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異能ある君は爪を隠す  作者: 御誑団子
第四部 青空の瞳

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お墓参り

 正午過ぎ、僕と雫は満身創痍になった父さんを連れて墓参りに向かった。

「では父さんを連れて行きます」

「うむ。終わったらまたここに連れてきてくれ」

「わかりました」

「カエシテ……モウカエシテ……」

「ほら行くよ父さん」

 機械の手足込みで百キロを超える体重の父さんをおぶって連れていく。

 歩いて数分。山に入る道があり、その道を少し進むと森の中に墓地がある。

 道は舗装されておらず、数十年、下手をすれば百数年前からあるその墓地には火葬ではなく土葬のお墓もある。古いお墓などは盛られた土の上に名前が掘られただけの加工されて石が置かれていた。

 うちのお墓は一度掘り返し、新しいお墓に再火葬した遺骨を納めてある。

 ……このお墓に最初に入ったのがお婆ちゃんだと聞いている。

「元気でた?お父さん」

「出たから降ろしなさい。大人が子供におぶられるなんて……」

「なら次は自分の足で登ってね」

 僕達は一度荷物を置いて掃除道具を取り出す。

 僕は一度お墓の前に立って手を合わせた。

 ここにじいちゃんは居ない。魂も今は仏壇に帰っている。それでも僕は口にした。

「お久しぶり。じいちゃん」

 長く、長く留守にしていたから。

「ただいま」




 森の中だし、岩ということで苔も生える。ただ、誰かが定期的に掃除していたのはわかった。思っていたよりも汚れていなかったから。

「ねぇ」

「ん?」

 茎の花を切って長さを調節してくれていた雫が最後の拭き掃除をしていた時に話しかける。

「ここって熊でる?」

「……まぁ、山の中だし」

 と、遠くで猟銃の音が鳴り響いた。

「熊?」

「鹿かシシじゃない?」

 熊は基本人里に降りてこない。この時期なら山の上の方に居るだろうし。だとして出ないとは言いきれないけど。

 そもそも熊なんて出たら警察沙汰だし、猟師が一人で狩ってるなんて危険な真似はしないと思う。しないよね?

「……」

「……もしかして怖いの?」

「……怖い」

 雫は何処か怯えている様子だった。

「昔、熊に襲われた人を見たことあるから。あんな風に人の顔が形容しがたい状態になるのはほら……」

「確かに」

 僕も苦笑いを浮かべて返答した。

 言伝てにじいちゃんから聞いた事がある。人間の指の太さと同じ大きさの爪と人がどれ程鍛えても敵わない膂力を以て頭を狙ってくると。顔の骨は砕け抉る爪は筋肉も皮膚も関係無く裂く。

 人間が生身で敵うことはない。猟銃を盛っても安心は出来ず、罠を避ける知性も持ち合わせている。

 人間が熊を狩る理由は完全な生存競争、熊が増えれば人が減る。人が増えるのであれば、熊を殺さなければならない。この地上における人を補食する獣の一種なのだから。

 だから熊避けの鈴は絶対に付けろ、もしその音に寄ってくる熊がいたなら問答無用で殺せ。

 そいつは人の味を知った熊だから、と。

「……出きるだけ早く下山しようか」

 久しぶりの再開でも生きた人間が死ぬのはじいちゃんも不本意だと思う。

 僕は雫から花を貰い添える。線香を立てて三人で手を合わせた。

 来年も来ます。そう、心の中で呟いて。




 僕達は照り付ける太陽の下を歩く。

 青い空に白い雲が流れ、遠くで入道雲が大きくなっていく。

「暑いね~」

「ね~」

「帰りにアイス買って帰ろっか」

「そうしよう」

 僕と雫は他愛ない会話を続ける。その会話を父さんは後ろで黙って聞いていた。

「……ニマニマしてどうしたの父さん?」

「ん?いや?何でもないぞ」

 黙って嬉しそうにしていた。

 僕は振り返って問いかける。

「父さんは何のアイス食べる?」

「そうだよ。雷蔵は何がいい?」

「私?正直甘すぎるのは好きじゃないが……。塩アイスとかあるかな?」

 塩アイスって結構甘かった気が。いや、塩味はするけども。

 ……まぁ、いっか。

「わかった」

「翔と私がバニラで、裕君は……歯ブラシ味?」

「チョコミントね。ナオはコーヒー味のやつで……谷さんは何が好きなんだ?」

「昨日チョコのアイス食べてたよ。苦い方が好きらしいけど」

「ブラックチョコ好きなんだ……」

 正直、僕は苦いのが得意じゃないからちょっと羨ましい。朝イチで淹れたてのコーヒー飲んでるのかっこ良く感じる。

「じゃあ、私もバニラで」

「良いの?他のあるよ」

「大丈夫だ。二人と同じもので構わないよ」

「……わかった」

 僕達はまた歩き始める。他愛ない話をしながら。

 ふと、足音が一つ消える。僕と雫が振り返ると父さんは足を止めて胸に手を当てて息を切らしているようだった。

「父さん?」

「ん?あぁ、すまない」

 何処か体調が悪そうだった。脂汗を滲ませて無理に笑っているようだった。

「歳かな」

「……どっか悪いの?」

「いや、何処も悪くないよ」

 真っ青な顔はどう見ても大丈夫じゃない。

「「……」」

 僕と雫は顔を見合わせて、そして……

「運ぼっか」

「そうしよう」

 僕と雫は父さんの側によって二人で担いだ。

「え、あっ、ちょっ」

「雫足側ね」

「はーい」

 雫は父さんの足を肩に乗せ、僕は胴体を能力で支えながら持ち上げた。

「怖い!これ転けるって!」

「だぁいじょうぶ!」

「レッツゴー!」

 僕達はムカデ競走の要領でゆっくりと、でも確かに父さんを運ぶ。

「自分で歩けるから……」

「歩けるのと無理して歩くのは違うよ」

 困惑する父さんを尻目に僕は降ろすことはなかった。

「長生きしてほしいんだからさ」

 父さんは、僕の父さんだ。末永く、健やかに生きていてほしいと願うのは当たり前の事。なのだから、何か困っていることがあれば言ってほしい。

「えっほ、えっほ」

「……」

「父さん?」

 父さんは、僕の父さんだ。僕だけの、世界にたった一人のお父さんだ。

 …………たとえ…………だとしても。

「もう少し優しく頼む……酔う……」




「コンビニとうちゃーく!」

 田舎のコンビニは駐車場が広い。これで通退勤時には混むんだから地方の車率は本当にすごい。

「ウッ」

「大丈夫?雷蔵」

「酔った……ちょっと外で休んでおく。買ってきなさい」

「うん」

 結構優しく運んだんだけどな。

 僕達は灰皿が置いてある場所に父さんを置き、コンビニの入り口に向かう。

 と、その時、中から誰かが外に出てきた。

「日本の夏ってもっとあちィって聞いてたんだが?」

「世界的な寒冷化で気温下がってるから。三十年前と比べればな」

「まぁ、カリカリ君うめェし、いっか」

 外に出る前にアイスクリームの袋を破り、中を取り出してかぶりついている……誰か。

 黒い肌、白い髪、真っ赤な、獣のような目。

 その誰かを僕は知っている。

「だぁ、こんな仕事受けんじゃなかった。田舎なんて何もなくてつまんねェし」

「……カイン?」

「んあ?」

 超人、カイン・シュダットだった。

 アイスを頬張る無邪気な子供のような顔から瞬間、戦闘のスイッチが入って快楽殺人鬼の顔に変わる。

「志波」

 僕は雫の足を止めさせ、前に出る。

「言っておくが……」

「わぁってるよ。ほら持ってろ」

 食べていたアイスを投げ渡し、男は念力で受け止める。

 一歩踏み込んで来る。同時、僕は異能を使う。

 次の瞬間、カインの拳は僕の面前に、展開した液体金属と翼を盾として使い防ぐ。

 衝突した衝撃が周囲に響き窓を揺らした。

「ここでテメェに会えるなんて思っても見なかったぜ、雨宮ァ!」

「誰が会いたいかよお前みたいな奴に!」

 浮き上がったカインの顔面に推力を付与した蹴りで駐車場の方に飛ばす。

「いッてェ……異能の使い方に磨きがかかってきたなあん時より強くなってんじゃねェか?なぁ」

「やべっ」

 異能と心は直結している。特にカインはその関係性が顕著だ。

 興奮すれば、テンションが上がれば上がるほど異能の性能が上がる。気分が沈めば性能が下がる。

 人を殺すことに理由と悦を見出だし、殺し合いを楽しむ、人類の天敵。その能力は人間を超えた身体能力及び、進化と成長。たった一人で全人類が束になっても勝てない新人類。

 真罪の一つ、不老不死を体現した人の形をした怪物。

 それが【超人】カイン・シュダット。

「退屈してたんだ。殺し合い()ろ……」

「はいストップ」

 と、その時、さっきアイスを受け止めた男がカインを異能を使って地面にめり込ませて。

 あの男は確か、カインと一緒にいた、名前は確か……。

「何すんだよ志波ァ!」

「なにって、今回の仕事……」

 一息置いて、かつ大きく息を吸って。

「戦闘と殺しは禁止だろうが!」

 まるで親が子を叱るように、響き渡る怒声が身を硬直させた。

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