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異能ある君は爪を隠す  作者: 御誑団子
第一部 流星の君

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3rd Battle 【蓄電】

 私は降り注ぐ瓦礫に雨を掻い潜る。見れば見るほど【音速直線移動(ソニックレイル)】の持ち主は経験が足らずかつ、怒りで我を忘れている。

 付け入る余地はある。ただ、チャンスを容易く潰せるだけのポテンシャルを秘めたこの異能を相手取るのは骨が折れる、なんてものじゃない。それこそ命を引き換えにしなければ……。

 ……仕方ない。死んだらごめんね、みんな。特に志波ちゃん。貴方要だからね。しっかりしてよ。

 覚悟を胸に、意思を彼方に、私は最初で最後の攻勢に出る。

 空中に居るトリックは分かっている。足に触れた瓦礫を超低速かつ短距離を緩やかに移動させ続けている。それにより空中に瓦礫が漂っているように見える。シンプルだけど賢い使い方。これじゃあ接近戦は出来ない。

 生憎、それほど高くないのが救いかも。出来るだけ距離は近く、瓦礫にぶつからない一瞬の直線、ここと思える僅かな隙間が生まれた。

 右手を銃の形にして構える。指先に意識を集中させる。だけど視線の先に小さな小石があった。別に障害になるとかそういう話じゃない。コンマ数秒後にその小石は彼に触れる。触れればその小石はこの肉体を貫く銃弾になる。

 焦らない、焦らない。コンマ数秒は確かに一瞬だけどこの攻撃にとっては遥かに猶予がある。

 ……本来空気は電気を通しにくい究極の絶縁体。だから電気を操る異能の殆どは体内に留めて置く事しか出来ない。それに電気エネルギーは最も足の速いエネルギー、故に電気系の異能は本来弱い部類の異能。

 だからこそこれを生み出した。究極の絶縁体を貫き草の根のように枝分かれして行くステップトリーダー、目標に到達した瞬間走るダートリーダー、そして体内の電気を吸い取るように一気に走るリターンストローク、この一撃は、私の体で出来る最大の雷撃。即ち、

「落ちて」

 稲妻。

 空気を貫いて轟音を響かせて閃光が走った。電熱が敵を焼いた。

「あがッ……!」

 勝った……万に一つの勝機を掴んで……。

 ハハ、ハハハハハハハ、なんだ私結構やるじゃない。……なんでこれをあの時できなかったのかな。

 まぁ、でも、これで障害は全部取り除けた。後はご神体の彼女を連れていくだけ……。

「まだ……」

 僅かに私は隙を晒した。その隙を目敏く見逃さずに稲妻に穿たれた彼はほんの小石程度の物体を音速で射出した。

 でも、こっちの世界だと意外と有名なのよ?貴方。どうやってその異能を発現させたとか。そう、人を死なせてしまった事とか。

 彼が射出した小石は私の頬を掠めて行った。

「……当てればよかったのに」

「ハァ、ハァ、ハァ……」

 怒りに身を委ねてなお手加減してしまう優しさ、死に対する手元が狂ってしまう程の恐怖、結局の所この二点が私の勝てた要因だと思う。

 地に落ちた彼を見る。瓦礫の山の上で焼けた体を引きずってそれでも私に挑もうとするその姿を見て同情が沸き上がった。

「もう止めたら?」

「ふざけ……んな」

 救いを求めてさ迷う亡者のように、彼は地を這った。

「……自分は……」

「誰も救えないわ、金城裕、だっけ?」

 彼の顔が自分の名前を言われて驚いた表情になる。

「有名よ、サッカー名門校に推薦入学、その後新入生でエース級の活躍、そして、一月前の試合の最後に異能が発現して超ロングシュートを相手のキーパーの命もろとも決めた悲劇」

「…な…えっ……」

「よっぽど強い想いが有ったのかしら?」

 動揺が伺える。

「だから、だから誰かを助けたいのかしら?人殺しじゃなくて、あれはただの事故って、言いたくて」

 彼の脳裏に響く声が容易に予想できる。きっと私と同じだから。

「ま、誰かを救いたいと願うのなら私に挑むんじゃなくてその持ち前の速度で担いで病院に駆け込む方がよっぽど確実だったけど」

 そう、逃げに徹されれば私になす術はない。

「ちが、自分は……」

 でもそれをしなかったのは……。

「優しくて、臆病で、生真面目、そんな貴方が人を殺したという事実に心が持つわけ無いから、私に挑んだんでしょうけど」

 英雄になりたかった。誰かの光になりたかった。そうすればきっと心が救われると信じて。

「身の程を弁えなさい。そんな生き方じゃ長生きできないわよ」

 慟哭が聞こえる。心が壊れる音が響く。立ち直れるかどうかは彼の問題。でも、壊れなければ直らない感情もある。

 ただ、半端な覚悟で人助けはして欲しくはなかった。もし間違えたときどんな行動を取るのか分かるから。

「身の程を弁えるのはどっち」

 その時、異様な寒気が背筋を凍らした。

 聞きたくない声音、戦いたくない相手、だから真っ先に潰した存在の言葉が寒空に木霊する。

「……なんで、生きてんのよ」

 雨宮翔、あの最強の息子、私達ならず者が一番会いたくない怪物が息を取り戻していた。

「……強いから真っ先に潰したのに」

 軽い足取りで外に赴いてくる。まずい、そこまで全快か。

「なるほど、僕を警戒してたのか」

 彼は裕の側に寄って抱えた。

「無事?」

「翔……自分は……」

「ハイハイ、大丈夫そうだね」

 彼の目は優しさに満ちている。

 同時に、私へ向ける視線には怒気と殺気が籠っている。

「リーダーさん、裕君をお願い」

「……あぁ」

 スラリとした体、でも開けた服の隙間から見える体は筋肉質、鍛えている証拠でしょうね。

 そんな彼が、雨宮翔という脅威が私の前に立って面向かう。

「暗殺の手練手管、見事だったよ」

「超人に一矢報いれる貴方に言われたくないわね」

 一瞬も油断できない。気を抜いた次の瞬間私は負けている。確信がある。だって、こうして面と向かって相対しているからこそ分かる威圧感をひしひしと感じているのだから。

「……」

 息を飲む、冷汗が額を流れる、視線を逸らさず、ただ一撃、必殺を撃ち込む隙を伺った。

 先に動いたのは向こう、一直線に突っ込んできた。

「血迷ったのかしらっ!?」

 私に対して接近戦は自殺行為、電撃を喰らってさっきまで死んでいた筈なのに……。

 バックステップで彼の接近を許さない。だって私の本能が告げているのだから。策があるから相手の土俵で戦っているんだって。

 破られる、攻略される。十は離れた年下の子に今まで培ってきた経験と技術が競り負ける。この状況で私が勝てる方法は短期決戦しかない。超人と戦えるこの子は私より遥かに強いのだから。

 稲妻、二発目の準備に入る。

 焦げていない右手の中指を彼に向け先端に集中する。

 さっきよりも距離は短く、かつ即座に放電する。

 電気が枝分かれし到達、体内に溜め込んだ電気は出来上がった道を通り一気に走る。

「落ちて」

 バチバチと音を立てて空気を貫いて稲妻が走った次の瞬間、接近してくる彼に直撃する寸前で地面に向かって落ちた。

「……は?」

 その時、私の視界には一瞬だけ白く細長いものが見えた。

 ワイヤー……。

「しまった!」

 稲妻の対策を取られた。電気が枝分かれする際にワイヤーを置いてあらかじめ電気の通り道を作っていたんだ。だからその後に続く高出力の電撃を地面に逃がして直撃を避けた……。

 なんで!?なんで、稲妻を知ってるの!?

 いや今はそんな事後回し!今ので溜め込んだ電気はほとんどない。なら、後は素手で倒さないと。

 ナイフを構える。けど、遅かった。ナイフを持った手を弾き奪われる。そのまま宙に浮いたナイフを蹴られ肩に突き刺さり、そのまま私は押し倒されてしまった。

 正しく、手も足も出ずにやられてしまった。何も出来ず、何もさせず、彼は戦いに勝ってしまった。

 その瞳に怒気も殺気も宿っている。なのに、それらが燻っている様子だけは無かった。怒りで、殺意で、戦っている訳じゃあなかった。

 その気持ち悪いほど高潔な心に私は負けたのだった。

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