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異能ある君は爪を隠す  作者: 御誑団子
第一部 流星の君

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知らない世間2

 雫を庇う様に前に出ようとして折れた足の痛みで崩れ落ちた。左足に力を込めようとすると激痛で力が抜ける。無意識に足を庇うようになっていた。

 まずい……死ぬ……。そう思った瞬間、山吹色の障壁が僕を守った。

「翔君!」

 抱き寄せられ守られる僕はただ何もできず、状況を見守る事しか出来い。

「いきなり何するんですか!」

 周囲の目は僕から雫へと移る。その眼には僕に向けたものと同じ敵意と同時に困惑も見られた。

 僕は武器を持っている。だから無能力者と判断したんだと思う。でも彼女は違う。今、目の前で、異能を使って僕を守った。その事実をどう受け止めていいのか困ってるんだ。

「おい何やってる!そいつらは見逃せ!」

 僕達の前に立ち塞がっていた女性が声高に叫ぶ。それでも恐怖の色が消えない。彼ら彼女らの表情から、瞳から、僕への憎しみが立ち消えない。

「こいつ異能者狩りです!ここで殺しましょう!」

「両腕ぶっ壊せ!どうせ義手だ!」

「死ね!」

 浴びせられる言葉の数々が心を殺しに来る。謂れがあるならいくらか納得できるけど、謂われない憎しみと敵意は僕の知らない誰かに本来向けられるはずの感情と言葉の筈。疑問を投げかけられる度、暴言を吐かれる度、まるで胸に刃物を突き立てられるような苦しみと焦燥感を抱かせる。

「おい、待て!」

 火の雨が降る。恐怖と憎悪を薪に。

 発火能力は総じて感情を燃やして火を着ける。つまり今この状況は、最悪と言って良い。

 何が悪かったのかと自問する。

 リールを外しておけばよかったと答え、そうしなかった無知な自分を責めた。これは、仕方がないで済まされない。

 でも、何もできない。僕の言葉は彼らには届かず、行動に移す事はこの足が許さない。ただ守られるだけ、それが今の僕に許される唯一の事。

 ……ふざけるな。

 この程度、たかが足の骨が折れた程度で止まるな。僕は何の為に今ここに居る!

 決意も覚悟もあった。なのにこの体は動かなかった。

 思いに呼応するように、雫の腕に力が籠る

「ふざけないで……」

 憎しみではなく怒りを込めて、青い瞳の君は叫ぶ。

「ふざけないで!」

 瞬間、山吹色の障壁が広がっていく。半ドーム状の守りはあらゆるものを拒絶するように空間を押しのけ衝突した無機物さえも中に入れない。押し広げるだけじゃない、半径十メートルほどを更地に変えた。

「ちょっ……」

「さっきから話聞いてれば勝手な事ばっかり!私達が一体何したの!」

 ……おぅ、思ったよりはっきりと啖呵を切った。ただこの一言が相手の頭を冷やすきっかけになる。

「だってそいつ、異能者狩りの……」

 声を上げたのは最初に恐怖を抱いた少年だった。良く生きてたな。

 雫が僕を見て確認を取る。すかさず首を横に振った。

「違うって」

「だったら背中の武器は何だよ!連中も同じの着けてたぞ!」

「本当に?全く一緒だった?」

 やっと会話に入り込める隙が生まれた。僕は腰の装置を外して掲げて見せる。即座に警戒態勢に入られるが、凝視した僅か後誰かが言った。

「糸?」

「あいつらのとは違う?」

 その言葉が恐怖を薄らぐ。僕が敵対すべき存在でない事を自認していく。

「誰だよ異能者狩りとか言ったやつ!」

「全然違うじゃんか!」

「いや、だって同じ奴に見えたんだもん」

 ……うん、もういいや。誤解が解けただけ良しとしよう。

「行こうか」

「もういいの?」

「いい。でもありがとう」

 僕達は最悪の気分で背を向けた。心にしこりが残って喉に言葉が詰まるような感覚。言いたい事があるのにぐっと堪えて。

「……でかい音がして……大丈夫ですか?」

 若い男性の声が聞こえる。でも遠い。多分拠点からの応援だと思う。

「……あいつら……」

「ま、待て、彼らは」

 直感がヤバいと叫んだその瞬間には音の無い威嚇射撃が僕の頬を掠めた。

「止まれ!そこの二人!」

 僕達はゆっくりと振り返る。正直ここから一刻でも早く立ち去りたかったけど威嚇までしたんだから止まるしかない。

「ここまでしておいて言い訳できるとでも思って……」

「先に仕掛けたのはそっち側……」

 踵を返し、呼び留めた誰かを僕達は見た。

 ここは僕の知らない世界。でも、面影はあった。ずっとずっと昔に見た懐かしさの風貌が……。

「……翔?」

「……ぁぁ」

 それは遠い記憶。遠い昔の楽しくて嬉しくて、悲しかった苦い記憶。

「裕君?」

 友達だと思っていた人、別れを告げられずに逃げてしまったあの日、僕を庇って傷を負った君、大事な大事な、僕の親友が立っていた。


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