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異能ある君は爪を隠す  作者: 御誑団子
第一部 流星の君

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寄り添い2

 丸い、背もたれの無い椅子を持ってきて彼女の傍らに僕は座る。

「体調の方はどう?」

 目の周りを腫らしている。誰がどう見ても大丈夫ではないけれど気丈に振る舞おうとする彼女はどこか痛々しい。

 そんな顔しないでほしいかった。

「大丈夫!」

「どこが?」

「えっ……あ、うん」

 スンってなってしまった。

「……泣いてたの?」

「いやこれは……その……」

 顔を手で隠して見られないように、心に浮かんだ悲しさの元を探られないようにと。

 ……人の心に土足で踏み込むような真似はしたくない。でも、それは……それは、僕自身が他人を避ける為の良い訳にしていないか?

 ……今思えば、僕は他人との接し方がわからない。赤の他人や一時の仲なら上手く取り繕えているかもしれないけれど、友人などの親しい仲はよくわからない。

 ……どっちが正しい?どっちが……どうしたら……彼女は笑ってくれる?

 ………………。

 決心は、思いの外早かった。

「僕……に、聞かせて……雫の事」

 誠意を見せるときは相手の目を見ること、見ていることをちゃんと見せること。

 この時ばかりは長い前髪が邪魔だった。だから、授業中に使う質素な黒いヘアピンで前髪を掻き分けて目が見えるように留めた。

「力になりたい」

 初めての事ですごく緊張して、口調もぎこちなかったと思う。

「でも……迷惑じゃない?」

「それ今更……」

「いやぁ、まぁ……はい」

 迷惑と思うなら家が破壊された時点で思っていてください。

「……最初に助けたのは僕だから、最後まで面倒を見る。具体的には雫が安心して笑えるまでは」

 でも彼女の表情は明らかに困っていて、戸惑っていて。

 一瞬、僕を拒絶した。

「いや、私……」

 彼女が何に怯えているのか僕にはわからない。それは彼女だからじゃない。僕が今日まで他人との交流をしてこなかったからだ。

 だから多少強引でも許してください。

 拒絶されても良い。君に嫌われても良い。ただ、笑っていないのは、幸せじゃないのは、何でかわからないけど嫌だから。

 差し出された手を取れない彼女の為に、僕が手を取った。

 怯え、震える、真っ白な手を。

「えっ、ちょっ」

「だぁいじょうぶ」

 そうして僕は考え得る言葉を口にした。

「約束は絶対守る。これだけは僕の自慢なんだ」

 ぎこちないだろうか、不安を搔き消せるように笑う。

「……ぃよ」

「ん?」

「ううん……なんでもない」

 少しうつむいて、覚悟を瞳に宿して顔を上げた雫は怯えながらも強い目をしていた。

「約束……絶対に、死なないで」

 死なないで……死なないで、か。

「うん。絶対に」

 少しひんやりとした彼女の手は僕の手を強く握りしめた。

「全部話す。私の事」

 何があったのか、何処で育ったのか、そして、超人たちとの関係をゆっくりとだが話し出した。




「雫は古い集落の御神体で、雫を狙って来た超人達に襲われて、そして、ずっとお世話してくれた人が逃がしてくれた……、大体あってる?」

「大筋はうん、あってる」

 細かいところまで話すと確実に長くなるから無駄な話しはできるだけ省いて、その上で一時間ほどかかった。でも彼はその間ずっと耳を傾けてくれた。

「征四郎さん、いい人なんだね」

「うん。なんだかお爺ちゃんみたいで……」

「それは……」

 翔君が何かを言いかけて、言葉を喉元で飲み込んだ彼は口元を押さえていた。

「どうしたの?」

「いいや、なんでもない」

 私は首をかしげて疑問を頭に浮かべるも彼は私の小さなモヤモヤを棚上げして話を続けた。

「そっか……というか、三十年以上前から異能者が居たってのは……、ある意味大発見なんじゃ?」

「黙ってた方がいいことっていっぱいあるよね~」

「あるよね~、僕じゃ論文とか書けないし」

 ロンブン?ってなんだろう。

「でも、神様とか巫女として隔離、隠蔽してたっていうのは……守ってたのか、独占したかったのか……両方かな?」

「翔君?」

「あぁ、ごめん。また考え込んじゃった」

 うーん、と彼は呻きながら部屋の中をぐるぐる歩き回り考え込む。

「御神体の奪取、目的、うーん、異能目的、とすれば……何に使用するつもりで?」

 彼の話を聞いて私はひとつの疑問を口にした。

「異能者の誘拐とかって多いの?」

「いやぁ、行方不明者はかなり少ないかなぁ……誘拐は、何件かあるけど」

「あるんだ」

「日本以外の国には兵器として運用してる国もあるんだ。異能兵器、例えば【念力】を持っている異能者を前線に立たせ弾除けにする、とか」

「できるの?」

「念力は動かすよりも停める方が強いからね。何かを弾丸の速度で撃ち出すより弾丸を停める方が……位の低い異能者でも役立てる」

 ゾクッと背筋に冷たいものが伝った。悪寒……だと思う。

「まぁ、この国じゃ人権問題がどうのこうので強制はされてないよ。人の役に立ちたいとか国のために戦いたいって人は別だけど、異能は使えないと思った方が良い」

「そ、そっか、なら、兵器のために誘拐されそうになったとか、そういう訳じゃあ」

「……あぁ~……あああああ!いやぁ?だったら爆弾魔の方が……」

「?????」

 何かひらめいて、疑問が浮かんで、私の話に一喜一憂して見ていて飽きない。というか見てる分には面白い。

「フフッ」

「ん?」

「いや、ごめんね。なんか、君が面白くってつい」

「おも……しろい……だと?」

 見るからにショックを受けている。というかめっちゃ落ち込んでるー!

「いやちが、変人とかそんなんじゃなくってなんかこう、見てて飽きないっていうか……」

「……見てて飽きない……もしかしてあの人も見てて飽きないから構ってくれてたのかな」

「見てて飽きないって罵倒じゃないよねぇ!?」

「そうなんだけど……そうなんだけどさぁ」

 もしかして彼はクールキャラで行ってたのかな?だとしたら見当違いにもほどがある。彼の属性は確実におもしれー奴、だって落ち込んだ姿でこれなんだもの。

「…………か、カッコいいって言われたいんだけどなぁ。もっとこう……なんか無いかなぁ」

「やめておいた方が良いと思う」

 ……なんかやだな。君が他の女の子にちやほやされてるの。

「髪切って、眉とか整えるだけで良いと思う」

「……だけぇ?」

「あと服装と匂い。話し方は……そのままで良い……かなぁ?」

「本当ぉ?」

「たぶん」

 うーん、と悩んでいる。変なキャラ付けしなくてもそのままで良いと思うし。

「……元々何の話してたっけ?」

「……私の誘拐理由?」

「そうだった。それで多分なんだけど」

 楽しい談笑を終え、話の腰を元に戻そうとした僅か後、ここの人達の中ではまだ若い男性が勢いよく扉を開き飛び込んできた。

「二人とも伏せるッス!」

 突如、轟音が鳴り響いた。




 目の前でひび割れ砕けたコンクリートとガラスの破片が飛び散り爆風に似た突風が周囲を巻き込んで人膚を傷付けていく。

 僕はとっさに雫が寝ていた時に掛けていた布団を盾に見立てて彼女を守る。が、無論心許ない。彼女に覆い被さって怪我しないように自分の体も盾にする。

「きゃぁ!」

「大丈夫!?」

 時間にして僅か二秒の出来事、戸田さんの警告も含めると三秒ほど、あまりに唐突な事過ぎて僕も彼女も心臓が張り裂けんばかりに高鳴っていた。

「だ、大丈夫?怪我ない?」

「だい……じょうぶ……」

 数秒見つめあった後、僕はとっさに離れようとして……、ある声を聞いた。

「また来たぜ、最強。今度は最後まで、な」

「超人……」

 その声を聞いた瞬間、雫の目に恐怖が写った。

(雫を狙った超人達)

 その時、確かに熱に似た怒りが沸いた。

「僕が絶対に守る。ほら、約束」

 僕は小指を出して確かに笑った。その顔に、雫はより一層不安そうな顔をする。

「嫌、ダメ……」

 今泣きそうなその顔に触れ、震える体を抱き締めてから僕は一言。

「僕は……約束守るから」

 離れる時、僕の手は滑り落ちる。

「いってきます」

 布団の中から飛び出す。外は瓦礫まみれで廃墟同然だった。

 だけど飛び込んできたであろう窓際に超人と、相対するように父さんがいた。

「さて、やるか、さいきょ……」

 その超人を僕は窓の外に向かって蹴り飛ばした。

「あっ、ちょっ、てめぇ!」




 一面ガラス張りの窓から落下して、途中で壁を掴み壊しながら止まった。

「あぶねぇな!死んだらどうすんだよ……」

 真下を見ると俺がボマーの爆弾で加速して突っ込んで行った時の轟音で野次馬が集っていた。

 早く逃げねぇとガラスの雨が降るぞぉ……お、避難させてる。ここの連中は異能者(俺達)との戦い方を良くしってんなぁ。

「……さぁて、上に登って時間稼ぎを」

 上を向いた瞬間、俺は確かに息を飲んだ。

「何で、てめぇがそこにいる」

 ここは高層ビル、タワーシティと呼ばれるタワービル、高層ビル都市、なら、ビルの高層の外にいるのは飛び降りた人間、もしくは落とされた人間だ。だから……


 ビルに対して垂直に立っている人間は居てはならない。


「ワイヤーで吊ってんのか……」

 最強の男の子供、最強を越えかねない怪物。そう、俺の友は言った。

 だがこいつはそれほどの存在ではないと高を括っていた。だが、今目の前にいるそいつは髪で目元が隠れ陽の影で顔は良く見えない。のに、その瞳の眼光は確かに見えた。酷く強い、殺意を込められて。

「一つ質問がある」

「なんだ?」

「征四郎、雫のお祖父ちゃんは、どうした?」

「殺した」

 当たり前だ。あんだけ強い人、殺さなきゃ失礼だもんな。

「いや、侮辱してる訳じゃねぇんだ。腹の中身殴り飛ばした時も、両腕の骨へし折った時も、あの人は倒れなかった。だから殺した。あんだけの強い意思は尊敬に値する。だろ?まぁ、おめぇにはわかんねぇだろうけどよ」

「そう…………なら」

 確かにそいつは殺意を込めてその言葉を口にする。

「なら死んでくれ」

「やってみろよ糞雑魚野郎!」

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