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異能ある君は爪を隠す  作者: 御誑団子
第一部 流星の君

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27/146

何の為に

 オレは、わたしはいじめられていた。

 友達も居なくて相談できる人も居なくてただ一人孤独に耐えていた。女の子のいじめってとっても陰湿で、残酷。トイレに閉じ込められて水をかけられたり、いじめの対象の全裸の写真をそういう趣味の人に送り付けたり、上履きの中に画びょうを入れたり、色々。一番酷かったのはいじめの主犯格の彼女達がネット上で集めた人達の中に私を放り込んで最中の出来事を動画で撮った事。あれだけは流石に事件になった。

 それでも私をいじめた彼女達は未来ある若者だからって理由でやり直しって名の無罪放免。正直、ふざけんなって思った。

 私も未来ある若者なんですがって。でもわたしの体と心に傷が付くより経歴に傷が付かないようにすることが大切らしい。皆、みんなそうだった。教師も、相手の親も、わたしの両親も。

 わたしって、一体何なんだろう。

 希望は無く、想いと尊厳は踏みにじられて、未来は歩む事が怖くなった。

 だから、わたしは最初で最後の反撃に出た。いじめてた彼女達のリーダーはピアノをしていたらしい。だから、彼女の手の甲にシャーペンを突き刺した。いつもみたいに横暴でわたしをいじめてきたその最中に。

 それが良くなかった。

 私の事件の時よりも大事になった。

 今でも覚えている相手の親の言葉……。

「うちの子の手が治らなかったらどうするのっ!?この子のっ、手には貴女より価値があるのよ!?」

 わたしに価値は無いと言い放たれてそれが最後の最後に残った尊厳を粉々に踏み砕いた。

 高校受験は出来ず、そもそもせず、家では厄介者扱い、多額の治療費を請求されてわたしは母と父に睨まれる日々。引きこもってしまった。

 そんなある日、ある記事が目に入った。

【悲劇の中学生ピアニスト、完全復活】

 その時記事に映っていたのはわたしをいじめていたあの女だった。

 ドレスのような服を着飾って、コンクールか何かの賞を取って、まるで幸せの絶頂のような笑顔で映っていた。

「確かに怪我をしましたが、あの時一生懸命に治療してくれた母や支えてくれた周りの人たちに感謝しています。私を傷付けた彼女も反省してくれているといいですね」

 ……わたしは、彼女の言葉で悪と語られた。誰でもない、わたしを追いつめた彼女が自らの口で悪を語った。

 ふざけないで、ふざけないで、ふざけないで。

「ふっざけんなよおおおおおお!」

 何かが壊れた。良心とかそんなものじゃない。これはきっと、人としての当り前、怒髪天を衝くってやつ。

 怒りが憎しみに変わった瞬間だった。そしてその時にわたしは異能を発現させた。触れた物を爆弾に変える異能。好きな漫画のラスボスみたいな異能だったけど、この時わたしは家を爆破させてしまって、両親を殺してしまった。特に何とも思わなかったけど。




 作戦決行の日がやってきた。

 あの女はストリートピアノを披露するらしく外に人だかりができていた。わたし自身外に出るのはいつぶりかな……。

 でも、殺してやりたかった。殺せなくてもその顔面をグッチャグチャに醜くしてやりたかった。他の誰でもない、お前が虐げた女の手で。

 カメラがあった。テレビ局もあった。女性の姿やカップルの姿も。みんながみんな聞き惚れる演奏が雑音に聞こえる。その全員を吹き飛ばす勢いで仕掛けた爆弾を起爆させて気が逸れた一瞬に手に持っていた小さな鉄球を投げ込んだ。あの女の頭上に落ちるように。

 やったって思った。やってやったって笑った。だから、わたしはあの瞬間の光景を今でも思い出す。

 背中が血だらけの男の子が鉄球を蹴り飛ばして大声で「伏せろ」って言ったあの瞬間を。

 皆がみんな伏せる中で私だけ立ち尽くしてしまった。遠くで爆発した鉄球が逆光になって彼の顔を隠す。でも、その瞳だけは変わらずに輝いていた。英雄の瞳、鋭い眼光、見ただけで身が竦む恐怖の目。

 不安と希望を込めて君を見つめる民衆の顔がどんどん安心感に包まれていく。そして民衆のヒーローになった君はわたしだけを見つめてくれる。

 何者かになった気がした。奪われた尊厳が君のおかげで回復した気がした。ヒーローが相対すべき存在、即ち、悪になった。その時にはもう憎しみとか怒りとかどうでも良かった。ただただ、君の敵になれて嬉しかった。

 わたしはこの瞬間の為に生まれたんだ。君の為に、君が為に。オレはヒーローに恋をしたんだ。

 わたしの(ヒーロー)、オレの宿敵(ヒーロー)、だからどうかこの悪行(あい)を受け取ってほしい。他の誰でもないあなたに。

 あの日、わたしに面と向かって言ったあの言葉をもう一度言って貰う為に。

「お前、人の心無いのか?」

 今ならその言葉に良い答えが出来そうだから。

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