表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異能ある君は爪を隠す  作者: 御誑団子
第一部 流星の君

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/145

望郷

 眩く光る白金とダイヤモンドの指輪、白熱化したその指輪は瞬きの後に爆発する。

 しかし僕が瞬きをするよりも早く音速の瓦礫が指輪を弾き飛ばした。飛ばされた指輪は外に放り出され、瞬間空気を震わせる大爆発を起こした。

「きゃあ!」

 爆発する寸前、飛び出した雫を抱き寄せてた必要性は無かった。

「……裕君」

「無事か?」

 瓦礫が飛んできた方を見るとふらふらになりながら壁に縋って立っている友達の姿があった。脂汗を滲ませ苦悶の表情を浮かべ、それでもなお僕達を助けてくれた。

「……あぁ、ダメだ限界だ」

 壁を伝って倒れる裕君とほぼ同時に僕の視界は暗くなっていった。

「翔君!」

 誰かの叫ぶ声が聞こえた。ダメだ、死ねない。死んだら約束を……。

 僕の意思とは裏腹に体はもう限界を超えていた。




 蝉の音が聞こえる。ノイズにも聞こえる鳴き声が聞こえる。

 木々は静かに揺れ、川のせせらぎが心を落ち着かせる。燦々と照り付ける太陽は舗装された道を熱し蜃気楼を起こしてまるで水面の様に揺らめいていた。

 ……僕は帰路を歩く。何もなかったように、いつもと変わらないように。それが僕の日常であってほしかった。いつか旅立たなければならない故郷であったとしてもそこは僕の拠り所であった。ここがある限り、決して落ちる事の無い居場所……。

 赤い瓦の平屋建て古民家。隣の長屋には釣り具や農機具が置かれている。

 僕の育った家だ。

 心躍る。いつぶりだろうか、この場所に帰ってきたのは。違う。

 玄関の戸に手をかけて開く。そこには父さんとじいちゃんが居る。僕の、僕の変わってほしくなかった日常が待っている。

「ただい……」

 爺ちゃんに昔言われた。挨拶をするときは元気良く大きな声で。だから帰ってきた時も大きな声を出した。でも、そこにじいちゃんはいなかった。

 薄暗く血塗れの土間、その部屋に一人誰かが立っている。全身が黒くて影に覆われた誰かは僕を見るや否や狂気的な目を向けてくる。その手には刃物が握られて手も刃物も血に濡れている。

 手が伸びる。僕は動けない。どうしてと言われると分からない。でも、この手に掴まれるのだけはまずいって、そう思った。

 でも手も足も動かない。叫ぶ事さえできない。ただじっと、迫りくる掌を見つめる事しか出来なかった。

 五指が僕の顔に触れた。

 そこで僕の夢は終わった。




 目が覚める。知らない天井が広がっている。保健室だろうか。

 全身に走っていた激痛はいつの間にか引き頭が冴えていた。まるでしっかりと睡眠をとった後みたいに。

 いや逆だ。頭は冴えているししっかりしている。でも体は鉛のように重い。起き上がるのも一苦労だ。

「調子はどうだ?」

 声をした方を振り向くとぐったりしているならず者達のリーダーが居た。

「少し、体が重いくらい……」

「本当に少しか?」

 ……疲労感と言うのだろうか。正直、少しどころの問題ではない。

 でも、動かなければ。

「動けないほどでは無いよ。大丈夫」

「……そうか」

 見抜いているんだろうか、それとも……。どちらにせよ超人の危険性が未だ取り除かれていない。その時点でジッとしているわけにはいかない。

「気遣いありがとうございます」

 保健室のベッドから降りると誰かが咳込んで話に割って入った。

 隣のベッドの上で横になっていた裕君だった。布で遮ってあったから気付かなかった。

「休んで行けば?顔色悪いぞう」

「……いや、大丈夫」

「「……」」

 もし、もしも僕の考えが当たっていればすぐにでも超人はここに来る。

 ……あれ?

「今何時?」

「九時」

「寝てたの三十分ぐらいだぞ」

 ……いや、それならもう来ててもおかしくない。探知系の異能や装置は使っていない?

 ならなんであの時……志波は僕達の居場所が分かったんだ?

 ならここに居ても……でも、嫌な予感がする。

「……何か難しい事考えてんな」

「あ、いや、その、……ここ離れた方が良いよなっておもってて……」

「今日一日なら何とか説得するからさ」

「休んで行けばいい。聞いたぞ、超人の事」

 有名人だな超人。まぁ、日本初の最高位を送られる予定だった異能者、有名じゃない訳が無い。

「……そう、だね。うん。今夜だけなら……」

 なら雫にも伝えないと。今日の夜は安全かもしれないって……。

 その時、扉を誰かが力強く開いた。

「おい!怪我人が居るんだ……」

「か、翔君ッ!」

 飛び込んで来た雫がそこに、その手には通信デバイスが握られていた。

「君にって、爆弾魔のやつの」

 簡潔に彼女は伝えた。僕宛に、爆弾魔のに通信が入ってきたと。

 僕は急いで通信デバイスを受け取って首に装着した。

「誰だ。超人か」

『いいやぁ?まぁ、トップで通しているよ。そう呼んでくれ』

 変声機の低い声が聞こえてきた。だが男という事だけは分かる。

「で、そのトップが僕に何用ですか?」

『交渉だよ』

 彼が話をしている隙に通信デバイスの中にあるデータを取り出そうとしたが何にも入っていなかった。ただ持たせていただけ。

『君は【念力場】【蓄電】【爆弾魔】を倒して見せた。爆弾魔はかなり不安定な精神状態だから簡単だったかもしれないけどね』

 監視?いや、通信デバイスの位置情報か。動いていなかったから。

『だがそれでもただの一般人が倒せるほど弱くない。君の強さはかの最強、雷蔵に匹敵する』

「買い被りだよ」

『そんな事は無い。超人は最初手を抜いていたんだよ。雷蔵と戦う時にね。悪癖さ。手を抜く事で死線を潜るギリギリの戦いができるから。だが、超人に火を着けたのは君だ。凡人でありながら自分に喰いてくる君に執着している。ここまで言えば分かるね?』

 位置情報……あぁ、なるほど。

「超人に僕がここに居るって教えるって事か……」

『察しが良い!さすがは君だ!』

 ……ん?

『それでだ、例え君でも超人相手では勝てないって分かるだろう?だから、もし戦いたくなければ彼女を差し出してくれ』

「断ったら?」

『予想ぐらいできるだろう?君は、賢いんだから』

「……」

 生きた心地がしない。僕が何かを選択しないといけないなんて……。

 なのに、こんな時に彼の言葉を思い出した。

 人生は長い。これから数多くの選択と決断をしていくだろうけど、決して、何も選ばず、何も決めない、そんな馬鹿な事だけはしないように。と。

 未来予知でも持っているんだろうか。あのホテルでコピー能力を持っていると言ったカンナギは。

 でも、うん。何も選ばない。何も決めない。それだけは絶対にしない。

「分かった」

 ガタンと保健室から大きな音が響いた。

『交渉成立だ。では今すぐに……』

「ただし、条件がある」

『……いいだろう。聴こう』

「場所と時間を指定させてくれ」

『……あぁ、なるほど。いいよ』

「場所はここから離れたコンテナヤード。一時間後に」

『分かった。周りには迷惑かけたくないからね』

 バレてたか。

『それでは一時間後に』

 通信が切れた。

 僕は顔を上げ真っ直ぐに雫の顔を見る。

「いったいどういうつもり!?」

 その声は酷くくたびれていた。あぁ、リーダーさんか。うん。怒るのも無理はない。でも今は……。

「雫。僕は君を守る。何があっても、必ず。だから」

 眼を見て真っ直ぐに、真摯に誠実に。君を裏切らないと示さないと。

「僕を信じて」

 彼女は少し迷って考えて、覚悟を決めたように顔を上げた。

「約束、覚えてる?」

「覚えてる。死なない、でしょ?」

「うん。だけどもっと大事な約束をして欲しい」

 小指を僕の前に出して来る。

「帰ろう。一緒に。最後には笑って家に帰ろう」

 ……彼女は何処まで僕の心を見透かしているんだろうか。蒼く光るその眼はまるで僕の心を掌握しているようだった。

 帰ろう、か。家吹っ飛んだんだけどね。でもこの約束は物理的な帰るではなく精神的な帰路の事だ。

 望郷、今、僕達の心はその思いで繋がっている。

「うん。約束」

 彼女の小指に僕の小指を絡ませる。

 さぁ、やる事は山積みだぞ、雨宮翔。

「裕君!」

「へぇッ!」

「病み上がりで申し訳ないけど、手伝って欲しい事があるんだけど」

「……えぇ、めっちゃ満面の笑みじゃん」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ