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異能ある君は爪を隠す  作者: 御誑団子
第一部 流星の君

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勝機と狂気

 寒い空気の中にあって熱い何かが私の肩から流れ落ちる。

 それが自分自身の血液だと気付くのに時間は必要なかった。

「うっそでしょ、何で……」

 彼は私の皮膚に直接触れないように膝で腕を抑えたりワイヤーで縛ったりして仰向けの私に馬乗りになって拘束していた。

 おそらく、彼が指一つ動かすだけで私の首が飛ぶ。

「分かったの?私の稲妻に」

 真っ直ぐと私を見る瞳が瞬きをした。

「指」

「指?」

 私の焦げた指を彼は指摘して口を開いた。

「電気を操る異能は、発電(つくる)蓄電(ためる)放電(はなつ)、この三つの機能があって初めて使えるようになる。指先が焦げてるのは放電する機能が無いのに無理やり放電したから。ただ、電荷を溜め込む事に特化した体を焼くほどの電撃は高出力じゃないと辻褄が合わない。それこそ、雷のような」

「……あぁ、そう、そういう事」

「加えて、電荷を溜め込むのは骨と血、つまり血液を駄々洩れにさせれば漏電する。これで、あんたはもう異能を使えない」

 指先を見ただけで私の切り札を予測して、当てた。あの一瞬、あの僅かな瞬間に。

「貴女の本当の強さは技術面じゃなくてその観察眼だったのね」

「煽てても何もないぞ」

 私を縛るワイヤーが締められる。

「良い機会だし、僕からも質問がある」

「何かしら?」

「彼女を、楓を捕まえて何をするつもりだ?」

 ……まっずい。私達何も聞かされてなかった。

「さぁ?詳しくは知らないわよ」

 彼が軽くワイヤーを引っ張って私の首が締まる。

「貴方に人殺しが出来るの?」

「やろうと思えば」

 その眼にはすでに覚悟が宿っている。挑発とか本当に不味いかも。

「本当に知らないわ。連れて来いって言われただけなんだから」

「それだけの理由でお前達は彼女の一切を奪ったのか……」

 あぁ、この子、そうなんだ。

「好きなんだ、彼女の事」

 その言葉に僅かにハッとしている。だけども隙を見せない。

 だから追い打ちをかける。

「聴かせてよ。正しく守りたいものを守れるヒーローの気分」

「知らないよ」

 でも私の言葉に一切惑わされない。心が完成され過ぎていて流石に同情してしまうかも。

「好きな人の前で唇を奪われて焦ってるのかしら?」

「何がキスだ、比較的粘膜の薄い場所からじゃないと電気流せないくせに」

 そこまで分かってて……。

「……」

「……」

「お手上げね」

 正真正銘、今の私にこの状況を覆せるものが無くなった。言葉ももはや効かない。

 この気持ち悪いほど高潔で正しい心は正義を体現して揺るがない。

「降参よ、小さなヒーローさん」

「僕は、ヒーローなんかじゃない」

「そう?」

 私は嘲笑と同情、そして期待を込めて呼んだ。

()()()本物のヒーローよ」

「そうだ、だって身を挺して沢山の人をオレの爆弾から守ってみせたんだからな」

 とっさ、彼は顔を上げて私から視線を逸らす。私は目を瞑り自ら視界を遮った。




 直後、僕の背後から叫ぶように呼ばれた。

「避けて翔君!」

 目の前にいきなり現れたのは……ゴムボール。違う、いきなり現れたんじゃない。投げられたんだ、その後ろに居る彼女に。

 仕方なく僕は拘束を解いて後ろに飛んだ。ただ、ゴムボールはよく知る爆発の仕方ではなく眩い光を放って爆発した。殺傷能力の低い、人の目を眩ませる爆弾。

 爆弾……。

「お久しぶり。夏ぶりだな、ヒーロー」

 やっぱり、お前か。

「爆弾魔」

 腰に手を当て、にっこりと笑う女が一人。顔と体だけが取り柄の自己中馬鹿がそこに立っている。

「お前もそっち側か……骨が折れる」

「安心してよ。オレの目的は君一人だからさ」

 僕が目的?

「なんで?」

「……君はあの時ヒーローだった。誰も彼もが君の血だらけの背中を見てでも、安心してた。私は尊厳踏みにじられて殺したい奴も殺せなくてでも君は守った」

「何が言いたいんだよ」

 内心イラっとしてしまう。何かに憑り付かれたように同じ言葉を繰り返し口にする。ヒーローヒーローって。僕はそんな大したものじゃないっての。

「オレな、おれね、ヒーローの事、好きになっちゃったんだ」

 狂気的な笑みを僕に向けて彼女はそう言った

「キモ」

 ……………………あっ。つい本音が。

「…………ひーろー?」

「…………ハァ……」

 まずい、きつい。全身筋肉千切れてて痛いし正直あばらがバッキバキに折れてて呼吸すんのもしんどい。無理にでも動かないと一方的にやられるから動かないといけないんだけど。

「ひーろーはそんな事言わな……」

「どいつもこいつもヒーローヒーロー……、僕なんかがヒーローな訳あるか!」

 怒りと言うより苛立ち、あの夏感じた事が口からだだ洩れる。

「僕がヒーローなら父さんは!?僕は、あの人の足元にも及ばない!理想を押し付けるのは結構だがな他人を自分の価値の物差しにするのはやめてもらおうか!」

 そういう事だろう、爆弾魔。お前は僕を正義に見立てて悪になろうとしている。あの夏がそういう言動だったんだから。

 でも、爆弾魔の顔から笑みが消えることは無かった。

「なんだ知らないんだ」

「あ?」

 爆弾魔の瞳から光が消え、一層狂気を深めていく。

「ひーろーはもう、あんな紛い物超えてるよ?」

 笑いながら、あの夏見た狂気の片鱗が姿を現しだした。

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