り捨てようとしたあいつらに一言吐き捨てる。

「どうせ俺らの事モルモットかなんかだと思ってんだろ?だから生きて良いなんて言えるんだ。だから今から……」

 血の気が引いてくあいつらの顔は酷く気分が良かった。さて、こんな事言ったしすぐにでも殺処分だろうな。そう思って同室に居たあいつに面白い事を提案する。

「ここ、ぶっ壊して出てくか」

 そいつは苦笑いをして悩んで、一つだけ聞き返した。

「日本のたこ焼きに興味ある?」

「何それ」

「おいしい食べ物」

「……いいねぇ、ここの食い物味気無くて飽き飽きしてたとこだ!」

 俺様達の行き先が決まった。

 その日、研究所をぶっ壊した。今でも夢に出る初めての鏖殺、血が沸き肉躍る。飛び交う弾丸を避け続け硬いヘルメットの上から頭蓋を砕いた感触、自身の命を顧みず特攻を仕掛け爆発する男、臓物を素足で踏み潰した触感、全てが初めての快感だった。

 今でも覚えている精通したあの感覚。

 なんだ、人生楽しむならこの方法があった。絶対的な悪、物語のラスボス、強い奴が俺様に挑んでくる環境を作れば退屈しないで済む。

「なぁ!志波!二ホンには強い奴いるか!?」

「分かんないよ。でも世界中に居るんじゃないかな?」

「そっかぁ、なら楽しみだな!」

 命一つも残らない血の道を俺様達は歩んで行った。あぁ、楽しみだ楽しみだ。でも、世界は思っていたほど面白くなかった。どいつもこいつも弱っちぁ雑魚ばっか。志波に最近弱くなったと言われる始末だ。ちげぇよ、圧倒的な力があるとあいつら勝つ為じゃなくいかに上手く負けるかにシフトすんだから仕方ねぇだろ。手ぇ抜かないと守ってばっかでつまんねぇ。ギリギリを演出して、勝てるかもって思わせねぇと全力出してくんねぇの。だから仕方ない。

 こんな、人生の半分が暇の一言で表せるのが俺様のつまんねぇ過去だ。




「おらぁ!もっともっとおどれぇ!ヒーロー!」

 心の高揚と共に手加減(リミッター)が外れていく。熱が内側から湧き上がってくる。

 良いんだよな?良いんだよなぁ!?もっともっと求めても!

「俺様を楽しませろぉ!」

 戦場は空中へ、空気弾を奴の近くで破裂させ無茶苦茶な軌道で跳んでワイヤーで縦横無尽に翔け回る。

 こうなったらただのシューティングゲームだ。俺様は地上からコンテナを投げまくる。

 恐れるべきは高周波ブレードの高温とワイヤーを使った中距離戦闘だ。鞭のようなしなる攻撃は連続してできない。だが雨宮翔は接近戦闘に織り交ぜて使ってくる。下手に距離を取れば切断され、詰めても高熱の刃はダメージがある。一番の問題はこの一撃離脱(ヒットアンドアウェイ)戦法だ。無茶苦茶な機動能力で縦横無尽に跳んで補足させず死角から攻撃、もしダメージを与えられなかったら鞭の攻撃を織り交ぜながら痛手を負わせつつ下がりまた消える。今の装備を最大限使える戦術に舌を巻く。特に異能を攻撃ではなく防御と加速、機動力にあてがったのは感服だ。何かの参考に出来るかも知んねぇ。

 それで、どうする?どう攻略する?冷静に何が一番邪魔で何を一番最初にすべきだ?

 辺りを見渡す。コンテナ……遮蔽物が多い。そうか最初からこういった戦い方をするつもりでここを選んだのか。なら、コンテナを全部ぶっとばす!

 俺様はコンテナを一つ掴んで振り回して他のコンテナをぶっとばした。瞬間、コンテナの間から何かが出てくる。それは野球ボールほどの小さな丸い……

「爆弾!?」

 細い糸がコンテナに繋がっていて、コンテナが飛んだ拍子に爆弾から糸が外れ激しい光と熱を生み出す。

 無数の火花と延焼が俺様に襲い掛かってきた。

「あっつぅ!」

 あっつ程度で済んでねぇ。爆発には耐えられるが熱にを耐えるには耐性が足らなすぎる。体の表面が一瞬で焦げていく。

 熱い、熱い、熱い。なのに、体の中の熱の方がまだ燃えていた。




 テルミット爆弾が超人を焼いてく。高周波ブレード以外であの皮膚を傷付けられる攻撃手段。

 激しい光と炎が絶え間なく焼く。

 油断はできない、だが、これで仕留められなければもう手段は……。

「ッ!?」

 光の中で動く人影を見た。

 一歩、また一歩と光の中をこちらに向かって歩いてくる。

「……」

 超人だ。

 火だるまになり未だ燃え続けるその男は全身が燃え、ほとんど炭になっていた。

「これで生きてんのか」

 ブレードを投げ首を刎ねるようにワイヤーに波を乗せる。

「…………あ"ぁ」

 瞬間、炭だったはずの超人は頭から順に元に戻っていった。

「なぁっ!」

 右手で塞いでいた口を開き空気を吸い込んでいる。

「肺が焼けちまうかと思っちまったぜ、なぁ!」

 鞭のようにしなったブレードは首を斬る事無く空を掠り、屈んで避けた超人は一足で距離を詰める。

「もっとだ!もっとぉ!」

 瞬間、ありえないものを見た。振り上げた切断された筈の左腕が生えてきたのを。

 それはどう取り繕ってもあり得ない。切断された腕をくっつけるならまだ【再生】の範疇だ。だけど生えてくるのは全く別、例えるなら【修復】や【修繕】に近い。なぜならば、失った手足を生やすという異能は、失った機能を取り戻す異能と言えるから。

 僕は思い違いをしていた。超人と言えど人の能力の延長線上の存在だと思っていた。でも違う。超人は文字通り、人の範疇を超えた者。常識なんて最初っから通じなんてしなかったんだ。

 面前に迫る拳を空気弾がクッションになって止める。

「またか!」

 この防御法がある限り超人の攻撃は……

「いい加減……」

 地面に足を付け、腰の入った重い右ストレートを打ち込む。

「邪魔なんだよ!」

 背筋に悪寒が走り僕はとっさに右に避け、そして予感通り空気弾は超人の拳で破裂した。

「さぁ、こっからだ、殴り合うぞ!」

 殴り合う訳ないだろ!簡単に死ぬぞ!僕が!

 とっさにワイヤーを巻き取ってブレードを手繰り寄せる。

 周囲のコンテナを飛ばして更地にした事で持ってきた罠の七割は消えた。となれば、残った罠はあれしかない。

 むしろ今の今までの行動で超人の弱点が一つ判明した。

 空気弾の瞬間的な爆風で距離を取り仕切り直す。

「逃げんなよ」

 詰めてくるなよ。でも追いかけては来い。最後の罠に誘導してやる。

 何度も空気弾を破裂させて距離を取る。その後を超人が追いかけてくる。

 途中、高台と同じ高さまで飛んだ。視界に彼女が映る。今にも泣き出しそうな顔をしていた。

 ごめん。本当にごめん。でも勝つから。絶対に。

 一瞬気を取られた隙に超人に距離を詰められる。本当に迂闊だった。でもまだ……。

「せっかくのバトルに他所見てんじゃねぇよ!」

 奴の蹴りが空気弾のクッション越しに直撃する。衝撃は確かにあったが軽い。あくまで超人比だけど。

 飛ばされた先にあったコンテナに背中からぶつかる。受け身は取れたが明らかに足の骨が折れている気がした。今日何度目だろう骨が折れるの。

 口の中にも錆びた鉄の味がする。吐き気がして胃の中の物を戻すと真っ赤な血ばかりだった。

 一撃、一撃貰っただけでこの様だ。あれがどれほど危険か良く分かる。

「終わりか?」

 超人が俺の目の前に降り立った。

「……そんなわけ」

「なら立ってくれよ。やっと熱くなってきたんだ。ほらはよ」

 人散々ボコってんのに立てとか血も涙もないの?

「……で?ここには何があるんだ?」

 ……あ。

「ワイヤー、なるほどなぁ、また罠か。でもよぉ、この距離ならお前も巻き添え喰らうんじゃねぇか?」

 超人が張られたワイヤーを引っ張り爆弾のピンを抜く。

 その瞬間……

「あぁ?」

 僕は勝ちを確信した。

「これは!」

 真っ白い煙が瞬く間に周囲を埋め尽くす。爆発したのは

「スモークグレネードか!」

 煙幕が僕達二人の視界を奪う。でも、超人の耳ならエコーロケーションをやってのけるかもしれない。だから、コンテナに仕組んだもう一つの罠、糸に取り付けられた重りが落ちてそこらじゅうで大きな音を発生させる。

 視界を奪い、音で撹乱する。そうすれば例え超人であっても僅かに隙が出来る。僕は来ることが分かっていたから身構える事が出来る。後は、お前を、殺すだけ!

 煙の中に身を潜め、とっさに背後に回る。腰のホルダーから拳銃を取り出し、攻勢に出た。

「どこにい……むぐ」

 超人の口に拳銃をねじ込み押し倒す。絶対に外さないために。

 超人は火花の柱が昇った爆弾の爆発の中、口を塞いで出てきた。つまり、肺などの呼吸器官や食道、おそらく内臓も外皮よりも熱の耐性も無いし固くない。

 そして、口の内側、鼻腔あたりから脳に向けて数発弾丸を放てばその頭蓋にだって穴は空く!

「これで、終わり……」

 安全装置を外して引き金に指を掛ける。その時、視界が歪む。


 ……蝉の音が、聞こえた。

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